起業マニュアル
中小事業者が受けられる消費税の特例
中小事業者がうけられる特例
消費税の納税額は基本的に次のように計算します。
この通りに計算をするためには、
仕入、売上など取引したものが課税対象かどうかを判断し、仕入、売上などでの課税額はそれぞれいくらかを算出することが必要になります。
そのため、中小事業者が行う納税事務の負担軽減を目的として、次のような特例が定められています。
- 課税の免除
...課税事業者になることを希望しない限り課税が免除される。
対象者:基準期間(*)の課税売上高が1,000万円以下の事業者 - 簡易課税制度
...売上高から仕入にかかった消費税額を推定することができる。
(仕入の消費税額を実際に計算する必要がない。)
対象者:基準期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者
*基準期間...個人事業者 → 前々年
法人 → 前々事業年度
次章から、これらの特例の概要を紹介します。
課税の免除
課税の免除とは
基準期間(1)の課税売上高(2)が1,000万円以下の小規模事業者は、課税事業者になることを希望しない限り免税事業者として扱われます。
(1)基準期間とは
免税事業者の基準期間は次のように定められています。
<基準期間>
個人事業者...前々年
法人 ...前々事業年度
個人事業者と法人では課税期間が異なるため、基準期間もそれぞれの会計期間に沿ったものとなっています。
<課税期間>
個人事業者...1月1日~12月31日
法人 ...事業年度
基準期間がない新設法人(第1、第2事業年度)は、原則として、免税事業者となります。
ただし、事業年度開始の日における資本または出資の金額が1,000万円以上の場合には、課税対象者として取り扱われます。
第2事業年度までと第3事業年度からでは免税事業者の適用要件が異なりますので、間違いがないようにご注意ください。
<免税事業者の適用要件>
第2事業年度まで...資本または出資金額1,000万円未満
第3事業年度から...課税売上高1,000万円以下(原則通り)
(2)課税売上高とは
免税事業者を判定する際の課税売上高は、原則として以下の算式で求められる金額となります。
*基準期間に免税事業者であった場合は、課されるべき消費税に相当する額がないため、消費税額を含む金額で計算をします。取引は、消費税の課税取引、非課税取引、課税対象外の取引の3つに区分されます。
A.課税取引...国内において事業として行われる取引
B.非課税取引...以下の取引
- 土地の譲渡、貸付
- 社会保険医療など
- 居住用住宅の貸付
- 社会福祉事業など
- 有価証券などの譲渡
- 出産費用など
- 受取利子、保険料など
- 埋葬、火葬料
- 教科書用図書の譲渡
- 身体障害者用物品の譲渡など
- 学校などの授業料、入学検定料など
- 郵便切手類、印紙、証紙、物品切手などの譲渡
- 国などが法令にもとづき徴収する手数料など
C.課税対象外の取引...課税取引、非課税取引以外の取引
一般に課税売上高とは、課税取引の売上高からその取引にかかわる売上返品、売上値引や売上割戻しにかかる金額(消費税額を除く)の合計額を控除した残額を言います。また、輸出取引は免税となっています。
課税事業者になるには
免税事業者には、
- 消費税の納税事務が不要
- 売上に課税されるべき消費税が課されない
というメリットがある反面、
- 仕入などにかかった消費税の控除は認められないので、その還付が受けられない
というデメリットがあります。
輸出業者のように経常的に消費税額が還付になる事業者などは、還付を受けるために課税事業者となることを選択したほうがよいでしょう。また、大規模な設備投資などを予定している場合なども、仕入などにかかる消費税が大きくなるため、課税事業者になる方が有利になる場合があります。どちらが有利かを慎重に検討したうえで、課税事業者になるかどうかを選択することが必要になります。
基準期間の課税売上高が1,000万円以下の事業者であっても、「消費税課税事業者選択届出書」を税務署に提出すれば、課税事業者になることができます。
原則として、
課税事業者として認められるのは翌課税期間からとなり、届出書を提出した日が含まれる課税期間は免税事業者のままです。
ただし、
新しく事業を始めた事業者には特例があり、事業を始めた最初の課税期間に届出書を提出した場合は、その課税期間から課税事業者となることができます。
また、課税事業者から免税事業者に戻るためには、「消費税課税事業者選択不適用届出書」を税務署に提出する必要があります。
この場合も、
免税事業者として認められるのは翌課税期間からとなり、届出書を提出した日が含まれる課税期間は課税事業者のままです。
なお、「課税事業者選択届出書」を提出した事業主は、事業を廃止するときにもこの「不適用届出書」を提出しなければなりません。
ただし、
「課税事業者選択届出書」を提出してから2年間(一定の場合には3年間)は、「課税事業者選択不適用届出書」を提出できない(事業を廃止した場合は除く)と定められています。
平成22年4月1日以後につぎの場合に該当するときは、免税事業者になることや簡易課税制度を選択して申告することが一定期間できないことになりました。
(1)課税事業者選択届出書を提出し、平成22年4月1日以後開始する課税期間から課税事業者となる事業者が、課税事業者となった課税期間の初日から2年を経過する日までの間に開始した各課税期間中に、調整対象固定資産の課税仕入れを行い、かつ、その仕入れた日の属する課税期間の消費税の確定申告を一般課税で行う場合
(2)資本金1千万円以上で設立した法人が、新設法人の基準期間がない事業年度に含まれる各課税期間中に、調整対象固定資産の課税仕入れを行い、かつ、その仕入れた日の属する課税期間の消費税の確定申告を一般課税で行う場合
(1)、(2)に該当する場合には、調整対象固定資産の課税仕入れを行った日の属する課税期間の初日から原則として3年間は、免税事業者となることはできません。また、簡易課税制度を適用して申告することもできません。(一般課税により消費税の確定申告を行う必要があります。)
簡易課税制度
簡易課税制度とは
事業者が次の2つの要件を満たしている場合には、「消費税簡易課税制度選択届出書」を税務署に提出して簡易課税制度を適用することができます。
<簡易課税制度適用の要件>
- 課税事業者
- 基準期間における課税売上高が5,000万円以下
簡易課税制度を適用すると、
実際に仕入時に支払った消費税額の計算を不要とし、その営む業種に応じた一定率の仕入があったものとみなして、消費税の納付税額を計算することができるため、納税事務が軽減されます。
納付税額の計算方法
納付税額の計算方法は、
(1)1つの事業を営む場合
(2)2つ以上の事業を営む場合
で異なります。
(1)1つの事業を営む場合
簡易課税制度では課税事業を5種類に分類し、それぞれの事業では仕入などが売上の一定の割合を占めているとみなして納税額を計算します。具体的には、
という計算を行います。
みなし仕入率は次のように設定されています(事業区分は課税期間における売上高の内訳に基づいて行います)。
<みなし仕入率>
A.第一種事業(卸売業) 90%
B.第二種事業(小売業) 80%
C.第三種事業(農業、林業、漁業、建設業、製造業など) 70%
D.第四種事業(第一種、二種、三種、五種以外の事業) 60%
E.第五種事業(運輸・通信業、不動産業、サービス業など) 50%
A.第一種事業(卸売業)
第一種事業とは、他の者から購入した商品をその性質および形状を変更しない(軽微な加工含む)で、ほかの事業者に対して販売する事業を指します。
そのため、一般的な卸売業に加えて、不動産業者が購入不動産を他の不動産業者に販売する場合も第一種事業に該当します。
B.第二種事業(小売業)
第二種事業とは、ほかの者から購入した商品をその性質および形状を変更しないで販売する事業で、卸売業以外のものを指します。
一般的な小売業に加えて、不動産業者が購入不動産を他の不動産業者以外(つまり一般向け)に販売する場合もこれに該当します。
C.第三種事業
第三種事業とは、性質および形状を変更するなど製造にかかわる事業を指します。具体的には農業、林業、漁業、鉱業、建設業、製造業(製造小売業を含む)、電気業、ガス業、熱供給業および水道業などが含まれます。
D.第四種事業
第四種事業とは、第一~第三種、第五種事業以外の事業を指します。具体的には、製品等加工業、飲食店業、金融・保険業などが含まれます。
E.第五種事業
第五種事業には、運輸・通信業、不動産業、サービス業(飲食店業を除く)が含まれます。
(2)2つ以上の事業を営む場合
A.原則
2つ以上の事業を営む場合、課税売上高を区分している場合には、事業区分ごとに課税額を算出し、合算することが原則となっています。
B.1つの事業の課税売上高が全体の75%以上の場合
1つの事業の課税売上高が全体の75%以上の場合には、
- 主な事業のみなし仕入率の適用
- 事業区分ごとにみなし仕入率を算出し、その加重平均の適用(原則)
の2つの方法から有利な方を選択することができます。
C.1つの事業の課税売上高が全体の75%に満たない場合
1つの事業では課税売上高が75%に満たない場合でも、
2つの事業の課税売上高が全体の75%以上であれば、
- 主な2つの事業のうち、みなし仕入率が高い事業はその仕入率を適用し、残りの事業は、主な2つの事業のうちみなし仕入率が低い方の仕入率で計算する
- 原則を適用する
の2つの方法から有利な方を選択することができます。
D.課税売上高を区分していない場合
課税売上高を区分していない場合には次のようなみなし仕入率となります。
<課税売上高を区分していない場合のみなし仕入率>
A.第一種事業と第二種事業 80%
B.第一種事業または第二種事業と第三種事業 70%
C.第四種事業と第四種事業以外の事業 60%
D.第五種事業と第五種事業以外の事業 50%
いずれにしても、事業のうちでみなし仕入率が低い事業のみなし仕入率を全体に適用することになります。みなし仕入率が低いということは、売上高に占める仕入の割合が低くなり、控除できる消費税が少なく計算されることになるため税負担が増加します。
このようなことを避けるためには、課税売上高を事業ごとにきちんと区分しておくことが必要です。
原則課税との比較
簡易課税は、一度選択すると2年間(一定の場合には3年)は継続して適用しなければなりません。大規模な設備投資などを行った場合には、仕入などにかかる消費税額がみなし仕入率よりも大きくなり、原則課税のほうが有利になる場合もあります。大規模な設備投資などを予定している場合には、どちらが有利かを慎重に検討したうえで、簡易課税制度を適用するかどうかを選択してください。
(監修:税理士 渡辺 ゆかり)
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