起業マニュアル
深夜業
深夜業とは
深夜業とは、午後10時から午前5時まで(特定の地域または期間においては午後11時から午前6時まで)の間における業務を指します。
事務系の職種では、昼間の勤務が一般的ですが、24時間稼働している交代制の工場や医療機関、深夜も営業している飲食店や宿泊施設などの職種では、勤務時間帯の全部または一部が、深夜の時間帯に及ぶ場合が多くあります。深夜の時間帯において勤務することは、人の生体リズムに反し、昼間働くよりも心身に負担がかかると言われていることから、賃金や安全衛生管理において様々な規定が設けられています。
なお、以前は労働基準法により、女性が深夜業に就くことが禁止されていましたが、男女雇用機会均等法の施行や、女性の職域拡大などを経て、平成11年4月より女性も深夜業に就くことが可能となりました。
今回は、深夜業に関するポイントと注意点を、「賃金」と「健康」という2つの側面からご説明します。
深夜割増賃金とは
割増賃金とは、法定労働時間を超えて労働時間を延長したり、休日に労働させた場合に、その時間等について、通常の賃金の計算額を労働基準法で定める率で割増しして計算した賃金であり、深夜の時間帯の勤務についても、割増賃金の支払いが義務付けられています。
法定労働時間外や休日、深夜業務について、事業主に対して割増賃金の支払いを義務付けることで、これらの時間帯の勤務にある程度抑制を加え、過重労働や健康を害する働き方を減らすことを促す効果があります。
深夜割増賃金の額は「通常の労働時間の賃金の計算額の2割5分以上の率で計算した額」とされ、具体的には以下の式で計算されます。また、正社員だけでなく、時給制のパートタイマーやアルバイトといった従業員についても適用されます。
深夜業の時間単価=通常の時間給(単価)×1.25以上
深夜割増賃金の注意点
勤務時間の全てが深夜業に当たる勤務の場合は、「時給単価等が深夜業の割増率をかけた賃金なのか、割増しされていない賃金なのか」がしばしば問題になることがあります。深夜割増賃金を別途支給せず、あらかじめ法定の割増率で計算した割増賃金分を含めた時給を設定している場合は、相互の認識に矛盾が無いよう、従業員に雇用契約書等の書面で周知し、きちんと説明しておくことが望ましいと言えます。
また、在宅勤務であっても、深夜の時間帯に勤務した実績があり、勤務表などの記録がきちんと付けられている場合は、出勤時と同様に深夜割増賃金の支払いが必要となります。
- ※割増賃金については、マニュアル「起業してから大切なこと」の「社内規定の整備:賃金規程」でも説明していますので、併せてご参照ください。
深夜業従事者の労働安全衛生管理
深夜業が心身の負担になる場合があることは既にご説明した通りですが、深夜業に従事する労働者が女性、高齢者や持病のある人である場合、事業主は以下の点についても特に注意する必要があります。
【女性が深夜業に従事する場合】
また、女性に限らず、子の養育や家族の介護を行う一定範囲の労働者が請求した場合には、育児・介護休業法の定めるところにより、深夜業をさせることはできません。
今日の社会では、女性が深夜に働くことはもはや常識的なことになりつつありますが、現実には女性の深夜労働が解禁されてから未だ十数年と日が浅いため、女性の健康や社会生活に及ぼす影響には未知の部分もあると言えます。それゆえ、万一の場合に備え、上記の点に配慮し、未然にトラブルを防ぐことが重要です。
【高齢者や持病のある人への配慮】
近年では、年金受給開始年齢の引き上げとともに、定年年齢も引き上げられたことなどから、60代後半以降も元気に働く人々が多くなりました。
とは言え、60歳以降は体力や気力にも個人差が出てきますし、昼間に睡眠をとることで深い睡眠がとれず、疲労が蓄積・慢性化する人もいます。高齢者に限らず、深夜業の途中に30分程度の仮眠をとるなど、体への負担を減らすような配慮をすることも重要です。また、高齢者の中には持病を抱えながら業務に従事している人も少なくありません。特に脳血管疾患、心疾患等は深夜業に従事することで悪化する場合もありますので、健康診断結果を定期的に使用者が把握しておくことも必要です。
【特定業務従事者健康診断】
深夜業等の有害業務に常時従事する労働者については、配置転換時及び6カ月以内ごとに1回、医師による健康診断を実施する必要があります(通称:夜勤者健診)。
ここで言う「深夜業に常時従事する労働者」とは、6カ月を平均して1カ月当たり4回以上深夜業に従事している労働者を指し、雇用期間や労働時間数について一定の要件を満たすパートタイマーやアルバイト従業員も対象となります。
また、健康診断の結果、異常の所見があると診断された場合には、医師の意見を勘案し、その労働者の事情を考慮して、深夜以外の時間帯における就業への転換、作業の転換、労働時間の短縮などの措置を講じます。
深夜業を上手に取り入れ、ストレスの少ない職場に
深夜業を含む勤務は、深夜割増で計算された給与が発生することから、労働者にとってもある意味メリットのある働き方であると言えます。
しかし一方で、メンタルヘルス不全に陥る人の割合は、深夜業を含む長時間労働者に多いとも言われています。夜勤だけでなく、日々の残業で勤務が深夜に及ぶという人も注意が必要です。
労働者の家庭環境や心身状態に配慮し、心身に負担の少ない労働環境を整備することは、作業効率のアップや、ストレスの少ない職場環境の形成において価値あることだと言えます。
(執筆・監修:社会保険労務士 岩野 麻子)
最終内容確認 2018年2月
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