起業マニュアル

個人事業と法人のどちらがよいか

個人事業と法人のどちらがよいか

個人事業か法人(株式会社など)のどちらで事業を行うかは、社会的信用、税金や社会保険、経理事務、設立や運営の手続きなどを総合的に検討して決めます。個人事業で起業し、事業が軌道に乗ってきたら法人成り(法人化)する起業家も少なくありません。

社会的信用

社会的信用は法人の方が優れています。
法人は登記が必要で、会社法などの法律に基づいて運営しますので、社会的な信用が高いです。
販売拡大や人材採用、金融機関からの融資などで個人事業より有利です。顧客が消費者ではなく企業である場合は、取引相手として法人を希望する企業もありますので注意しましょう。

税金

利益が少ないうちは個人事業の方が税負担は少なく、利益が多いと法人が有利になることが多いです。
個人が負担する所得税は累進課税ですから高額所得(利益)の税率は高くなります。また、ほとんどの事業で290万円を超える事業所得には個人事業税もかかります。

法人は赤字でも法人住民税の均等割である年7万円を納めなければなりません。しかし、法人から社長に支払う給与は費用とすることができ、社長個人の所得税の計算では給与所得控除が適用されます。そのため法人が高収益で給与もそれなりに支払う場合は、個人事業より税金が少なくなることが多いです。また、法人は個人事業より必要経費として認められるものが多いです。
法人が有利になる利益の目安は1000万円以上と考えるとよいでしょう。ただし、この金額はそれぞれの個人や事業の状況によって異なりますので、あくまでもおおまかな目安としてお考えください。

社会保険

事業主について、個人事業では、国民年金と国民健康保険に加入することが多いです。
法人を設立して社長になると、厚生年金と協会けんぽ(健康保険)に加入します。
厚生年金保険料は国民年金保険料より一般的には高く、給料の18.3%(法人と社長個人の負担合計)です。保険料負担は重たいですが、将来受け取る年金は多くなります。
健康保険の保険料はどちらが高いとも言えませんが、給付は一般的に協会けんぽの方が優れています。

従業員についても違いがあります。

個人事業では従業員が常時5人に満たないうちは、厚生年金や健康保険の加入が義務付けられていませんので、保険料の負担を避けることも可能です。
法人の場合、すべての役員と正社員、一部のパートタイマーは厚生年金と健康保険に加入が義務付けられます。給料の約15%の保険料を法人が負担します。

経理事務

帳簿への記帳や税務申告、給与計算や年末調整の経理事務は個人事業の方が負担は少ないです。
個人事業では毎年、確定申告を行いますが、書籍や青色申告ソフトを利用して自分で申告書を作成する方は多いです。
一方、法人税の申告書は複雑で手間もかかりますので、税理士に依頼する法人が多いです。

また、法人では従業員がいない場合でも給与計算が必要です。社長の給与について、所得税や健康保険、厚生年金保険料を源泉徴収して納付しなければなりません。給与計算は社会保険労務士や税理士に依頼することもできますが、費用はかかります。
個人事業でも、国民年金や国民健康保険の保険料を支払いますが手続きは簡単です。

設立手続き

個人事業の方が手続きは簡単です。
個人事業では、税務署に「個人事業の開業・廃業等届出書」(開業届)を提出し、都道府県税事務所と市町村に「事業開始等申告書」を提出すれば済みますので簡単です。

株式会社や合同会社を設立する場合は、法人の根本規則となる定款の作成や法務局での登記が必要になります。設立に数週間はかかりますし、登録免許税などの費用もかかります。

運営手続き

法人では登記事項の変更や公告などの手続きや費用がかかります。
例えば、本店所在地や役員の氏名などは登記事項ですので、本店を移転した場合や役員の再任でも登記が必要になります。株式会社であれば株主総会の議事録などを添付して登記申請します。登記には登録免許税がかかります。

一般の人に広く知らせる公告では、会社の合併や資本金を減らす場合は官報への公告が必要です。株式会社では、決算公告として貸借対照表を公告しなくてはなりません。官報に公告をする場合は費用がかかります。なお、合同会社では決算公告は不要です。
個人事業では、これらの費用はかかりません。