業種別開業ガイド
持ち帰り弁当店
2019年 10月 31日
トレンド
(1)成長産業となりつつある「中食」
「持ち帰り弁当店」とは、米飯と総菜を組み合わせた弁当を店頭で販売する小売業をさす。最近では、弁当や総菜などの調理済み食品を家庭に持ち帰って食べる「中食」という言葉が一般的になりつつあり成長産業となっている。
(2)市場規模
公益財団法人食の安心・安全財団編「平成30年度食の外食産業規模推計値」によると、持ち帰り弁当店や惣菜店などの「料理品小売業」の2018年の市場規模は、7兆 8,647億円、前年比2.1%増加し、近年は拡大傾向にある。一方、一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会編「2017年度フランチャイズチェーン統計調査」によると、フランチャイズチェーンに加盟する「持ち帰り寿司・弁当店」の2017年度の売上高は3,596億円、前年度3.9%減少している。このように、同じ中食でも、二極化の傾向がみられる。
つまり、「中食」の市場全体は成長しているものの、分野によっては競争が激しいため、差別化を図ることが、重要であるといえる。
(3)最近の弁当販売店の傾向
飲食店の平均単価が高い大都市のオフィス街において、酒類小売店やミニスーパーで手頃な価格の弁当を販売している店舗などがある。そのほか、昼食時間帯にキッチンカーにて手頃な価格の弁当販売を行っている店舗も見られる。価格帯は600円から800円程度が多い。

ビジネスの特徴
持ち帰り弁当店の主な来店客は、学生や単身の会社員、主婦、OLなどであり、客層は立地により大きく異なる。消費者が弁当店を利用する理由としては、次のような利点があるからである。
- 出来立ての温かい弁当が食べられること
- 飲食店よりも価格が安いこと
価格については立地にもよるが、少なくとも近隣飲食店やコンビニエンスストア、他の惣菜店等と比較して、値ごろ感を消費者に感じてもらう必要がある。
基本的に商圏が半径数百メートルの範囲と狭いため、営業に適した立地の確保がとくに重要である。
開業タイプ
フランチャイズチェーンに加盟する形態としない形態の店舗があるが、フランチャイズチェーンに加盟する持ち帰り寿司・弁当店が近年苦戦している傾向があるため、ここでは、チェーンには加盟しない形態で説明する。間借り店舗での営業や移動販売、その組み合わせなど、様々な営業形態が考えられる。

開業ステップ
持ち帰り弁当店の開業は、移動販売車での販売形態も含め、飲食店営業の許可業種である。
(1)開業のステップ

開業前に一番大切なのは立地調査であり、弁当店は立地の良し悪しで売上の大半が決まるという認識を持つことが重要である。
移動販売車の場合も、立地に関しては店舗と同様である。ただし、道路交通法により公道上での営業は基本的にできないほか、私有地であれば土地所有者の許諾が必要となる点には留意が必要である。
(2)必要な手続き
店内調理を行う持ち帰り弁当店は、許認可関係は飲食店と同様に「飲食店営業」の許可を得る必要がある。
移動販売車により販売する場合は、調理を行う場合は「飲食店営業(自動車)」が必須、調理済弁当の販売だけの場合は地方自治体の条例により「食料品等販売業(自動車)」が必要となる場合がある。いずれの場合も、食品衛生責任者の設置も含め店舗での飲食業許可申請と同じ流れとなるので、最寄りの保健所で確認されたい。
店舗を設ける場合は、飲食店と同様の申請が必要となる。店舗の設備や構造については、法律上の要件を満たしていれば営業許可を取得することができる。
ただし、細かい要件は保健所ごとに運用が異なるため、注意が必要である。内装工事開始前に店舗の概要を書いた図面等を持って、出店地域にある保健所へ事前相談に行き、工事完了の直前に飲食店営業許可申請をして、工事完了のタイミングで保健所の担当に店舗に検査に来てもらうというのが一般的な手続きの流れとなる。また、食品衛生責任者の設置も義務付けられている。下記表を参考に出店地域の保健所に確認されたい。
申請先 |
出店地域の保健所・食品衛生課 |
---|---|
必要書類 |
・飲食店営業許可申請書 |
メニュー、商品の品揃えなど
顧客の来店動機に、「飲食店よりも価格が安い」という傾向がみられるので、メニュー数を減らすことでコストを抑え、近隣飲食店よりも値段を抑えた価格設定が必要である。さらに、回転の良いメニューとすることで、価格を抑えつつも売上が確保できるようなメニューを考えることが大切である。
必要なスキル
出店のための調査能力や限られたメニュー数における工夫、初期費用をいかに抑えるかという工夫が求められる。
なお、自らが対応困難な場合は専門家への相談(近年は産業振興のため行政機関にも無料相談窓口があることが多い)を通じて、これから能力を身に着けることも可能である。

開業資金と損益モデル
(1)開業資金
一般的に、店舗を構えて開業する場合、店舗の改装や厨房設備に多額の費用がかかる。したがって、初期費用を抑えるためには、キッチンカーによる移動販売が有効な手段となり得る。
【軽トラックや軽ワゴンを改造したキッチンカーを導入し、調理用のキッチンを既存飲食店から間借りする例】

(2)損益モデル
a.売上計画
一日百食を販売、平日5日間にオフィス街でキッチンカーにより弁当販売を行う前提で、売上高を算出した。

b.損益イメージ
標準財務比率(※)を元に、法人形態の場合の損益のイメージ例を示す。なお、家賃は仕込み用キッチン間借費用及び移動販売時の軒先間借費用を月10万円で想定。

※標準財務比率は持ち帰り・配達飲食サービス業に分類される企業の財務データの平均値を掲載。
出典は、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」。
c.収益化の視点
出店にあたり「持ち帰り弁当店という事業を通じて、何を実現したいか」を第一に考える必要がある。飲食店、持ち帰り弁当店はともに競合が激しく、同業との差別化が他のビジネス以上に求められるためである。
例えば、「物価の高いオフィス街で、気軽に昼食をとってもらいたい」というのであれば、移動販売車にて販売し、価格を抑える(中品質低価格)のも一つの答えである。
また、「高級食材を使いながら、手頃な価格の弁当を作りたい(高品質中価格)」という販売方法も、移動販売車のメリットを活かすことで取り得る。移動販売車での開業は、初期投資額を抑えられるため、ある程度低価格で販売にしても、早期に投資が回収できるためである。
競合が多いことを前提に、初期投資額を抑える工夫とともに、競合に押され想定通りに売上が得られなかった時に、軌道修正ができる形での開業が望ましい。移動販売車であれば、固定立地の店舗と比べ、場所を移動することが簡単であるから、軌道修正を図るのは容易である。
※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)