起業マニュアル
OJTの進め方
OJTの意義
OJTとは、職場内訓練、職場内教育もしくは職場内指導といわれ、上司が現場での実際の仕事を通じ、部下を直接指導・育成することを指します。
上司・部下・同僚が同じところで仕事をする集団執務体制が一般的である日本の企業組織のなかで、上司が部下に与える影響はきわめて大きいものです。上司は、部下に対し、日常的に、不断に、個性に合わせ、きめ細かく指導・育成・評価できる立場にあるといった理由から、OJTは社内教育の基礎とされます。
しかし、その一方で、OJTは、
- OJTに対する認識が、たんに「部下に仕事を教えること」という狭い範疇にとどまっている
- 部下一人ひとりに対し、どのような人間になってほしいのか、どのような業務をこなしてほしいのか、どのような能力を身につけてほしいのか、といった構想・計画が明確でない
などの理由から、その必要性・重要性のわりに期待される効果をあげられずにいるケースが少なくありません。
『OJTに対する認識が、たんに「部下に仕事を教えること」という狭い範疇にとどまっている』ことについては、OJTのイメージが「親切に・丁寧に・つきっきりで仕事を教えること」だということが背景として考えられます。しかし、これだけがOJTの本質ではありません。たんに目の前にある仕事について教えるだけでは本当の人材教育とはいえないのです。
人材が成長するには、
- 経験………仕事を任され、自分自身で努力していく過程で成長すること
- 自己啓発...自己成長欲から、さまざまなことを吸収し成長すること
- 教育………指導され、評価されることによって成長すること
という3つの要素が必要です。
つまり、OJTとはたんに教えることではなく、自己啓発意欲を高め、経験を積むことができるように仕事を任せ、任せた仕事をうまく遂行できるように教え、学習の場や機会を与えることであると理解する必要があります。
また、企業あるいは上司にきちんとした人材育成の構想・計画がないと、部下が上司の指導どおりに努力しても、会社における自分の将来像がみえてこない可能性があります。そのため、努力の方向性がつかめず、自己啓発意欲も失われてしまうこともあります。こうした事態を避けるためには、上司が、
- 部下一人ひとりの能力や適性を見極め、それを伸ばす方向を把握する
- どのような人材が、どこの職場において求められているかといった需要を具体的に把握する
- 「いつまでにどのような人材に育てる」という明確な長期育成計画を策定する
といったことが必要です。
OJTの進め方
OJTは、業務を進めるなかで日常的に指導・育成する教育方法です。指導する上司が多忙な身であることが多いため、その時々の状況次第で進められがちですが、きちんとした目標をもって、計画的・継続的・組織的に行われることが重要です。
1.OJTの基本
OJTの目標は、業務指導と人材育成です。業務指導は、教示したり、模範を示したり、実習させたりするといった方法がとられます。また、人材育成では、権限を委譲したり、自分自身で考えて取り組める機会を提供したり、自己啓発の動機づけをしたりというように多数の方法があります。つまり、
OJTの基本をまとめると、
(1)教える
(2)見習わせる
(3)経験させる
(4)動機づける
という4つの方法になります。
(1)教える
「教える」方法は、もっとも基礎的で直接的方法です。知識・技術・組織内のノウハウ・心構えなどすべてのことがこの対象となります。教え方はその部下の能力や意欲、経験レベルに応じて変えていく必要があります。
(2)見習わせる
「見習わせる」方法は、上司が模範を示し、それを見習わせることによって、気づかせ、考えさせる方法です。上司が率先して業務に取り組む姿勢をみせることによって部下に刺激を与えることは、率先垂範といわれます。会議や交渉の場に同行させ、仕事の仕方や現場の雰囲気を覚えさせる方法もあります。
(3)経験させる
「経験させる」方法とは、実際に仕事を与え、経験や実践を通して技能・技術を習熟させ、知識・能力を確認させ、現場的なセンスや人間関係なども体得させるといった効果を期待するものです。
これは「自分でやり遂げた」という達成感からさらなる意欲を引き出すことにもなりますが、逆に失敗して自信を喪失させる場合もあるため、上司のきちんとした指示・フォローが重要です。
(4)動機づける
「動機づける」というのは、部下に「もっと頑張ろう」という気をおこさせる方法です。業務の計画策定に参画させたり、権限を委譲したりなどと、部下に主体性をもたせる工夫が求められます。また、もっとも単純で典型的な方法として、ほめる、叱るといったやり方もあります。日常よく使われる方法ですが、予想外に影響が大きい場合もあるため、ほめ方、叱り方にはきめ細かい配慮が求められます。
2.OJTを進める前に
効果的で企業ニーズに合った人材育成を可能にするためには、OJT実施の前に、まず次のような準備が必要です。
こうした準備の段階からOJTは始まっており、実際の指導より重要ともいえます。
1)トップ層の理解・認識の確認
2)OJTの必要性を社内に認識させるための研修の実施
3)職場の理解・認識の向上
トップから若手社員まで、全社的にOJTの必要性を認識し、向上意欲と目標をもってOJTが効果的に行えるようにします。全社的な意思統一の機会にもなり、職場の活性化にもつながります。
4)研修体系におけるOJTの位置づけの明確化
5)集合研修(Off・JT=Off the Job Training)との連携
集合研修などと効果的に体系づけ、連携させ、円滑に実施することにより、OJTのみを実施した場合の何倍もの結果を得ることができます。
6)OJTの進行・管理に関する担当部門もしくは委員会などの設置
7)指導を行う上司(管理者・監督者)に対する研修の実施
日々状況が変化する日常業務のなかでは、当初の計画どおりにOJTを行うことは難しく、どのような状況においても方針に沿った実践的な指導ができるよう、きちんとした進捗管理が必要といえます。また、指導する側の体制整備とスキルアップも重要です。
8)OJT実施のための計画書、マニュアルなどの作成
OJTの意義、指導する上司の役割、実施計画、目標、予想される効果、部下の申告方法、評価方法、部下との協議・相談方法などを盛り込み、明確にします。
9)人事考課への反映
指導・育成にかかわる上司の貢献度や、OJTに取り組む部下の意欲や姿勢、成熟度などをきちんと評価することによって、OJTに対する認識を高め、取り組み姿勢を正すことができます。
3.OJTの実施
前述したように、指導方針・方法が明示され、OJTに対する理解が得られたならば、実際の指導に入ります。
どのような業務においても、
- 何を
- どの程度・水準まで
- どのような方法で
- いつまでに
といったことを細かく明確にしてから取り組ませます。
OJTは、その対象となる部下の成熟度・性格・業務の適性・求められる能力・能力開発のポイント、また業務内容・職場環境・業務の緊急性など、すべてにおいて個々に異なります。そのため、実際に仕事を始めてみてから、目標や方法が適当でなかったり、業務内容が変化したり、部下の能力にそぐわなかったりという問題が生じる場合もあるため、つねに報告させ、相談させることを怠ってはなりません。状況に応じ、早急に、柔軟に、適切に軌道修正を行いながら進めていきましょう。
OJTでは日常業務における取り組みすべてが指導の対象です。実施機会としては次のような状況が考えられます。
(1)仕事を企画するときの指導
仕事を企画する際には、部下を意思決定に参画させていく過程で指導します。
(2)仕事を割り当てるときの指導
仕事を割り当てる際には、部下の現有能力よりやや高めの仕事を割り当て、努力を促します。仕事の意義、必要とされる能力、そこで身につけてほしい能力などを明確にし、自覚させたうえで取り組ませます。
(3)仕事を遂行するときの指導
部下の能力を把握し、目標達成のための情報やノウハウを適時・適切に提供するようにします。決裁を求めてきたとき、問題意識をもって意欲的に取り組んでいるとき、仕事のレベルが下がっているとき、態度・行動に問題があるときなど、OJTの機会はさまざまです。注意する、叱る、ほめる、励ますといった行為を効果的に取り入れていきましょう。
(4)相談・報告・提案をしてきたときの指導
ただ聞くのではなく、部下の仕事に対する考え方・意欲・取り組み姿勢・問題意識・仕事の処理方法などを把握し、チェックします。これにより指示・助言を与えたり励ましたりするなどの動機づけができます。相談・報告は部下に現状把握とそれを表現する能力をつける機会にもなります。
(5)仕事が終了したときの指導
結果については必ず意見交換を行い、部下が身につけた知識や仕事に対する意欲・態度などを把握し、チェックします。成果についてはまず評価し、不十分な点については指摘し、さらなる自己啓発を促すようにします。
(6)仕事を離れるときの指導
出張・研修などで仕事を離れるときには、仕事の引き継ぎや報告を通じ、仕事の処理状況や取り組み姿勢を考えさせ、必要に応じて指導します。
(7)仕事を代行させるときの指導
状況をみて、意図的に新たな経験の場を与え、身につけていかなければならない能力を自覚させます。会議や折衝の場に同行させたり、業務を代行させたり、不得手な仕事をあえて代行させたりといった方法があります。
(8)特別な課題などを与えるときの指導
日常業務だけでは十分な成長が期待できない場合、特別な課題を与えて調査・研究をさせたり、勉強会などを開いたりして指導します。これは職場全体に自己啓発の意識を根づかせることにも有効です。
最終内容確認 2018年2月
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