起業マニュアル
災害補償
はじめに
近年、労働基準監督官が主役のドラマが放映されるなど、労働災害や労働条件といった、働く人に関わる法律に対する意識の高まりが感じられるようになりました。
今回ご説明する災害補償は、日本で労働基準法が制定される以前から、工場法でその前身となる制度が定められていた、労働の基本となる制度です。
災害補償
災害補償とは、被災労働者を救済し、労働者の福祉を図るために、労働基準法 第8章に規定されている制度です。この制度は、事業場内に危険な環境、状態が存在していたために発生した、労働者の業務上の負傷、疾病等はもちろんのこと、使用者に過失が無かった場合であっても、使用者の支配下において発生した災害については、原則として、使用者に一定の責任を負わせている制度です。
【労働者災害補償保険】
災害補償制度は、労働者にとっては生活を補償する大切な制度ですが、一方、使用者側からすれば、負担の大きな制度であると言えます。そのため、「大事故で労働者に万一の事があれば、多額の補償で会社が傾きかねないのではないか」、「自社の財政状況では、労働者への充分な補償は難しいのではないか」と考える使用者の方も多いのではないでしょうか。
そこで国は、この災害補償責任の実効性を確保するため、労働者を一人でも雇用する事業所においては、労働者災害補償保険(以下、「労災保険」)への加入を法律で義務付けています。国に労災保険料を納付することにより、万一の場合には、被災労働者又はその遺族に対して、労災保険から保険給付という形で、災害補償制度で定める補償を行うことになっています。
- ※労災保険については、別レポート:起業ABCコラム/こんなときどうする?「従業員と会社を助ける保険制度:通勤災害」「従業員と会社を助ける保険制度:業務災害」でも説明していますので、併せてご参照ください。
【災害補償の種類】
労働基準法(以下、「法」)で定める災害補償には、以下の種類があります。(これらの補償を行うため、実際は労災保険の保険給付から、下記の補償を行います。)
なお、療養補償を受けている労働者が療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病が治らない場合には、使用者は平均賃金の1,200日分の「打切補償」を行い、その後は補償を行わなくても良い、とされています。
また、障害補償や遺族補償に関しては、使用者が支払能力のあることを証明し、補償を受けるべき者の同意を得た場合には、「分割補償」で6年にわたり毎年補償することができます。
【災害補償と解雇】
会社のために働いていたにもかかわらず、業務災害で働けなくなったとたんに解雇では、労働者にとってあまりに過酷であると言えます。
そのため、労働者が業務上の傷病による療養で休業する期間、およびその後30日間は、使用者の持つ解雇権に法律上一定の制限が課されており、使用者は労働者を解雇することができません(解雇制限期間)。ただし、使用者が前述の打切補償を支払った場合においては、補償がなされたとみなされ、解雇制限が解除されます。
【災害補償と慰謝料】
労働基準法上は、労災保険の保険給付がなされた場合には、災害補償の責を免れる(法 第84条第1項)とされていますが、実際には、会社側に安全配慮義務違反等が見受けられる場合には、労働者やその遺族から、労務不能となった分の逸失利益や、慰謝料等の損害賠償請求がなされるケースもあります。
近年では、業務中の事故によるケガだけでなく、長時間労働や業務における過度のストレスに起因する疾病、過労死等も多く発生しています。負傷、疾病の重大さによっては、多額の補償を会社が負う場合もありますので、安全管理はもちろんのこと、労働者の健康管理に問題は無いか、今一度確認してみましょう。
安全な職場環境づくりが第一
労働災害が発生する背景には、危険な作業手順、危険な職場環境が存在することが多く見受けられます。安全な作業手順を再確認し、労働者に対して作業手順の遵守を徹底するなどして、業務災害から労働者を守るようにしましょう。また、物理的な危険だけでなく、長時間労働や過度のストレスなども含め、職場の危険な状況は改善し、安全で衛生的な環境を保つようにしましょう。
働く人々は、一生の大半を職場で過ごすと言っても過言ではありません。使用者が、労働者の安全と健康に配慮するのは当然のことであり、また、労働者の人生の一部を預かっているという意識で、すべての労働者にとって安全で快適な職場環境を保つようにしましょう。
その上でも、万一災害が発生してしまった場合には、必要な補償が労働者になされるよう、必要な手続きをするとともに、同じような事故が再発しないよう、使用者および労働者で検討するなど、適切な対応をすることで、労使の信頼関係を構築していってください。
【問い合わせ先】
災害補償に関する詳しい内容につきましては、下記にお問い合わせください。
(執筆・監修:特定社会保険労務士 岩野 麻子)
最終内容確認 2013年11月
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