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VR/ARクリエイター

2023年 5月 10日

トレンド

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VR(Virtual Reality: 仮想現実)とは、コンピューターが作り出した仮想世界を現実のように体感させる技術のこと。そのVRの技術を用いてゲームをはじめ、さまざまな分野で臨場感あふれる疑似体験の世界を作り出すのがVRクリエイターの仕事だ。

VRとともに紹介される機会が多い技術にAR(Augmented Reality: 拡張現実)がある。現実世界にデジタル情報を重ね合わせて表示し、拡張された世界を構築する技術で、大ヒットした「ポケモンGO」はAR技術を活用したゲームアプリである。

VR/AR技術は、90年代に商用化が進み、一部のゲームに導入されて一般にも知られるようになったが、装置が高額で低スペックであったため、家庭向けとして行き渡るまでには至らなかった。そして2010年代になって、安価で高スペックのデバイスが発売され、またスマホ向けのVR/ARアプリが普及したことで、改めて関連業界は活気を見せている。元来、これらの技術はコミュニケーションやシミュレーション分野での応用が研究されており、エンターテインメント分野にとどまらず、医療や不動産、旅行、建築、自動車、ファッション、教育といった幅広い分野での応用が期待されている。

コロナ禍における行動制限の影響で、リモートワークの浸透やバーチャル展示会の実施、大打撃を受けた観光業界におけるバーチャルツアーの催行などVR/AR技術の導入が急速に進み、その需要は一気に高まった。

国内では9割以上の消費者がVR/ARを認知はしているものの、何らかのかたちで実際に使用している割合は5%に留まっているという。実用的な普及という点ではまだまだこれからだが、それだけ様々な分野での活用・応用は、大いに可能性を秘めていると言えよう。

近年のVRクリエイター事情

国内では、近年VR/ARの様々な実用化の事例がゲーム業界以外にも増えている。

1. 医療現場でのリハビリ活用

VR技術を使ったトレーニング効果は、リハビリの現場でも注目を集めている。理学療法士や作業療法士の指示に従って、専用のヘッドセットを装着し、両手にコントローラーを持ちながら、VR空間にあるボールをつかむ。この動作を繰り返すことで、脳と体を使って課題を処理する能力を鍛えることができるという。また、日本各地を巡るVR散歩も人気のリハビリ・メニューだ。

2. 不動産のVR内見

不動産業界でのVR技術導入は2017年頃からと早く、不動産物件をオンラインで内見することを「VR内見」と言う。360度パノラマ撮影やウォークスルー動画を組み合わせて、実際に現地を訪れなくても、物件を自由に歩き回るような感覚で内見できる。不動産各社が提供するスマホのアプリでも簡単に利用出来ることも普及の要因になっている。

3. オンライン観光ツアー

今回のコロナ禍で、窮地に陥った観光業界がその打開策として打ち出したサービスが「オンライン観光ツアー」だ。その手法は様々で、現地の観光ガイドがライブ配信で案内するツアーや、季節のイベントを臨場感のあるVR/ARで体験するツアー、EC機能を組み合わせたショッピングツアーまで、旅行会社は実体験に変わるアイデアを競っている。また、訪日観光客向けの施策として、観光地でのAR技術を活用した外国語案内は、全国の自治体でも導入事例が多い。

4. 自動車業界でのビジネス活用

製造業ではVR技術を活用したシミュレーションの導入が進んでおり、実際の製造前に構造の確認から部品の検討までが行え、工程の効率化・ロスカットが期待されている。また、車輌設計の際にVR技術を用いることで、外観や車内デザインとともに、運転のしやすさや乗り心地を確認できるようになった。
自動車ディーラーにとっては、バーチャルショールームの開設によって、車種のバリエーションや仕様の違いを瞬時に比較したり、試乗体験まで提供出来るサービスへと、可能性は広がる一方だ。

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VRクリエイターの人気理由と課題

人気理由

  1. 自身のクリエイティブな発想や世界観を活かして活躍できる
  2. 様々な業界での幅広い応用が期待できる
  3. 最先端の未来志向の技術を学び仕事に取り組める
  4. 多くの人びとに驚きと感動を与えられる

課題

  1. 常に最新技術に関する情報収集やその習得が必要
  2. 設計やプログラミングなど関連技術に対する理解も必要
  3. ハードウェアの開発が日進月歩のため一定の先行投資は必要

開業の5ステップ

VR/AR技術を習得するためには「独学」か「学校に通うか」の選択肢があるが、幅広く関連分野の知識を習得するためにも、まずは専門学校や大学に通うことが望ましい。VR/AR技術の応用分野は幅広く、まずは様々な知見を身に付けておくことが、その後の職務での発想や応用力に役立つからだ。

卒業後は、制作会社・ゲーム会社などに就職するのが一般的である。そこで経験や実績を積みながら、多くの関係者に自分の仕事を評価をしてもらうことで力をつけていく。規模の大きい案件に、チームの一員として携わることも貴重な体験となるだろう。また、建築設計やCGキャラクターのクリエイターが、その仕事の延長として、VR/ARの手法も取り込んで手掛けるケースも多い。

開業の5ステップ

収入

求人情報サイトを運営するIndeedによると、関連企業に就職した場合は月給25万円から90万円程度である。個人事業の場合は、仕事の量や規模によって収入の幅は大きくなる。

「IT人材白書」(独立行政法人情報処理推進機構社会基盤センター発行)によると、先端IT従事者の70%以上が年収500万円と回答。そのうち、1000万円以上は、約19%であった。

▼先端IT従事者、先端IT非従事者の年収

先端IT従事者、先端IT非従事者の年収

(「IT人材白書2020」 独立行政法人情報処理推進機構社会基盤センター 2020年)

必要なスキル

どの様な分野にVR/AR技術を提供するかによって、習得すべきスキルは異なる。実写動画を主体とするコンテンツであれば、パノラマやウォークスルーの撮影技術が求められるし、フルCGで表現する場合にはそのためのアプリケーションの習得が求められる。専門分野での活用を検討するなら、3D CADや機械設計の知識が求められる場合もある。

1. 実写映像制作スキル

パノラマ動画撮影用のカメラなど、機器の操作や撮影のスキルが必要。さらに動画編集やVRデータの作成など提供方法に応じて習得すべきアプリケーションも様々だ。まずは、どの様な分野や顧客に向けて技術を提供するのかを想定してから、それに最適な手法を習得した方が効率的だろう。

2. プログラミングスキル

VRゲームやアプリケーションを開発するには、目的に合わせた開発言語を学ぶ必要があり、「Unity」や「Unreal Engine」といったゲーム開発用のソフトウェアを扱う技能は欠かせない。それぞれにメリット・デメリットの特徴があるため、これから取り組もうとしている業界や先行事例、トレンドなどを踏まえ、自分が身に付けるべきソフトウェアを十分検討のうえ選ぶ必要がある。

3. デッサンスキル

フルCGの仮想空間でリアルに物体を再現するためには、物の形・光や陰影を正確に把握し表現する力が要求される。多くの場合は専用アプリケーションが自動的に計算し表現してくれるが、それらを総合的に組み合わせてひとつの世界観を構築しようとするときに、基本的なデッサンスキルに裏付けられた表現力は、欠かせないものとなる。

4. チーム内コミュニケーション能力

コンテンツ制作の現場には多くの専門人材が関わっている。チームで良いものを作るには協調性や交渉力などのコミュニケーション力が求められる。独りよがりにならないよう、どのような作品が求められているのかを把握する力が必要である。

5. 新しいVR/AR技術関連の情報収集能力

VR/ARの世界は進化し続けているので、常に新しい技術やトレンドを取り入れる能力も必要だ。また、リリース後にもきちんとユーザーの反応をリサーチするマーケティング的な視点も重要である。

また、日本バーチャルリアリティ学会により、VRを正確に習得したかどうかを証する「VR技術者認定試験」が毎年開催されている。

個人事業主として活動するためのポイント

1. 安定したクオリティとスピード

ゲームやアプリ向けのVR/ARコンテンツ制作の現場では、業務委託として月ごとに決まった金額で仕事を依頼されるケースも多く、安定したクオリティで作品を納品する必要があり、クライアントと円滑なコミュニケーションが重要だ。また、締め切りに間に合うスピードで作品を仕上げる能力も要求される。

2. オリジナリティを磨く

VR/AR技術の応用分野は幅広く、自分の得意分野を持ち、個性を磨くことが大切になってくる。

3. 世界観を作り上げるストーリーテリング力

視聴者の好奇心をくすぐり、その世界に引きこむ体験を提供するためには、独自の世界観を作り上げるストーリーテリング力が必要である。そのためには、古典を始めとする小説や映画などのコンテンツにも日頃から興味を持って接することが必要だろう。

4. ポートフォリオを作成する

クリエイター系の業界で個人事業主としてやっていくには、ポートフォリオを作成することが重要である。オンライン/オフラインで参照可能な作品集を作るだけでなく、動画共有サイトで作品の一部を公開することも効果的だ。これらはクライアントが仕事を発注する際の判断材料としても欠かせない。

5. クラウドソーシングサイトに登録する

フリーランスで案件を獲得するには、クリエイター系のクラウドソーシングサイトなどにVRクリエイターあるいはCGクリエイターとして登録する方法もある。

【初期費用例】

新しいデジタル表現の追求には、高性能のパソコンが欠かせない。CG制作や撮影したデータの処理、編集やエフェクトなどの作業には高スペックの機種を揃えたい。また、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)などVR体験を検証するための機器も必要となるだろう。そのほか、カメラや専用の撮影機材をそろえることも必要である。機材レンタルのサービスも充実したものが多いので、予算に応じて活用を検討したい。

初期費用例

VR/ARクリエイターに関連する業界として「映像・音声・文字情報制作作業」の経営データを紹介する。映像・音声・文字情報制作作業と比較するとVR/ARクリエイターは個人事業主が多いため、必ずしもVR/ARクリエイターに当てはまらない部分もあるが、参考としてご覧いただきたい。

▼映像・音声・文字情報制作業の黒字企業の経営指標

映像・音声・文字情報制作業の黒字企業の経営指標
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※収入、初期費用の数値は、開業状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

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