起業マニュアル

ビジネスプランに必要なことは何か

ビジネスプランの雛形は、数多くの書籍に掲載されていたり、公的機関やベンチャーキャピタル等のウェブサイト等からダウンロードできるようになっており、数多くの情報が簡単に手に入るようになっています。ここでは、単に雛形を示すのではなくビジネスプランを作成する際に検討すべき「項目」と、計画の整合性をチェックする方法を解説し、作成の効率化、精度の向上を図るヒントを説明します。

ビジネスプランって、何?

ビジネスプランには大きく3つの役割があります。これは、「プランを見せる相手」「プランの利用目的」「プランを見る時期」によって、様々な活用方法や利用価値があるということです。一度作って提出しておしまいというものではないことを意識して作成したり、十分に活用するようにしましょう。

ビジネスプランの役割(1)

1つ目は「対外的な説明資料」です。これは、投資家や金融機関、顧客となりうる法人や個人、採用したい人材など、外部の方々に事業の内容・コンセプトを説明する役割を果たすものです。外部の方に理解していただかないと意味がないので、平易な言葉を使い、業界用語や専門用語はできるだけ使用しないようにしましょう。また、プランが単なる夢や願望ではいけません。根拠を示し数字で語りましょう。

ビジネスプランの役割(2)

2つ目は、「社内向け・自分向けの管理資料」という位置付けです。事業の目標や優先順位を示したり、役割分担や実施時期(=マイルストーン)を明確にしたり、競合他社との比較に使うこともあります。また、迷ったときの原理原則や理念を示すものとしても重要な役割を果たします。この意味で、ビジネスプランを創業者や代表者だけのものにせず、社員全員の共通理解・意思統一のための資料として活用しましょう。

ビジネスプランの役割(3)

3つ目は、事業を始める「始めの一歩」であることです。頭の中のアイディアを実現するために、イメージを紙に落として誰にでも見えるようにすること、価値を再確認したり、リスクを顕在化させて対策を検討すること、項目建てて整理することで抜け落ちがないかチェックすることなど、お金をかけて行動する前にできることはたくさんあります。プランを作成すること自体が目的ではありませんが、丁寧な検討は結果的に確実・迅速な事業開始につながります。

相手のためのビジネスプラン

ビジネスプランは見せる相手が何を期待しているかをよく考慮し、内容や分量を変更するべきものです。例えば、金融機関向けに作成する場合、銀行向けと投資家向けでは取り扱うべき情報の質も量も異なります。確実な返済を期待する銀行向けには、リスクの小さい確実なビジネスであることを丁寧に説明すべきですし、大きなリターンを期待する投資家向けには多少リスクがあっても大きな将来性を有していることを強調すべきでしょう。

ビジネスプランは「物語」

モノであろうとサービスであろうと、性能や機能だけでは差別化しにくい時代になっています。また、3Dプリンターの普及などにより、製造や流通のコストも劇的に安くなっています。つまり、「モノ」そのものに付加価値をつけることは難しくなっているということです。この状況で「勝てるビジネス」を構築するには、特徴的な「物語」とその物語への深い共感が必要です。この物語がわかりやすく伝わるための要素であり、プランに盛り込むべき項目である「8つの項目」について説明します。

1. 課題は何か

1つ目は「課題は何か」です。プランの読み手が「確かに大きな問題だ」「速やかに解決したい」と思う課題でなければなりません。不便・不足など「不」のつくこと、非効率など「非」のつくことなどがわかりやすい課題です。一方、実現したい理想の社会と現時点とのギャップを課題と捉える考え方で潜在ニーズを発掘する方法もあります。「あったらいいな」ではなく「ないと困る」ものであれば、ニーズも大きいといえます。

2. 解決方法は何か

2つ目は、最初に示した「課題」をどう解決するのかを説明します。ものづくりであれば提供される性能や実現する機能など、サービスであれば付加価値の内容や利用方法などです。また、新規性、つまり従来品との違いやなぜこれまでなかったものが実現できるようになったのかについてもここで説明すると良いでしょう。ただし、ここでは概要にとどめ、それぞれの詳細はあとで説明するようにします。忙しい投資家や潜在顧客に短時間で興味を持ってもらうためです。

3. ヒト・チーム

3つ目は自己紹介です。創業者や経営陣のキャリア、知的財産など保有スキル、リソース、ネットワーク、役割分担などを説明し、2つ目に説明した解決方法を実現できるメンバーがそろっているということを強調します。ビジネスプランは所詮架空の物語なので、実現できる証拠や、長期にわたって取り組める信頼性を示す必要があります。聞き手はあなたが誰かではなく、プランを実現できるかどうかに関心がありますので、自己紹介を後に回すのも一つの方法です。

4. メニュー

4つ目はメニューです。ここで商品の詳細を具体的に説明します。モノであれば性能や機能、サービスであれば付加価値の内容などですが、顧客が感じるメリットは何かという視点で説明します。「利便性→手間や時間の節約」「価値の向上→自己啓発・健康向上」「専門性→法律や会計の知識」「【P】ラインナップ→バージョンや大中小、期間」などがありますが、顧客の利用シーンが思い浮かぶように説明することを心がけましょう。

5. 技術の中身

5つ目は技術の中身、つまりモノやサービスのカラクリです。4つ目と異なり提供側の状況を説明します。モノであれば動作の仕組みや技術的内容、サービスであれば流通経路や提供方法、また、必要なコストなどもここで説明します。知的財産の状況、開発にあたっての課題と解決の見通し、そのための必要資金なども説明すると良いでしょう。課題のない完璧なプランなど存在しません。正直に説明することがむしろ信頼性を増すことにつながります。

6. 顧客は誰か

最初に示した課題を抱えた顧客について、ここで詳細に説明します。対象となる顧客の特徴や業界事情、市場規模などです。各種データやヒアリングなどを活用し、定量的に示しましょう。ありがちなミスとして、例えば高齢者全体の2割を獲得します、といった類の説明が散見されます。なぜ2割獲得できるのか、どのようにリーチするのかの説明がなければ単なる願望に過ぎません。売上予測の根拠となる指標ですので、希望的観測ではなく確かな数字と説明が必要です。

7. 競合分析

7つ目は競合分析です。まず、「競合分析は自社分析である」ということに真摯に向き合ってください。類似商品との単純比較に終始するあまり、都合の良い星取表や見当違いの競合マップを作成するケースが良くあります。自社製品が解決する課題は何か、提供価値の本質は何かを正しく理解していないと、差異の源泉は何かを分析することはできず、競合相手を誤って選定するというミスにつながります。

8. サマリー

8つ目はサマリー、つまり「まとめ」です。これまでの説明の中で最も強調したいこと、読み手に最後に認識してほしいことなどを文字どおり「まとめ」たものであり、単に説明を繰り返すだけのものではありません。これは紙のプランだけでなく、プレゼン資料でも重要です。要点を簡潔にまとめることは、本質を理解していないとできません。自分自身のチェックのためにも、サマリーをできるだけ簡潔に作成することをお勧めします。

プランの整合性を確認する

作成したプランの整合性を確認する場合、それぞれの項目の「1つ前」ではなく「2つ前」に戻って検討してください。例えば「3. 自己紹介」までの流れがしっくりこないと感じた場合、2つ前の「1. 課題」まで戻り、なぜ自分たちがその課題を解決したいのかを再検討する、「6. 顧客が誰か」を再検討する場合は「4. メニュー」とマッチしているかを比較する、という要領です。例えば、高齢者向けサービスなのに全てネットで完結、というのは無理があります。

「もっとも重要な項目」について

魅力あるビジネスプランに必要な8項目について説明しましたが、このうち最も重要なのは「1. 課題」「2. 解決方法」「3. ヒト・チーム」の3つです。この3点を説明した時点で聞き手が納得してくれたら勝ったも同然です。この3つについて、できるだけ具体的に記載することに加え、文字や紙面には表れにくいのですが、「情熱」「志」「信念」などがにじみ出るような文章を作成することを心がけてください。