業種別開業ガイド

AIコンサルタント

2025年 5月 23日

AIコンサルタントのイメージ01

トレンド

AIコンサルタントは、企業や組織に対してAI(人工知能)の導入・活用を支援する専門家である。業務プロセスやビジネスモデルを分析し、最適なAIソリューションの導入を支援することが役割となる。その業務範囲は、AI戦略の立案、システム設計・開発、導入後の運用・改善まで幅広い。近年では、生成AI(Generative AI)や大規模言語モデル(LLM)を活用したコンサルティングの需要も急速に高まっている。

日本のAIシステム市場規模(支出額)は、2023年に6,858億7,300万円(前年比34.5%増)となっており、今後も成長を続け、2028年には2兆5,433億6,200万円まで拡大すると予測されている。

国内AIシステム市場規模(支出額)及び予測

この成長を支える要因には、企業によるDX(デジタルトランスフォーメーション)推進、業務効率化への関心の高まり、そしてAI技術の進化がある。この5年ほどでAI技術は急速に進化し、企業にとって不可欠な存在となった。特に生成AIの進化により、自然言語処理や画像生成といった分野で革新的な成果が生まれ、AIコンサルタントの役割も単なる技術導入支援から、ビジネス戦略立案や組織改革支援へと拡大している。

今後5~10年では、以下のような動向が予想される。

生成AIの普及

自然言語生成や画像生成の分野で、生成AIの活用が一般化し、コンサルタントの支援範囲も広がる。

中小企業へのAI導入

これまで主に大企業中心だったAI導入が、中小企業にも広がり、AIコンサルタントの活躍の場が拡大する。

AI倫理・ガバナンスの重視

AI活用に伴う倫理的課題やガバナンス確立が重要視され、コンサルタントにはこれらに対処する能力が求められる。

人材育成と教育支援

AI人材不足を背景に、教育・研修サービスを提供するAIコンサルタントの役割が増大する。

これからのAIコンサルタントには、技術的知識だけでなく、ビジネス理解力や倫理的視点が必要とされる。また、継続的な学習とスキルアップが不可欠であり、専門資格の取得や実務経験の積み重ねも重要だ。

近年のAIコンサルタント事情

近年、生成AI(Generative AI)の登場により、企業のAI活用への関心が急速に高まっている。企業は、AI技術の導入や活用方法について専門的な知見を求めており、AIコンサルタントはその橋渡し役として重要な役割を担っている。

業種別に見ると、情報通信業や金融・保険業での生成AI導入が先行している。一方、卸売・小売業や運輸・郵便業では導入率が低く、業界間での温度差が見られる。また、企業規模によっても導入率に差がある。大企業では着々と導入が進んでいるが、中小企業ではなかなか進んでいない。こうした状況から、中小企業へのAI導入支援が今後の課題となっている。

AIコンサルタントの役割は、単なる技術導入支援から、ビジネス戦略の立案や組織改革の支援へと拡大している。企業の課題を深く理解し、最適なAIソリューションを提案・実行するためには、技術的知識だけでなく、ビジネス理解や倫理的視点も求められる。また、AI技術の進化に伴い、生成AIや大規模言語モデル(LLM)を活用したコンサルティングも増加しており、AIコンサルタントにはこれらの新技術への対応力が求められている。

AIコンサルタントの仕事

AIコンサルタントは、企業が抱える課題に対して、人工知能(AI)技術を活用した解決策を提案・実行する専門家である。専門業務としては、クライアントの業務プロセスやビジネスモデルを分析し、最適なAIソリューションの導入を支援する。その業務範囲は、AI戦略の立案から、システムの設計・開発、導入後の運用・改善まで多岐にわたる。次に主な業務を紹介しよう。

現状分析と課題抽出

AIコンサルタントは、クライアント企業の現状を把握し、業務上の課題や改善点を明確化する。これには、業務フローの分析、データの収集・解析、関係者へのヒアリングなどが含まれる。課題を抽出することで、AI導入の目的や方向性を定めることができる。

AI戦略の立案

抽出した課題に対して、AI技術を活用した解決策を検討し、戦略を立案する。これには、適切なAI技術の選定(例:機械学習、自然言語処理、画像認識など)、導入スケジュールの策定、予算の見積もりなどが含まれる。戦略立案の際には、クライアントのビジネス目標やリソースを考慮することが重要である。

ソリューションの設計・開発

立案した戦略に基づき、具体的なAIソリューションの設計・開発を行う。これには、AIモデルの構築、データの前処理、システムのインフラ設計などが含まれる。また、必要に応じて、外部のAIベンダーや開発パートナーとの連携も行う。

導入と運用支援

開発したAIソリューションをクライアントの業務に導入し、運用を支援する。これには、システムのテスト・検証、ユーザートレーニング、運用マニュアルの作成などが含まれる。導入後も、システムのパフォーマンスを監視し、必要に応じて改善を行う。

効果測定と改善提案

導入したAIソリューションの効果を測定し、改善提案を行う。これには、KPI(重要業績評価指標)の設定・分析、ユーザーからのフィードバックの収集、システムのチューニングなどが含まれる。継続的な改善により、AIソリューションの効果を最大化することが求められる。

上記の主な業務を遂行するために、AIコンサルタントには以下のようなスキルが求められる。昨今は特に技術的スキルよりもビジネススキル、コミュニケーションスキル、プロジェクトマネジメントスキルが必要になってきている。

技術的スキル

機械学習、深層学習、自然言語処理などのAI技術に関する知識。プログラミング言語(例:PythonやR言語など)の理解。

ビジネススキル

業界知識、業務プロセスの理解、課題解決能力。クライアントのビジネス目標を理解し、AI技術を活用して達成する能力。

コミュニケーションスキル

クライアントやチームメンバーとの円滑なコミュニケーション能力。技術的な内容を非技術者にも分かりやすく説明する能力。

プロジェクトマネジメントスキル

プロジェクトの計画・進行管理、リスク管理、リソースの最適化などの能力。

AIコンサルタントのイメージ02

AIコンサルタントの人気理由と課題

近年、他のコンサルタントと比べてAIコンサルタントが人気の理由と、現在の課題について紹介しよう。

人気の理由

近年、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速する中で、AI技術の導入は不可欠となっている。しかし、多くの企業ではAIに関する専門知識を持つ人材が不足しており、外部の専門家であるAIコンサルタントへの依頼が増加している。AIコンサルタントは、企業の業務フローやビジネスモデルを分析し、最適なAIソリューションの導入を支援することで、DX推進の中核を担っている。

生成AI(Generative AI)の登場により、自然言語生成や画像生成などの分野で革新的な成果が生まれている。これにより、企業の業務効率化や新たなビジネスモデルの構築が可能となり、AIコンサルタントへの期待が高まっている。特に、生成AIを活用したコンサルティングは、企業の競争力強化に直結するため、需要が急増している。

AIコンサルタントは、高度な専門知識とスキルを要する職種であり、その希少性から高収入が期待できる。また、AI技術の進化に伴い、常に最新の知識を習得する必要があるため、自己成長を求める人材にとって魅力的な職種である。

現在の課題

AI技術の導入が進む一方で、AIに関する専門知識を持つ人材は依然として不足している。特に、中小企業ではAI人材の確保が難しく、AIコンサルタントへの依存度が高まっている。このような状況では、AIコンサルタント自身も多忙を極め、十分な支援が行き届かないケースもある。

AI技術に対する過度な期待から、クライアントが現実的でない成果を求めることがある。AIコンサルタントは、クライアントの期待値を適切にマネジメントし、実現可能な目標設定を行う必要がある。

またAI技術の活用に伴い、プライバシー保護やデータの取り扱いに関する倫理的・法的課題が浮上している。AIコンサルタントは、これらの課題に対して適切な対応策を講じることが求められる。

開業のステップ

AIコンサルタントとして独立・開業するためには、明確なステップを踏むことが成功への鍵となる。以下に、一般的なAIコンサルタント開業までの具体的な手順を示す。

STEP1:専門分野の明確化

AIコンサルタントとしての専門性を定めることが重要である。例えば、製造業向けのAI導入支援、医療分野でのデータ解析、マーケティング領域でのAI活用など、特定の業界や技術に特化することで、差別化を図ることができる。

STEP2:スキルと知識の習得

AI技術に関する深い知識と実践的なスキルが求められる。機械学習、深層学習、自然言語処理などの分野に精通し、PythonやR言語などのプログラミング言語を習得することが望ましい。また、ビジネスの理解やプロジェクトマネジメント能力も必要である。

STEP3:ビジネスモデルの構築

提供するサービス内容、価格設定、ターゲット市場などを明確にし、持続可能なビジネスモデルを構築する。例えば、コンサルティング料を時間単位で設定するのか、プロジェクト単位で設定するのかを検討する。

STEP4:法人設立と必要な手続き

個人事業主として開業する場合は、税務署への開業届出が必要である。法人として設立する場合は、会社設立の手続きや登記が必要となる。また、必要に応じて各種許認可の取得も検討する。

STEP5:マーケティングと営業活動

自社のサービスを広く知ってもらうために、ウェブサイトの作成、SNSの活用、セミナーの開催などのマーケティング活動を行う。また、潜在的なクライアントへのアプローチやネットワーキングも重要である。

開業のステップ

このようなステップごとに考えて行動することが望ましいが、実際には図のような順序で流れていかない場合が多い。焦らず開業するには、安定収入があるうちにある程度、準備を進めると良いだろう。できるだけ余裕がある独立前の時期に、実行できるステップを進めておくことが重要である。

AIコンサルタントに役立つ資格

AIコンサルタントとして活躍するために、必須の資格は存在しないものの、関連する資格を取得することで専門性を高め、クライアントからの信頼を得やすくなる。以下に、AIコンサルタントにとって有用な資格を紹介する。

認定AI・IoTコンサルタント(AIC)

一般社団法人AI・IoT普及推進協会(AIPA)が認定する資格で、AIとIoTを活用したビジネス支援のプロフェッショナルとしてのスキルを証明する。特に、内閣府の「Society5.0」や経済産業省が推進する「Connected Industries」といった国家的な取り組みを実践する役割を担える点が特徴である。AIC資格は、経営やIT分野での知識の深化と立場の強化を目指す方にとって、キャリアアップを実現する大きな一歩となる。

G検定(ジェネラリスト検定)

日本ディープラーニング協会(JDLA)が主催する資格で、AIの基礎知識や活用方法に関する理解を問う。AIコンサルタントとして、クライアントに対して適切なAI導入の提案を行うためには、G検定の取得が有効である。特に、未経験からAIコンサルタントを目指す方にとって、入門的な資格として適している。

E資格(エンジニア資格)

同じくJDLAが主催する資格で、ディープラーニングを中心としたAI技術の実装能力を問う。AIコンサルタントとして、より技術的な側面からの支援を行う場合、E資格の取得が望ましい。特に、AIプロジェクトの実践的なスキルを示すことができ、転職市場でのアピールポイントにもなる。

Pythonエンジニア認定試験

AI開発において広く使用されるプログラミング言語「Python」の知識とスキルを証明する資格である。AIコンサルタントとして、技術的な理解を深めるために有用であり、AI開発やデータ分析の場面で役立つ。

基本情報技術者試験

情報処理推進機構(IPA)が主催する国家試験で、ITに関する基本的な知識と技能を問う。AIコンサルタントとして、IT全般の知識を有することは、クライアントとのコミュニケーションやプロジェクトの推進において重要である。

応用情報技術者試験

同じくIPAが主催する国家試験で、より高度なIT技術と応用的な知識・スキルを問う。AIコンサルタントとして、AIの活用法などの提案力の幅を広げるために、応用情報技術者試験の取得が有効である。

開業資金と運転資金の例

AIコンサルタントとして独立・開業する際に必要となる資金は、事業形態や規模によって異なるが、一般的な目安を以下に示す。ここでは、個人開業と法人設立の2つのケースを想定し、それぞれの開業資金と運転資金の例を表にまとめる。

個人開業の場合

個人開業の場合は法人設立に比べて開業資金が少なく済むが、その分、自力ですべてを行う必要があるために開業の前後にさまざまな対応が求められる。その半面、リスクが低く、開業しやすいことがメリットである。

開業資金例(個人開業)
運転資金例(個人開業)
法人設立の場合

法人設立の場合は個人開業に比べて開業資金がかさむがその分、信用が高まり大手や中堅企業の仕事を獲得するチャンスも増える。しかし、法人設立でも一人で開業した場合、個人開業と同様に自力ですべてを行う必要があるため、開業の前後にさまざまな対応が求められる。半面、投資部分の回収を考えるとリスクもあるが、最初から大手や中堅企業のAIコンサルタントを狙うのであれば、法人設立も検討すべきだろう。

開業資金例(法人設立)
運転資金例(法人設立)

上記はあくまで一例であり、実際の開業資金や運転資金は、事業内容や規模、地域によって異なる。また、開業時には予期せぬ支出が発生する可能性もあるため、余裕を持った資金計画を立てることが重要である。

売上計画と損益イメージ

AIコンサルタントとして独立・開業する際には、現実的な売上計画と損益イメージを持つことが重要である。以下に、個人開業と法人設立の2つのケースを想定し、それぞれの売上計画と損益イメージを示す。

個人開業の場合

個人開業の場合、開業資金や運転資金よりも予測がしづらいのが売上計画と収益である。これは個人のスキルなども重要であるが、それ以上に「開業のステップ」のSTEP5のマーケティングと営業活動が売上に大きく関係してくる。また、開業前の人脈づくりも重要である。よく「独立したら仕事を出すよ」という仕事関係者がいるが、この言葉を真に受けないほうが賢明だろう。このような言葉は仕事を出すことを保証するものではない。開業後の仕事は自分自身で開拓するものと心得よう。

月間売上計画と年間の損益イメージ(個人開業)
法人設立の場合

法人設立の場合も基本的には個人開業と同じであるが、法人設立後に大手や中堅企業のコンサルタントパートナーなどと連携することで仕事の数を増やせる可能性がある。ただし、件数をこなすことを考えると、どうしても支援の品質が下がる可能性がある。またトラブルなどの場合、コンサルティングの対応ができない場合がある。余裕を持って計画をしていくことが望ましい。

月間売上計画と年間の損益イメージ(法人設立)

上記の計画はあくまで一例であり、実際の売上や経費は、提供するサービスの内容や価格設定、営業活動の成果などによって大きく変動する。また、初年度は顧客獲得に時間がかかることが予想されるため、保守的な計画を立てることが望ましい。

AIコンサルタントのイメージ03

AIコンサルタントとして活躍するためには、AI技術に関する深い知識と実践的なスキルが求められる。機械学習、深層学習、自然言語処理などの分野に精通し、PythonやR言語などのプログラミング言語を習得することが望ましい。ただし、仕事においては基本的にはクライアント企業のビジネスの理解やプロジェクトマネジメント能力が重要である。そのための資格取得や人脈形成などは、開業前に構築しておきたい。

実際の開業に当たっては、初期投資や運転資金を含めて現実的な資金計画を立てること、そして売上予測や損益イメージを明確にし、収益性の高いビジネスモデルを構築することが重要になる。AI技術は日進月歩で進化しており、常に最新の情報をキャッチアップする姿勢も求められる。業界内でのネットワークを構築し、情報交換や協業の機会を増やすことも成功への近道である。

※開業資金、売上計画、損益イメージなどの数値は、開業状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

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