業種別開業ガイド

テイクアウト専門店

2025年 2月 5日

テイクアウト専門店のイメージ01

トレンド

(1)パンデミック後も続くテイクアウト需要の定着

新型コロナウイルスの感染拡大によって急速に拡大したテイクアウト需要は、パンデミック後の現在でも生活スタイルにしっかりと根付いている。「家でお店の味を楽しむ」という習慣が日常化し、共働きの増加や外食機会の減少を背景に、テイクアウトはより多くの人々にとって便利で親しみやすい選択肢となっている。飲食業界全体でテイクアウト商品への注力が続いており、専用のメニューやパッケージが改良され、店舗の収益源として欠かせない位置づけとなっている。

(2)特化型テイクアウト専門店の台頭

特定の食材や料理にフォーカスした業態が、テイクアウト市場を活性化させている。点心やスープ、寿司、カレーといったジャンル特化型の専門店が注目を集め、提供商品の品質を高めることで差別化を図っている。これらの特化型店舗は、顧客が「専門性が高い=信頼できる」というイメージを抱きやすく、リピーターを確保しやすいのが特徴である。特に、調理の最終工程が簡易で、家庭での再現性が低いメニューが好評を博している。

(3)テイクアウトとデリバリーのハイブリッド化

テイクアウトとデリバリーを組み合わせたハイブリッド型の運営が増えている。テイクアウト利用をメインとしつつも、デリバリーアプリや独自プラットフォームを活用することで、店外消費の幅を広げているのが特徴だ。この運営形態は、デジタル化の進展を背景に、店舗の回転率を向上させながら、顧客満足度を高める効果がある。また、店舗に直接足を運ぶ必要がないデリバリーサービスは、遠方の顧客や仕事中の人々にも対応可能であり、販売チャネルを多様化する重要な要素となっている。

(4)冷凍食品やレトルト商品の人気拡大

テイクアウト市場では、持ち帰り後にすぐ食べられるだけでなく、長期間保存が可能な商品の販売が急成長している。店舗レベルでの真空保存や冷凍保存のクオリティーが上がってきたことから、飲食店の味をそのまま維持した商品が家庭でも楽しめるようになった。また、この傾向は、食事の時間を選ばない利便性や、外出せずに簡単に調理できる点が評価されていることも要因である。特に、家庭でのストック食として活用されるケースが増えており、日常の「おかず」にも特別な「おもてなし料理」にも対応できる商品が増えている。

(5)鶏の唐揚げ専門店ブームとその転換期

鶏肉を使ったメニューへの注目が高まり、特に唐揚げ専門店がここ数年で急成長を遂げた。ジューシーな味わいと手軽さが受け入れられ、多くの店舗が全国でオープンした結果、一時は業界のトレンドを牽引する存在となった。しかし、このブームは飽和状態を迎え、供給過剰や顧客の飽きが要因となり衰退の兆しが見え始めている。この動向は、特定の食材やメニューに依存するリスクの高さを示しており、業界全体が多様性を取り入れた新たな展開を模索する段階に入っていると言える。

近年のテイクアウト専門店事情

近年、テイクアウト専門店は社会のニーズに応じて成長を続けているが、その運営にはいくつかの課題と新しい取り組みが見られる。まず、コストと収益性のバランスを取ることが難しい点が挙げられる。包装材や容器のコストがかさむだけでなく、オンライン注文システムの導入や運用にかかる費用も加わり、一般的な飲食店とは異なる経費構造となっている。さらに、商品の品質維持や効率的なオペレーションを実現するための専用設備への投資も必要となり、これらをいかに収益に反映させるかが重要な経営課題となっている。

また、コンビニエンスストアやスーパーとの競争が激化している現状も無視できない。惣菜系の専門店においては、現況はコンビニとスーパー、そしてテイクアウト専門店(惣菜専門店)の3つがシェアを3割ずつ持っている状況である。

2022年 業態別市場構成比(%)

コンビニとスーパーは手軽さや価格面で強みを持ち、豊富な商品ラインナップを提供しているため、テイクアウト専門店はそれらとの差別化が不可欠である。そのため、特化型メニューや高品質の商品開発に注力し、独自性を打ち出す動きが見られる。素材にこだわった商品や、見た目にも楽しいパッケージデザインを採用するなど、付加価値を高める工夫が求められている。

加えて、オンラインプレオーダーの普及もテイクアウト市場の重要な要素となっている。顧客がスマホで事前に注文し、店舗で待ち時間なく受け取れる仕組みは、顧客の利便性を高めるだけでなく、店舗の業務効率化にも大きく寄与している。こうしたデジタル化の流れは、顧客体験を向上させるとともに、店舗運営のスムーズさを支える重要な役割を果たしている。

これらの動向を踏まえると、テイクアウト専門店は新たな課題に直面しながらも、差別化戦略やデジタルツールの活用、運営形態の柔軟性を通じて成長を続けていると言える。顧客ニーズに対応する多様なアプローチが、今後の業界発展の鍵となるだろう。

テイクアウト専門店のイメージ02

開業のステップ

開業のステップ

必要なスキル

テイクアウト専門店を成功させるためには、商品開発力が不可欠でありこれが全てと言っても過言ではない。テイクアウトでは、家庭で再現が難しく、持ち帰りや保存に適した商品が好まれるため、これらの条件を満たすメニューを考案する力が重要だ。例えば、鶏の唐揚げでは温かいままでも冷めても美味しく、さらに温め直してもクオリティが落ちない商品を開発する必要がある。また、見た目やパッケージデザインに工夫を加え、顧客に「特別感」や「おしゃれさ」を感じてもらえるような商品を提供するブランディングも忘れてはならない。

次に、店舗運営力も欠かせないスキルである。テイクアウト専門店は、一般的な飲食店と比べてオペレーションの効率性が経営の成否を左右する。特に、短時間で多くの商品をスムーズに提供するために、調理工程の簡略化や作業動線の工夫が重要だ。この点においては飲食店のノウハウではなく、惣菜製造業の域となるような内容もある。さらに、オンラインプレオーダーの導入や販売データを分析して適切な仕入れ量を見極めるなどデジタルツールを活用して業務効率化を検討するスキルも持っていて欲しい。

また、販売促進力も経営において大きな役割を果たす。特に生活圏のいい立地にあるテイクアウト専門店では店頭ディスプレイやSNSを活用した宣伝が効果的である。特に、SNSでは商品写真を魅力的に見せる投稿や、キャンペーン情報を発信することで、より多くの顧客を引き寄せることができるため、継続的かつ計画的な運用が求められる。

テイクアウト専門店に役立つ資格と許可

食品衛生責任者の資格を取得し、飲食店営業許可をとれば問題はないが、冷凍食品や保存が可能な加工食品を製造して販売する場合、食品関連製造業の許可が必要となる。これには、冷凍食品製造や加熱調理食品製造など、取り扱う商品の内容に応じた許可が含まれる。また必須ではないが、テイクアウト商品には食品表示が義務付けられているため、原材料やアレルギー情報を適切に記載するための知識を身につけられる資格である食品表示検定を受けておくと役立つであろう。

開業資金と運転資金の例

開業にかかる資金と月々の運転資金の目安は以下の通りである。地域や店舗の規模によって経費も異なるが、具体例として『とんかつテイクアウト専門店』をモデルに試算したので、参考にしていただきたい。

【前提条件】 川崎市高津区  駅から3分 5坪

開業資金と運転資金の例

売上計画と収益イメージ

前項の店舗立地条件で収支予測を掲載している。客単価が徐々に上がっているのは、多くの顧客に認知されることで、自己消費だけでなく、手土産や代理購入が増える傾向にあることを考慮。日常遣いできるお店であることからにファーストトライしやすいため、開業後、半年でこの店舗の成否がわかってしまうことが多い。また、開業時に設定した価格や商品のポーション(分量)が受け入れられなかった場合、その後、変更しても、盛り返すのはとても厳しいと考えるべき。初期設定が生命線である。

売上計画と収益イメージ

補助金・給付金など

テイクアウト専門店においては、注文受付と会計業務の時短が絶対条件になるため、デジタルツールの導入を前提に、IT導入補助金と人材開発支援補助金を活用してほしい。これは店舗作業の効率化のためにデジタルツールを導入する際と、それを有効活用できるようにスタッフを教育する研修費や研修期間の人件費を補助してもらえる制度である。また国からの支援だけでなく、各市町村でも創業時の宣伝費や家賃のサポートなど様々な補助金・助成金があるかもしれないので詳細を確認しておきたい。

テイクアウト専門店のイメージ03

※開業資金、売上計画、損益イメージなどの数値は、開業状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元に作成した一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

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