業種別開業ガイド

時計修理店

2025年 1月 8日

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トレンド

時計修理店は、時計のパーツ交換や修理、メンテナンスを専門に行う店である。時計は大きくウオッチ(腕時計)とクロック(壁掛け時計や置き時計など腕時計以外の時計)に分けられ、ウオッチはさらに電池で駆動する電池式時計と、ぜんまいがほどける力で駆動する機械式時計に分別される。

時計修理店が行う作業は主にウオッチを対象としたものだが、まれにクロックの修理依頼を受けることもある。主なサービスには、次のようなものがある。

  • 電池交換:電池式時計の電池が切れた場合、新しいものに交換する
  • ベルト交換:革ベルトや金属ベルトの交換や、長さの調整を行う
  • 内部機構の修理:時計の内部機構に問題がある場合、修理や部品の交換を行う
  • クリーニング:時計の外装や内部のクリーニングを行い、見た目や動作を改善する
  • 防水検査:防水性能を維持するための検査やシールの交換を行う
  • オーバーホール:時計全体の分解・清掃・再組み立てを行い、長期間の使用に耐えるようにする

一般社団法人日本時計協会が発表した統計によると、2023年のウオッチの国内市場規模は小売金額ベースで、前年より26.6%増加し1兆1,036億円(推定)であった。富裕層を中心に高級時計の売れ行きが好調となったこと、訪日外国人観光客によるインバウンド需要が復活しつつあること、若い世代の顧客獲得に成功したブランドが増加したことなどにより3年連続でプラスに推移した。

一方、クロックの2023年の国内市場規模は、前年比3%減の383億円(推定)だった。2019年は414億円だったため、この数年は微減傾向にある。

国内ウォッチ小売市場規模の変遷

ウオッチとクロックのうち、時計修理業に関連するのは主にウオッチである。時計修理業において、電池式時計はベルトや電池の交換など容易な作業が多い。一方の機械式時計は、ほぼ全てのメーカーが2~10年程度に一度のメンテナンスを推奨しており、機械の修理や分解・洗浄・注油・再組み立てを行うオーバーホールとなると、1個あたり数万円の作業料金となることが多い。

近年はスマートウォッチの普及や若者の時計離れなどの影響を受けて、全体的に修理依頼の数が減少傾向にあるものの、高級な機械式時計やアンティーク時計の修理需要は依然として高く、専門的な技術を持つ修理店は一定の需要を維持している。

近年の時計修理店の事情

近年の時計修理店に関しては、以下のような傾向が見られる。

高級時計・アンティーク時計の修理需要の増加

高級時計やアンティーク時計の人気が再燃しており、こうした時計を修理・メンテナンスするサービスの需要が増えている。時計のメンテナンスはメーカー正規のサービスを受けるのが望ましいが、サービス対象外になったアンティーク時計は正規のサービスを受けられない場合もある。そうした時計を修理できる確かな技術を持つ店舗への信頼が高まっている。

価格上昇によるコストや納期のメリット

また、コストや納期の面から時計修理店に持ち込むユーザーも少なくない。近年は、スイスをはじめとする海外メーカーの高級時計の価格が上昇しており、同様にメンテナンス費用も上昇傾向にある。また、本国でしか修理できない特別な製品になると、輸送費や修理費がかさむことに加えて、仕上がりまで数カ月要するのが一般的である。国内で修理できる製品でも、メンテナンス体制が脆弱な小規模メーカーでは数カ月待たされることも珍しくない。そうした点から時計修理店に依頼するケースが見られている。

オンライン予約やデジタル対応の推進

時計修理店でも、オンライン予約や見積もりサービスを提供する店舗が増えている。顧客がスマートフォンやPCから簡単に依頼できるようにすることで、アクセスを向上させるとともに、リモート診断やデジタルでの進捗報告も行うことで、修理の透明性や信頼感を強化している。

メンテナンスサービスの拡充

時計の定期メンテナンスを重視する顧客が増えており、修理店でも定期点検やオーバーホールなどのメンテナンスサービスを拡充している。例えば、オイル交換やパーツ交換など、定期的な手入れによって時計の寿命を延ばすことを目的としたサービスが人気である。

時計修理店の仕事

時計修理店にはいくつかの職種がある。以下に主な職種の一部を挙げる。

  • 時計技師(ウオッチメーカー):時計の修理やメンテナンスを行う
  • 受付・カスタマーサービス:修理依頼の受付や進捗状況の連絡、修理後の引き渡しなど客対応を行う
  • 管理・事務スタッフ:修理店の運営に関わる事務作業や在庫管理、部品の発注などを行う
  • マーケティング・プロモーション:店の宣伝やプロモーション活動を担当し、SNSやウェブサイトの運営、広告の企画・実施などを行う
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時計修理店の人気理由と課題

時計修理店は、精密な技術や顧客との信頼構築などの難しさがある一方で、需要も堅調で、専門技術を活かせる職業である。

人気理由

  1. ニッチ市場での安定した需要
  2. 長く使うサステナブル消費への関心
  3. 職人技や専門スキルが活かせる
  4. 技術を磨けば独立や高収入も可能

課題

  1. 高い技術と専門知識の習得
  2. 設備やパーツの初期投資が必要
  3. 信頼と顧客基盤の構築が難しい
  4. 保証やアフターケアの負担

開業のステップ

時計修理店を開業するには、専門学校などで技術を身につけ、実績のある店舗で経験を積んだ後に独立起業するというステップが一般的である。

開業のステップ
  1. 専門技術の習得:専門学校や研修プログラムで時計修理の基礎技術を身につける。
    経験を積む:時計修理店で実務経験を積み、さまざまなケースに対応できる技術、接客や業務運営のノウハウを学ぶ。
  2. サービス内容の決定: 修理、メンテナンス、オーバーホール、バッテリー交換など。
    価格設定:市場の相場を調べ、価格を設定する。
  3. 設備購入費、店舗改装費、宣伝費を計算する。小規模店舗の場合、50万~200万円程度が目安。
  4. 小規模なスペースでも可能だが、作業スペースと接客スペースを分けることが必要。
  5. 基本工具:ピンセット、精密ドライバー、オイル、タイミング計測器、ケースオープナーなど。
    専門機器:超音波洗浄機、圧力テスター、作業用ルーペ。
    消耗品:バッテリー、部品(パッキン、風防など)。
  6. 事業登録:地域の商工会議所または税務署へ開業届を提出。
    許可申請:必要に応じて中古品販売許可(リユース品を扱う場合)を取得。
    保険加入:賠償責任保険や店舗用保険に加入してリスクを軽減する。
  7. 看板と広告:わかりやすい看板や地域向けの広告を作成。
    Webプレゼンス:店舗のウェブサイトやSNSを活用し、修理例や顧客レビューを発信。
    パートナーシップ:地元の時計販売店やジュエリーショップと提携して顧客を紹介してもらう。
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時計修理店に役立つ資格

時計修理に役立つ資格にはいくつかあるが、主要なものは以下の2つである。

時計修理技能士(日本)

日本で時計修理を行う上で最も権威のある資格。厚生労働省が認定しており、次の3つの級がある。
1級:高度な修理技術が必要。高級時計や複雑な機械式時計の修理に対応。
2級:基本的な修理技術が必要。日常使いの時計の修理が中心。
3級:入門レベル。主に電池式時計や簡単な修理作業。

WOSTEP(Watchmakers of Switzerland Training and Educational Program/スイス)

スイスで認定されている時計修理教育プログラムで、国際的に評価が高い。機械式時計の高度な修理技術や理論を学び、国際的な時計修理業界でのキャリアを広げるのに有利。

WOSTEPの取得はハードルが高いが、その分、取得した時計技師がいる修理店は、ユーザーの信頼を得られることも多い。

開業資金と運転資金の例

時計修理店の開業は、主に個人開業となる。ここではスキルや知識を身につけた時計技師が一人で独立開業する場合を想定する。開業のために必要になる費用としては、以下のようなものが考えられる。

  • 店舗賃貸費用:初期契約費(敷金・礼金)として10カ月分を準備
  • 店舗内装費:作業スペースやカウンター、ディスプレイ用棚の設置、必要に応じた改装費
  • 設備費:時計修理工具、超音波洗浄機、圧力テスター、作業机、照明、工具保管棚など
  • 初期在庫費:時計バッテリー、パッキン、リューズ、風防などの消耗品および交換部品の仕入れに掛かる費用
  • 宣伝・マーケティング費:チラシやポスター、ウェブサイトの制作、SNS広告など
  • 法的手続き費用:開業届や中古品販売許可申請(リユース品を扱う場合)に掛かる費用

以下、開業資金と運転資金の目安をまとめた(参考)。

開業資金例
運転資金例

開業のための資金調達には、日本政策金融公庫の新規開業資金(限度額7,200万円)などが利用できる。銀行よりも有利な条件で借り入れができるため、まずは相談してみることをおすすめする。

また、各地方自治体が独自の融資制度を用意しているケースもあるため、都道府県庁や市区町村役場に確認してみるとよい。

売上計画と損益イメージ

時計修理店を開業した場合の1年間の収支をシミュレーションしてみよう。

売上計画

年間の収入から支出(上記運転資金例)を引いた損益は下記のようになる。

損益イメージ

時計修理は、独学でも学べるものから、専門的な技術を要するものまで幅が広く、その内容によって単価も大きく異なる。電池やベルトの交換では1,000~2,000円程度の単価だが、高級機械式時計のオーバーホールやアンティーク時計の修理では数万~10万円程度の修理代を受けることも可能である。事業の継続、発展のためには、いかに単価が高い依頼を受けられるかが重要になる。

そのためには、まずは自身が高度な技術を身につけていることが欠かせない。その上で、技術や品質の高さを、ウェブサイトなどを通じて発信することが大切だろう。また、機械式時計の場合は一度メンテナンスや修理を行っても、数年後にはまた同様のメンテナンスが必要になる。そのタイミングで通知を行うなど、丁寧なサービスでリピーターを増やすことも忘れずに行いたい。

※開業資金、売上計画、損益イメージなどの数値は、開業状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

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