起業マニュアル

市場や業界の調べ方

事業計画が固まり、取り扱う技術や商品、サービスが決まり、それが大変素晴らしいモノであったとしても、市場にニーズがなければビジネスは成立しません。また、たとえニーズがあったとしても、価格的に妥当性がなく受け入れられなければ、ビジネスとはなりえません。そのため市場にニーズが存在するかどうか、価格が妥当かどうかなどを見極める必要があります。また営業活動をするにしても、闇雲に走り回っても売れるものではありません。すなわち、どこに市場ニーズが存在するかも必要となってきます。要するに、企業が市場に対してアプローチをする行動をマーケティング活動と呼びます。

マーケティングとは

マーケティングの基本は、「物事の見方、とらえ方」であり、マーケティング活動自体は非常にクリエイティブな行為だともいえます。また社会、経済、文化などまでを相手にする、きわめて広範囲な活動であり、どのような種類の業務においても必要とされるものです。さらに外部環境の変化(法律、天候、気温、為替、公定歩合など)によってもマーケティングは変わります。

よく耳にするマーケティングミックスの4Pとは、提供する側の目線で語っています。

Product(製品、サービス、品質、デザイン、ブランド など)
Price(価格、割引、支払条件 など)
Place(チャネル、輸送、流通範囲、立地、品揃え、在庫 など)
Promotion(販売促進、広告、ダイレクトマーケティング など)
これを顧客の目線に置き換えると4Cという表現にもなります。
Product(製品) ⇒ Customer solution(顧客ソリューション)
Price(価格) ⇒ Customer cost(顧客コスト)
Place (流通) ⇒ Convenience(利便性)
Promotion(プロモーション) ⇒ Communication(コミュニケーション)

事業に新規性がある場合は、市場に受け入れられるかが最重要課題ですが、既存のビジネスであったとしても、上記の条件に加えて他社に追いつかれない、追い抜けるだけの優位性があれば、ビジネスは成功を収めます。製品やサービスに優位性があることは、ビジネスとして当然ですが、価格設定ひとつを取ってみても、勝つための価格、コストプランニングができれば、優位性を持つことができます。また流通やプロモーションの戦略によっても、潜在的なマーケットを掘り起こし、潜在的ユーザーを顧客からヘビーユーザーへと変えていくことも可能です。

以上のようなマーケティング戦略を立てるためには、まず市場を知ること、市場調査が必要となります。市場調査を行ない、分析することによりマーケティング戦略が立てられ、事業のアクションの方法、方向性が見えてきます。

企業のマーケティング活動と市場調査

市場調査は、企業が市場のニーズを把握するために実施するものですが、現状のニーズを分析することだけがその目的ではありません。市場調査は、企業がさまざまな意思決定を行なうときに、重要な情報を与えてくれるものです。ここでは、企業のマーケティング活動と市場調査との関係について考察していきます。

1.企業のマーケティング活動と市場調査

マーケティングとは、もっとも広い概念でとらえれば、「企業から市場への働きかけ」全体を指すといえます。また、狭い定義では市場調査、つまりマーケティング・リサーチそのものを指すこともあります。マーケティングとは一体何を示すのか、という基本的な問題に対しては、「企業が消費者のニーズを充足させるために実施するあらゆる創造的活動」をいうとの認識をとることにします。そして、このようなマーケティング活動を効果的に進めるうえで、市場調査は重要なツールになります。

現在の消費者は、物理的にはかなりの水準まで満たされているといえます。必要なモノはいつでもどこでも、誰もが購入できるような環境が整備されています。しかしながら、逆に個々の生き方や、好みなどが多様化してきていることも確かです。このような環境にあって、企業は消費者のニーズを探ることに力を注がなければなりません。それは、「ありきたりの商品やサービスでは消費者が関心を示さず」、「他社のより魅力的な商品・サービスに顧客が流出してしまう」からです。そのような事態を回避するために、系統的な市場調査を実施し、自社経営の方向づけを行なっていく必要があります。

2.市場調査から入手可能な情報

市場調査とひと言でいっても、その方法は多種多様です。現在では、インターネットによる調査の方法や、それを請け負ってくれる企業も出てきていますが、相変わらずもっとも広く行なわれているのは、質問紙調査と面接調査です。ここでは具体的な例を取り上げ、企業のマーケティング活動において、市場調査がどのようなかたちで使われるのかを示していきます。

たとえば、自動車メーカーが新製品モデルの開発を行なうケースを考えてみましょう。まず、社内・社外の情報をもとにマクロ的な分析を行なった結果、スポーツカー市場の潜在的な需要を見出したとします。そこで、製品コンセプトを決めるために、市場調査を実施し、調査の結果から、既存商品と消費者ニーズを次の図のように分析したとします。これを製品ポジショニングといいます。図中のA~Gまでは既存ブランドであり、消費者の選好(マーケティング用語で消費者のニーズがあるところを意味する)がZであったとします。この場合、比較的コンパクトで馬力がある車を消費者が欲している、ということであり、「新製品のコンセプトはZに置け」という情報が市場調査から明らかにされたのです。

これは単純化されたひとつの例ですが、このように「市場調査を行なうことでマーケットの構造と消費者のニーズが明らかにされ」、「自社の戦略の方向性を決定することが可能となる」という点に着眼してください。ただし当然のことですが、製品やサービス、そしてターゲットが異なる場合には、おのおののポジショニングの位置は変わります。

製品ポジショニングの例

市場調査の展開

次に、市場調査の展開についてみます。市場調査は、事実の発見、事象の説明、企業の行動指針の提供、という三つの段階があります。

1.事実の発見

市場調査の第一段階は、「現状はどうであるのか」という問いかけに対する回答を導き出すことです。 先に取り上げたスポーツカー市場の現状分析では、既存のブランドをすべて地図(プロダクト・マップ)上に位置づけることで、市場の構造そのものを明らかにしています。事実の発見は、マーケティング・リサーチの初期段階でありながらも、多くの情報をもたらしてくれるという重要な役割を担っています。

2.事象の説明

市場調査の第二段階は、事象の説明を行なうことです。「消費者はなぜそのように行動するのか」その行動の背景にある理由を発見しようとする段階 すべての消費者の行動には何らかの理由があり、それを多面的に分析して明らかにします。この第二段階までは、過去の情報をもとに分析している点で共通しています。

3.企業の行動指針の提供

市場調査の第三の段階は、企業の行動指針を明らかにするというものです。この段階では、市場調査は現状分析にとどまらず、「企業は今後いかに行動すべきであるのか」という重要な意思決定を行なうときの判断材料を提供することになります。

これからの市場調査では、この第三段階がより重要になるのではないでしょうか。新しい商品やサービスを実施するにあたり、現状を分析したり、あるいは消費者行動の要因を把握したりすることは必要不可欠な事項です。しかし、それだけで十分なマーケティングが可能となるものではありません。

消費者のニーズが多様化、かつ高度化している現状にあっては、さらに踏み込んだ分析が必要になります。最近では、「より高度な消費者の欲求を把握し、また、顕在化していない欲求までをマーケティング・リサーチの実施によって掘り起こす」というのが主流となっています。これを戦略的な市場調査と呼びます。

市場調査の三つの段階をあらためて図に示します。

製品ポジショニングの例

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