業種別開業ガイド

放課後児童クラブ(学童保育)

2024年 4月 19日

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放課後児童クラブ(学童保育)のイメージ01

放課後児童クラブ(正式名称:放課後児童健全育成事業)は、共働き家庭における「小1の壁」(子どもが小学校にあがると、預けられる時間が保育園の時より短くなるため、仕事と子育ての両立が難しくなってしまうこと)や「待機児童」問題を解決するために、令和5年度末までに152万人の受け皿を整備するよう施設の拡充が求められてきた。しかし、令和5年5月時点の登録児童数は約146万人であり、依然として待機児童数も16,276人と報告されていることから、放課後児童クラブの整備は不十分な状態が続いており、待機児童問題の解決は喫緊の課題となっている。

放課後児童クラブには、「公立公営」「公立民営」「民立民営」という3つのタイプがある。
「公立公営」は、自治体が自ら運営するタイプであるため、開業を検討する際には、自治体から運営を委託される「公立民営」、もしくは自社で立ち上げる「民立民営(民間学童)」から選択することとなり、経営方針・開所時間・取り組みたい活動等によりどちらを目指すか検討するとよい。

1. 公立民営

自治体から支払われる委託料が主な収入となり、場所も小学校の空き教室等の利用が指定されている。自治体が利用者の募集に携わるため、事業者にとっては利用者の募集コストが非常に低く、更に多くの場合が複数年契約のため安定した経営が可能。厚生労働省の「放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の実施状況」によれば、令和5年5月現在、全国の放課後児童クラブのうち約半数(49.8%)が公立民営である(公立公営との合計は75.8%に及ぶ)。公立のクラブでは、運営方針等は自治体の指針に沿ったものになるため、自社の特色は打ち出しにくい。

2. 民立民営(民間学童)

一般の学習塾などと同様に、利用者から直接支払われる月額利用料等が主な収入になる。また、集客は自社で取り組む必要があり、月額利用料も公立より高額に設定されるため、魅力ある施設でなければ利用児童が集まらない可能性がある。

全国の放課後児童クラブのうち23.3%が民立民営となっているが(令和5年5月現在)、こうした集客のハードルが高い一方で、経営・活動の自由度が高く、自社の特色を打ち出す事が可能である。その特色が、保護者や地域から支持され、公立民営を越える売上を得ている施設も数多く存在する。

その他、運営方針を示しながら独自のサービスとの共存も可能とする、公立民営と民立民営のハイブリッド(中間)のような形で運営される場合もある。東京都の小平市では、令和5年に開所日数・対象児童・入会資格等を公立民営クラブに準じた内容で運営する民立民営クラブを募集し、補助金を通常の放課後児童クラブの運営費部分について提供しつつ、放課後児童クラブ外の活動として、公立民営のクラブでは提供していない夜7時以降の延長保育や長期休業期間中の昼食の提供、送迎、学習塾、各種スポーツ活動・アート活動などの多様なニーズに対応できるような独自のサービスの提供を推奨している。

近年の放課後児童クラブ事情

令和5年12月にこども家庭庁は、待機児童問題を解決するため「放課後児童対策パッケージ」をとりまとめた。その中で「放課後児童クラブを開設する場の確保」が必要であると示され、これまで安全・安心な場の確保として学校施設の活用が推奨されてきたが、今後は学校敷地内のみならず、学校外においても利活用できる空間の確保や施設整備も拡充するとしている。これらのことから、まだまだ放課後児童クラブを求めるニーズは高く、社会的に必要とされている事業であるといえるだろう。

クラブ数、支援の単位数、登録児童数及び利用できなかった児童数の推移

令和5年5月時点で、放課後児童クラブの施設数は25,807箇所となっている。施設数の多い都道府県は、東京都の1,868箇所、埼玉県の1,031箇所、千葉県の792箇所と続いている。逆に施設数の少ない都道府県は、高知県の97箇所、鳥取県の123箇所、和歌山県の145箇所である。

放課後児童クラブの施設数は、必ずしも人口に比例しているわけではなく、自治体ごとに需給状況が異なるため、開業を検討する場合は直接候補地となる自治体に問い合わせ、情報収集をすると良い。

運営主体は社会福祉法人が最も多く、株式会社、運営委員会・保護者会、NPO法人と続いている。株式会社やNPO法人での運営実績も多くあることから、将来を担う子どもたちの健やかな育成に貢献したいと考える企業に対して門戸は開かれているといえる。

運営主体別のクラブ数

放課後児童クラブの仕事

放課後児童クラブは、放課後に児童が安心して過ごすことができる遊び・生活の場を提供する事業である。国が策定した「放課後児童クラブ運営指針」に詳細が記されているため、開業を考える際には確認しておきたい。

同指針によれば、子どもが安心して過ごせる生活の場としてふさわしい環境を整え、安全面に配慮しながら子どもが自ら危険を回避できるようにしていくとともに、子どもの発達段階に応じた主体的な遊びや生活が可能となるように、自主性、社会性及び創造性の向上、基本的な生活習慣の確立等により、子どもの健全な育成を図ることが目的である旨が示されている。

また、子どもの育成の視点のみならず、地域で必要とされる放課後児童クラブであるためには、保護者・小学校・地域社会とかかわる活動を取り入れ、連携を図ることも重要である。放課後児童クラブにおける平日の1日の流れ(例)は以下の通り。前述の「放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の実施状況」によれば、学校終了後から出席し、終了時刻を18時半〜19時に設定しているクラブが、令和5年現在で全体の過半数(53.3%)である。

放課後児童クラブの仕事の流れ

開業のステップ

放課後児童クラブにおける一般的な開業ステップは以下の通りである。

開業のステップ
  • 「公立民営」の放課後児童クラブは、各自治体における公募型プロポーザル方式にて募集される。
  • 全国で統一された応募参加資格は存在せず、それぞれの自治体が定める基準による。
  • 開業のハードルとして、事業を安定的に実施するために、学童クラブ、児童館、認定子ども園、認可保育所、認証保育所、幼稚園、学校、放課後子ども教室又は学童クラブ類似事業等の運営実績を求められる事が多いが、一部ではそうした要件を設けていない自治体も存在している。
  • 公募は5月〜7月頃に各自治体のホームページで翌年度の募集要項が公開されるケースが一般的である。
  • 募集要項には応募参加資格を含めた詳細が記載されているため、開業を希望する場合はよく確認すること。

「民立民営」の場合は、何よりも事業計画をよく練る事が重要である。開業地・利用料・サービス内容などを検討し、どのような特色(強み)を持ったクラブを目指すか、子どもや保護者のどのようなニーズを満たすかを考えると良い。また、数値計画は必ず作成し、売上見込・損益分岐点を算出した上でどの程度の利用者を確保しなければならないかを理解しながら広報・集客活動を行うと良いだろう。

放課後児童クラブに役立つ資格

放課後児童クラブを開設するためには、1クラスにつき指導員を2人以上配置し、うち1人は放課後児童支援員とするよう定められている。放課後児童支援員とは、各都道府県が実施する認定資格研修を修了した者であり、当該研修を受講するためには以下の資格要件等を満たす必要がある(放課後児童健全育成事業の設備及び運営に関する基準第10条第3項)。

  • 保育士
  • 社会福祉士
  • 教員免許状(幼稚園・小学校・中学校・高等学校)保有者
  • 大学等で一定の課程を修了した者
  • 児童福祉事業、放課後児童健全育成事業等の実務経験を有する者

最も一般的な1クラス40人規模の放課後児童クラブでは、平均で常勤職員2人・非常勤職員1.4人(合計常勤換算で計3.4人)といった職員配置により運営が行われている。なお、放課後児童クラブに従事する者のうち放課後児童支援員の割合は、56.1%となっている(厚生労働省「「放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の実施状況」)。

放課後児童クラブ(学童保育)のイメージ02

開業資金の例

「公立民営」の例を挙げると以下の通り。

開業資金の例

開業に必要な資金は開設する自治体によっても異なるため一概には言えず、上記は一例である。開業をする資金面のハードルはそれほど高くないが、開業のステップで解説したように自治体の公募で選ばれる必要があり、その際には自社の経営状況及び資産等も審査対象となることから財務面の健全性が重要である。

売上計画と損益イメージ

こちらも「公立民営」の例を挙げる。

1. 売上計画

規模に応じた補助金・委託料の金額は以下の通りである。当然ではあるが、登録児童数が多い施設ほど売上高(補助金・委託料)が多くなっている。

売上計画

2. 損益イメージ

平均登録児童数40.1人の施設における損益イメージは以下の通り。

損益イメージ

3. 経営上のポイント

毎年の売上高は、補助金・委託料が安定して入るものの上振れはあまり期待できないため、年間計画を緻密に立て各年度の予算を管理する必要がある。その他、当事業の損益イメージは介護事業や障害福祉事業に近く、費用の大部分を人件費が占めており売上高人件費率は70.7%と高い水準になっている。

子どもと保護者が安全・安心に利用できる人員配置を行うため、必要に応じて常勤職員に加え非常勤職員を採用し、売上と人件費のバランスを意識すること。地域によってはボランティアの協力が得られる場合もある。そうした人材が定着する労働環境を整える事に注力し、人材に係るマネジメントを適切に行う事が、当事業を成功させるためには重要な要素である。

【参考】

放課後児童クラブ(学童保育)のイメージ03

※開業資金、売上計画、損益イメージなどの数値は、開業状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

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