業種別開業ガイド

ハイヤー・タクシー会社

  • ハイヤー・タクシー会社とは、定員10人以下の自動車を貸し切って旅客を運送する一般自動車運送事業のことを指す。このうち、ハイヤー会社は、営業所を拠点に運送引受が行われ、流しや無線、車庫待ちの営業形態が認められていない点がタクシーと異なる。道路運送法では、ハイヤーとタクシーは区分されていないが、上記の営業形態の違いに加え、運賃体系もタクシーとハイヤーでは異なっている。
  • ハイヤー・タクシー会社の全体像としては、2010年度末で法人事業者が14,319、個人事業者(1人1車制)が41,900であり、個人タクシー事業者が全体の75%を占めている。推移としては、法人事業者数は増加傾向が続いているが、個人事業者は微減傾向となっている【図1】。
【図1】ハイヤー・タクシーの事業者数推移(単位:事業者)
出所:国土交通省自動車交通局旅客課資料を元に作成

長い間、規制色の強い業界で新規参入については制限があったが、2002年の改正道路運送法の施行により新規参入が容易になり、事業者数が増え、運賃の値下げ競争が勃発した。しかし、客数の増加には結びつかず、逆に景気の長期低迷により客数は減り続け、ハイヤー・タクシー会社は厳しい現状に直面している【図2】。

【図2】ハイヤー・タクシーの車両数、輸送人員、営業収入
出所:国土交通省「自動車輸送統計年報」、東京交通新聞社「ハイヤー・タクシー年鑑」を元に作成

営業収入は、1991年度をピーク(2.8兆円)に、以降は減少傾向が続いている。一方、車両数は高止まり状態にあることから、ハイヤー・タクシー1台あたりの輸送人員、営業収入は、ともに減少し続けている【図3】。

出所:国土交通省「自動車輸送統計年報」、東京交通新聞社「ハイヤー・タクシー年鑑」を元に作成

このような著しい供給過剰状態を緩和するために、地域を区切って新規参入や増車を停止する緊急調整措置が取られており、現在は全国のほとんどの地域が対象になっている。リーマンショックの影響などにより依然として需要低迷は続いており、新規参入は難しい状況が続いている。

  • 業界の動きとしては、他の業界同様、厳しい経営環境下、体力の無い事業者が淘汰される一方、大手企業は買収による事業拡大を進めている。一企業内においては、増車による営業収入の増加が見込めない中、AVM(車両位置等自動表示)という従来の無線よりも効率よく配車できるシステムを導入するなど、台数を絞りながらも経営効率を上げる努力が続けられている。
    また、通常のタクシー需要が少ない地方においては、高齢者向けの乗り合いタクシーや介護タクシー、福祉タクシーなど、新規サービスを取り入れ新たな需要を取り込むケースも増えている。
    福祉輸送サービスについては、取り組む事業者数が1989年で337だったが、2002年で1,594、2010年度で9,446と急増している。乗り合いタクシーは、大規模団地と最寄り駅を結ぶ「団地型」、公共交通機関の少ない過疎地の集落を巡回する「過疎型」、市街地の施設を巡回する「都市型」、都市と最寄り空港を結ぶ「空港型」、観光地を巡回する「観光型」、医療機関や福祉施設を結ぶ「福祉型」などのコースがあるが、過疎型・都市型においては、今後も新たな需要の発掘が期待できる。特に高齢化・過疎化に伴い、過疎型が2006年で619コースだったものが2010年では1,969コースへと急増している。

1.起業にあたって必要な手続き

ハイヤー・タクシー会社を設立する際には、国土交通大臣の許可が必要であり、許可なく営業した場合は、1年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金、又はこれらが併科される。申請にあたっては、地域ごとに定められた最低車両数、事務所および休憩施設、車庫、営業所を保有する必要があるほか、運転者や運行管理者・整備管理者を確保することも必要となる。

申請に際しては、上記を保有していることを示す資料等とともに「経営許可申請書」を管轄する陸運支局に提出し審査を受ける。提出された申請書は陸運支局で形式審査、その後地方運輸局で内容審査が行なわれる。審査期間は約4ヶ月程度である。

事業を始めるにあたっては、運賃・料金を定め地方運輸局長に届出を行なって、地方運輸局長の認可を受ける必要がある。

介護タクシーを行なう場合は、介護タクシーとして上記に準ずる申請を行なうが、さらに、福祉自動車を保有し、乗務員は介護福祉士の資格を保有している必要がある。介護保険が適応されない福祉タクシーについては、高齢者や障害者が乗りやすいようなリフトやスロープ付きの車両を用意する必要があるが、乗務員が資格者でない場合もある。

2.起業にあたっての留意点・準備

・営業エリアとサービス体系
ハイヤー・タクシーは、地域によって運賃体系と需要が大きく異なる。既存のサービスだけでは差別化を図ることが難しいため、地域のニーズに合わせて何らかの特徴を打ち出すことが重要である。

高齢者の多い地域においては、病院への送迎においてスタンプや回数券を発行して顧客の囲い込みを図り、病院の予約受付までを行なうなど運賃以外の付加的サービスを加えることも検討できる。また、買い物過疎地と呼ばれる場所であれば、乗り合いタクシーの需要が検討できる。都市部においては、接客サービスの向上はもちろんのこと、携帯での呼び出しサービスや電子マネーなど多様な支払い方法を取り入れ、他のサービス店舗と連携して集客するなど、顧客の利便性を上げる工夫が必要である。

今後需要が見込める介護タクシーや福祉タクシーを開業するにあたっては、フランチャイズや緩いグループを作って支援を行なう企業が数多く存在するので、そういった支援を活用しながら自社の営業戦略を練るのも一つの方法である。

いずれにしても、ハイヤー・タクシー台数が飽和している今日では、他社との差別化を検討することが非常に重要であるといえる。

・経営効率を上げる仕組み
配車効率を高め、最適なルートで輸送するめにも、GPS(全地球測位システム)等を利用したAVMシステムの導入は欠かせない。AVMシステムとは、車両に取り付けた発信機からの電波を受信して、運行管理センターが運行中の車両の位置や状況を管理するシステムのことで、カーナビゲーションなどに使われるGPS技術を応用し、運行管理センター内のパソコン画面で運行状況を管理する仕組みが一般的である。

また、安定した経営体制を築くために、良質な運転手の確保・育成は不可欠である。労使問題や顧客とのトラブルが発生しやすい業種であるため、運転手の適切な管理、教育は欠かせない。運転手が働きやすいような施設の整備や、運転技術研修、接客マナー研修などをしっかりと実施し、安心して働ける環境を作ることも重要である。

3.必要資金例

以下では、車両1台からでも開業でき、現在の環境下でも比較的開業しやすい介護タクシーについてのプランの事例を紹介する。


・介護タクシーの事業所を開業する場合の必要資金例

4.ビジネスプラン策定例(モデル収支例)

1)売上計画例

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2)損益計算のシミュレーション

  • 初期投資一括計上分は、開業費から許可申請費用を除いた金額
  • 減価償却費は、設備工事費・什器備品費等の額を5年で償却したもの
  • 必要資金、売上計画、シミュレーションの数値などにつきましては出店状況によって異なります。また、売上や利益を保証するものではないことをあらかじめご了承ください。

(本シリーズのレポートは作成時時点における情報を元に作成した一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

最終内容確認2014年3月