起業マニュアル
人事管理の基本
「人事管理」は、「労務管理」、「人的資源管理」などと呼称されることもありますが、一言で言うなら企業にとって重要な経営資源である「ヒト」を対象とした管理活動です。
諸説ありますが、ここでは人事管理の仕事を、ヒトを動かす仕組みを作って運用する「人事業務」と、ルールに基づいて事務的な手続きを行う「労務業務」に分けて説明します。
人事業務って、何?
人事業務とは、ヒト(従業員)を通じて事業を成功させるための仕組み(ルール)を作り、運用する業務です。事業を継続するためには、従業員が相応の能力と意欲を持って動ける職場環境を整える必要があります。具体的には「人事制度」を作り、運用していくことになります。まずは、以下の5つについて検討していきましょう。
1. 採用
事業計画に基づいて採用する人数を決めます。募集活動をする前に必ず「求める人材像」を明確化してください。求める人材像は、経営戦略や経営目標を達成できる人材はどのような人材かという視点で検討します。
例えば、求める要素を「知識・スキル面」と「価値観・姿勢面」に分けて、「必須で求める要素」と「育成してもよい要素」を明らかにするといいでしょう。
2. 評価
人事評価の役割は、従業員ごとに強み弱みを把握して人材育成に活かすことと、評価結果を元に給与や人材配置等の処遇に活かすことです。
ただ、人事評価が経営者の好き嫌いで行われると従業員が不満を感じやすくなることから、一定のルール(人事評価制度)のもと公正に評価をしていくことが必要です。
人事評価制度構築にあたっては、求める人材像に基づいて評価基準を設定することから始めます。評価基準は、評価すべき成果、能力(行動)、姿勢(態度)という3つの視点で検討しましょう。従業員から見て、何を会社が求めているのかがわかる表現で具体的に定めることがポイントです。
次に評価基準に従ってどう評価するか、評価方法を決めます。誰が誰を評価するのか、評価対象期間、評価尺度(点数・ランク付け)、評価プロセスなど具体的に決めていきます。
3. 処遇
人事評価結果は、給与や人材配置に活かされます。特に従業員の生活に直結する給与へ反映させるルールは明確にしておきましょう。
評価結果が反映される主な給与には基本給と賞与があります。どの評価基準の結果がどの給与に反映されるのか、評価尺度によってどの程度給与に差が出るのかなどを決めます。例えば、成果(評価基準)は賞与に、能力や姿勢は基本給に反映させ、A評価ならいくら、B評価ならいくら、と定めるイメージです。評価基準ごとにウェイトを決めて基本給や賞与に反映させるパターンもあります。成果、能力どれを重視した給与制度にするのか、など企業の方針を明確にします。
4. 人材育成
人材育成方法として、普段の仕事を通じて育成する「OJT」、職場から離れて研修を受けさせる「Off-JT」、「自己啓発」があります。
この3つを組み合わせて計画的に育成することが大事です。従業員の育成を考える際に、人事評価結果が活きてきます。いつ、誰が誰の育成を担当するのか、求める人材育成に役立つ研修メニューは何か、など育成の仕組みを整備することが大切です。
5. 退職
退職・解雇の基準を明確にすることは労働基準法等でも求められています。定年制を導入するのか否か、定年制導入の際は何歳までにするのか、解雇であれば、具体的な解雇基準や解雇までのプロセスをルール化します。
また、退職金制度を導入するのか、導入する場合はどのような退職金制度にするのかといったことも決めておく必要があります。
労務業務って、何?
労務業務とは、ルールに基づいて事務的な手続きを行う業務です。ここでいう「ルール」とは、法律や人事業務で作った人事制度のことです。業務は多くありますが、まずは以下の4つについて知っておきましょう。
1. 社会保険・労働保険に関する手続き
従業員の採用、退職の際や年1回義務となっている届出など、法律に定められた手続きをしていく必要があります。詳細は、別記事の「一人で創業する場合の社会保険」「従業員を雇う場合の社会保険」を参照してください。
2. 給与計算
毎月、従業員ごとに給与と社会保険や源泉所得税など控除すべき金額も計算します。1円単位で正確に計算しなければなりません。
誰が計算するのか、外部委託も含めて検討しましょう。
3. 勤怠管理
勤怠管理とは、従業員の出社、退社時間、休憩時間、休暇取得状況を把握することをいいます。勤怠管理方法として、経営者が自分で確認する方法、タイムカードなど機器を用いる方法、自己申告制があります。
適正な勤怠管理は給与計算に不可欠ですし、従業員の健康管理のためにも重要です。
4. 健康診断・福利厚生
従業員を採用した時や1年に1回の定期健康診断は義務となっています。いつ、どの健診機関で行うかなど計画しておきましょう。
また、従業員の就業意欲向上のために、慶弔、人間ドック、財形貯蓄などの福利厚生制度も検討しましょう。一定の掛金を払えば大企業並みの福利厚生制度を受けられるサービスもあります。
今後のヒント
法律に定められた手続きは必須ですが、その他は会社の状況によって優先順位を考えてください。
目安として、従業員を雇用しようと思った段階、従業員が10人を超える見込みが生じた段階それぞれのタイミングで、専門家に相談するといいでしょう。誰に相談してよいかわからない場合は、公的機関の相談窓口を積極的に利用することをお勧めします。
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