業種別開業ガイド

アプリ開発

2021年 3月 4日

トレンド

(1)モバイルアプリの世界市場

総務省の「情報通信白書(令和元年版)」によると、2018年のモバイルアプリの世界市場の売上高は582.5億ドル、モバイルゲーム売上高は522.1憶ドルとなっている。今後も上昇傾向が続き、2021年にはモバイルアプリの売上高は673.2億ドル、モバイルゲーム売上高は602.6憶ドルに上るとみられている。

(2)モバイルアプリの日本市場

上述の「情報通信白書(令和元年版)」によると、2018年のモバイルアプリの日本市場の売上高は116.5億ドル、モバイルゲーム売上高は111.0憶ドルである。2021年には、モバイルアプリの売上高は113.4億ドル、モバイルゲーム売上高は128.2憶ドルに上るとみられている。

日本市場も決して小さい市場ではないが、世界市場の規模を勘案すると、世界市場を見据えた取り組みをすることが重要といえよう。

(3)大手企業の寡占化

市場規模は大きく、今後も伸びが期待される魅力的な業界である。しかしその一方で、大手企業による寡占化が進んでいることが懸念点として挙げられる。

例えばメッセンジャーアプリ大手の「LINE」は、スマホ決済やゲームなどさまざまな種類のアプリ開発にも取り組んでいる。このように巨大プラットフォームへと成長した大手企業が別種のアプリ開発へと進出していく傾向がみられるため、今後開業するにあたっては大手と競合する可能性がある。

(4)ウェアラブル端末、AIスピーカー、AR/VRの台頭

現状のアプリ市場は、スマートフォン/タブレット向けのアプリが中心となっている。しかし、近年、ウェアラブル端末やAIスピーカー、AR/VR端末などの普及も進んでいるため、今後はこれらのハードウェアに向けたアプリ開発も市場が拡大していく可能性がある。

ただし、これらの分野はまだ発展途上であり、ビジネスモデルが確立していない場合も多い。サービスの質だけでなくそれに見合うビジネスモデルの確立が重要となるとみられる。

ビジネスの特徴

コンシューマー向けのアプリを開発する場合は、技術とアイデアさえあれば初期費用を抑えて開業することが可能である。ただし、参入障壁が低いため競合が多いことなどのデメリットもある。そのため開発にあたっては、事前の市場調査や競合との差別化を行うことが重要である。また、アプリを開発した後の運用コストがかかることにも留意が必要である。

主なビジネスモデルとしては、(1)広告、(2)アプリ内課金、(3)プラットフォーム化(利用料・手数料)、(4)データ販売の4点が挙げられる。((4)データ販売とは、アプリ利用者のデータをマーケティング調査向け等で販売するビジネス)

企業向けのアプリの場合は、クライアントの業務に合わせたサービスを提供することが重要となる。競合との差別化、運用面への留意等はコンシューマー向けアプリと同様に必要である。

開業タイプ

(1)コンシューマー向けアプリ開発

一般ユーザーに向けたアプリを開発する業態である。アップル社の運営する「App Store」やグーグル社運営の「Google Play」などのプラットフォームで販売する形式が主となる。

技術力さえあれば個人でも開業することが可能であり、その場合はオフィス代や人件費を抑えて開業できるというメリットがある。

(2)企業向けアプリ開発

企業内で使用するアプリサービスを開発する業態。「ソフトウェア開発」とも近いが、「アプリ開発」という場合はスマートフォン/タブレット等のソフト(アプリ)を指す場合が多い。

開発のみならず営業などの業務も重要になる点がコンシューマー向けと異なる。個人での開業も不可能ではないが、こうした開発以外の業務が発生することも留意しておきたい。

(3)ウェアラブル端末、AIスピーカー、AR/VR向けアプリ開発

上述のふたつのタイプと異なる観点になるが、スマートフォン/タブレット向け以外の分野でのアプリ開発も選択肢として考えられる。ただし、これらの技術はハードウェアの普及率という点においてスマートフォン/タブレットには大きく及ばない。市場規模が小さく、需要を見極めるためのデータも乏しい可能性が高い。

開業ステップ

(1)開業のステップ

開業に向けてのステップは、主として以下のとおり。ただし、個人で開業するケースなど、業態によってはオフィスが不要になる場合もある。

開業ステップ

(2)必要な手続き

アプリ開発事業を開業する際に、公的機関等への許認可は特に必要ない。

市場調査の重要性

アプリ開発においては、技術力が必要であることはもちろん、事前の市場調査もまた非常に重要な要素である。どれだけ技術的に優れたアプリであっても、使ってもらえなければビジネスとして成り立たないためである。

例えば、「App Store」や「Google Play」等で競合のダウンロード数や評価などを確認するなど、事前に市場調査を行い、自社製品の立ち位置を把握しておくことが大切となる。

必要なスキル

  • 技術力(開発力)
    もちろんプログラミングなどの基本的な技術力は必要であるが、近年はプログラミングコードを書かなくともアプリ開発ができる環境が整っている。したがって、単にプログラムが書ければよいということではなく、優れたアルゴリズムを作る能力なども問われることとなる。
  • 営業力
    特に企業向けのアプリ開発を行う場合は、営業力は重要な要素となる。営業の際にクライアントの需要を聞き取ることはサービスの向上にもつながるため、上述の開発力にも関係する能力といえる。
  • ビジネス化能力
    コンシューマー向けアプリ開発の基本的なビジネスモデルは、「2.ビジネスの特徴」でも記載したように、(1)広告、(2)有料アプリ、(3)アプリ内課金、(4)プラットフォーム化(利用料・手数料)、(5)データ販売と大まかに5つに分けられる。「売上をどのように立てるのか?」という問題について事業計画立案の段階から考えていく必要がある。
    企業向けアプリ開発では、開発時点での売上だけでなく、保守・運用などで継続的に売上が立つような仕組みが一般的に用いられている。

開業資金と損益モデル

(1)開業資金

ここでは既にスキルがあり、個人で開業するケースを想定して開業モデルを示す。

都内レンタルオフィス(定員3~4名ほど想定)開業の場合に必要な資金例の表

(2)損益モデル

a.売上想定

参考情報としてアプリ内広告および有料アプリについて、アプリのダウンロード(DL)数に対するおおまかな売上金額の表を示す。アプリ開発業の売上は、このようにアプリのダウンロード数に応じて変わる

アプリ内広告・有料アプリの売上表
売上モデルの表

※クリック型・成果報酬型広告を掲載する10万DL級のアプリ4点を運用していく想定。成果報酬型はうまく運用できれば成果が大きいが、ここではクリック型をメインに運用していく想定とした。
※100円アプリについては、1万DL級のアプリを年間3点ほどコンスタントに出していく想定。10000DL×3アプリ×100円=年間300万円(月25万円)。
※500円アプリについては、上記10万DLアプリの有料版の想定。10万人中の100人に1人が有料版を購入すると仮定し、1000DL×4アプリ×500円=年間200万円(月17万円)。

b.損益イメージ(参考イメージ)

損益のイメージ例の表

※標準財務比率は「ASP・ウェブコンテンツ提供業」に分類される企業の財務データの平均値を掲載。
出典は、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」。

c.収益化の視点

コンシューマー向けアプリ開発を行う場合、会社として持続していくためには、数万単位でダウンロードされるアプリを複数開発することが必須条件といえる。

アプリ開発業は参入障壁が低く、個人でも容易に開業することが可能である。ただし、収益化をめざすためには、高い水準のダウンロード数が必要になることは認識しておくべきである。事業を安定させるためには、できれば10万以上のダウンロード数をもつアプリが複数あることが望ましいだろう。

そのため、非常に重要になるのが事前の市場調査である。アイデアも重要ではあるが、アイデア先行で開発するのではなく、調査の結果、ある程度のニーズが見込めると判断したアプリを定期的に開発していくような、戦略的な取り組みが大切になる。

※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

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