起業マニュアル
障害者の雇用
障害者とは
障害者基本法によると、障害者とは「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にある者」と定義されています。
社会的障壁とは、障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいいます。
障害者が、ごく普通に地域で暮らし、地域の一員として共に生活できる社会を実現するためには、職業による自立を進めることが重要です。「共生社会」を実現するために、はじめはハードルが高いと感じる事業主の方も多い、障害者の雇用について、基本的なポイントをご説明します。
障害者雇用の現状
厚生労働省「障害者雇用実態調査(平成20年度)」によると、回答事業所(5,511社)において雇用されている身体障害者は20,179人、知的障害者は2,438人であり、国内全体では、雇用されている身体障害者は推計34万6千人、知的障害者は推計7万3千人でした。
推計値を用いて分析してみると、産業別では、身体障害者、知的障害者いずれも、製造業で最も多く雇用されており(身体障害者:26.1%、知的障害者:37.9%/全産業を100%とした値)、次いで、卸売業・小売業(身体障害者:同16.6%、知的障害者:同30.1%)で多く雇用されています。
事業所規模別でみると、身体障害者は小規模事業所(従業員数5~29人)での雇用割合が37.1%(全ての規模を100%とした値)と高く、知的障害者は中規模事業所(従業員数30~99人)で同41.8%と最も高くなっています。
職業別にみると、身体障害者は、事務的職業が25.5%(全職業を100%とした値)と最も多く、次いで生産工程・労務の職業(同23.6%)、専門的・技術的職業(同23.4%)の順に多くなっています。一方、知的障害者は、生産工程・労務の職業が同51.9%と最も多く、次いでサービスの職業(同27.7%)となっており、障害の種類で差異が出る結果となりました。
障害者雇用促進法
障害者の雇用の促進等に関する法律(以下「障害者雇用促進法」)は、障害者の雇用義務等に基づく雇用促進等のための措置、職業リハビリテーションの措置等を通じて、障害者の職業の安定を図ることを目的とした法律です。この法律では事業主に対し、毎年6月1日時点の障害者雇用状況をハローワークに報告することを義務づけているほか、以下の制度について定めています。
・障害者雇用率制度
障害者雇用促進法では、事業主に対して、その雇用する労働者に占める身体障害者・知的障害者の割合が一定率(法定雇用率)以上になるよう義務づけています(精神障害者については雇用義務はありませんが、雇用した場合は身体障害者・知的障害者を雇用したものとみなされます)。
この法律では、法定雇用率は、労働者の総数に占める身体障害者・知的障害者である労働者の総数の割合を基準として設定するものとしており、民間企業では、平成25年4月以降、現時点では2.0%、つまり従業員数50人の会社であれば1名の障害者を雇い入れることが義務づけられています。
・障害者雇用納付金制度
納付金制度とは、法定雇用率を下まわっている事業主から、法定雇用障害者数に不足する人数に応じて、納付金を徴収し、それを財源に法定雇用率を上回っている事業主に対して、障害者雇用調整金、報奨金、各種助成金を支給する制度です。具体的には、以下の金額が定められています。
平成25年12月現在は、常用労働者数が200人を超える事業主が対象となりますが、平成27年4月より、100人を超える事業主に適用対象が拡大されます。
障害者の雇用には、作業施設・設備の改善や職場環境の整備など、経済的負担が伴います。そのため、この納付金制度は、障害者を多く雇用している事業主の経済的負担を軽減し、事業主間の負担の公平を図りつつ、障害者雇用の水準を高めることを目的としています。
また、納付金や調整金以外に、障害者を雇い入れるための施設の設置、介助者の配置等についての各種助成金制度もあります。詳しくは、ハローワーク等の窓口でお問い合わせください。
・障害者雇用推進者の選任
障害者雇用推進者とは、障害者雇用の促進と継続を図るために必要な施設・設備の設置や整備、障害者雇用状況の報告、障害者を解雇した場合のハローワークへの届出などを担当する者です。従業員50人以上の事業主においては、障害者雇用推進者を選任するよう努めることとされています。
障害者の雇用を継続するためのポイント
障害者を雇い入れ、継続して勤務してもらうこととなった場合は、障害者への精神的、身体的、経済的な虐待等が絶対に起こらないよう、予防と早期発見のための措置を講じるようにしましょう。障害者の自立と共生のための場である職場で、障害者の尊厳を守り、社会参加が妨げられることのないようにするのは最も重要なことであると言えます。また、プライバシーに配慮することも重要です。特に在職している精神障害者の把握、確認の際には、個人情報の適切な取扱いに留意しましょう。
万が一、どう対応すべきか判断に迷う場合などは、社内で問題を抱え込まずに、行政機関の窓口等を利用したり、障害者の親族と連絡を取り合うことも大切です。アドバイスを受けたり相談に乗ってもらったりと、社外のネットワークをうまく活用していきましょう。
前述の「障害者雇用実態調査(平成20年度)」によると、職場における改善が必要な事項や要望として最も多かった項目は、身体障害者が「労働条件・時間面での配慮(40.4%)」、知的障害者が「今の仕事をずっと続けたい(56.7%)」、精神障害者が「調子の悪い時に休みを取りやすくする(30.8%)」でした。
障害者にとって困った時の相談相手が職場にいることも重要です。これらの要望に、できる範囲で対応できる環境を整備することで、障害者はもちろん、共に働く職場の仲間にとっても働きやすい職場環境が形成されるのではないでしょうか。
【問い合わせ先】
障害者雇用に関する詳しい内容につきましては、下記にお問い合わせください。
(お問い合わせの内容によっては、他の行政機関を紹介される場合もあります。)
(執筆・監修:特定社会保険労務士 岩野 麻子)
最終内容確認 2013年12月
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