起業マニュアル

今、なぜ起業なのか

近年、「働く」ことに対する意識や価値観の変化、テレワーク・リモートワークの普及など「働き方」の多様化、自律的なキャリア形成に資する副業・兼業の増加を受けて、キャリアの選択肢としての起業・創業に注目が集まっています。

また、行政による創業・スタートアップ支援策や公的補助金の拡充、民間のスタートアップ投資や事業提携の増加により、ベンチャー・スタートアップ企業だけでなく、スモールビジネスに対する注目も高まっています。

これらの背景として、自らの成長や「働きがい」を高めるキャリア選択の視点からは “働き手の自律性、主体性の変化”・“ダイバーシティ・多様な働き方の進展”・“キャリアを通じた自己実現”といった要因があげられます。

また、ビジネス環境の視点からは“起業手続の簡素化・デジタル化”、“起業を後押しする公的支援策や補助金の充実”、“ソーシャルビジネス・コミュニティービジネスの増加”といった要因が挙げられます。

キャリア選択の変化

令和4年版労働経済白書(※1)によると、近年は入職者(事業所が新たに採用した者等)に占める転職入職者の割合が6割を超えており、産業や職種、組織を超えたキャリアチェンジを通じてキャリアアップを図ることが一般的になってきました。
それにともない、キャリアアップに必要とされるスキルについても、特定の産業や職種に特化された経験や能力だけではなく、汎用的なスキルが重要視されるようになってきています。

また、本業を継続しつつ、リスクの小さい形で新たなキャリアに挑戦し、所得も増やせるという意味で、副業・兼業に注目が集まっています。
自らの能力を幅広く発揮し、スキルアップを図りたいという働き手の増加を受けたもので、経団連が会員企業向けに実施した調査(※2)によると、全回答企業の70.5%が副業を認めるまたは認める予定であるなど、副業・兼業を認める企業も増加傾向にあります。

さらに、社内ベンチャー(社内起業)といわれる、社員による新事業の立ち上げを促進する制度を設ける企業や、コーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC:社外のベンチャー企業に対して投資する社内組織)を設立し、スタートアップへの出資や連携を図る企業も近年増加していると言われています。

このような、キャリアデザインに対する認識や考え方の変化の中、産業や職種を超えて汎用的なスキルを身につけ、副業・兼業や社内起業から自律的な経営マインドを獲得する人材は増えていると言えるでしょう。その帰結として、「起業・創業」に対する認識も、より身近に変化していると考えられます。

多様な働き方の進展

2022年度起業と起業意識に関する調査(※3)(日本政策金融公庫総合研究所)によると、「起業の動機」として“自由に仕事がしたかった”と回答する人が全体の48.3%と最も多くなっています。
同様に、「事業を始めてよかったこと」として“自由に仕事ができた”と回答する人が52.0%と最も多くなっており、起業・創業をした者の多くが、自ら希望する仕事と生活のバランスを含む“自由な仕事”を希望し、実際に実現できたと考えていると言えます。

また、近年の通信環境の整備、COVID-19感染拡大防止のための移動・行動制限への対応が契機となり、大企業などを中心にテレワーク・リモートワークが普及し、新たな就業スタイルとして認知が進みました。
これにより、就業場所等に拘束されず柔軟に仕事をすることが可能となり、隙間時間等で対応可能な副業・兼業を含め、自らのライフスタイルに合わせた起業・創業がより現実的な選択肢になっていると言えるでしょう。

さらに、直近では、副業・兼業人材の活用や移住起業・創業への助成制度など、国や自治体による公的支援も拡充されており、起業・創業を含む多様な働き方の実現をサポートする体制が整いつつあります。

こうした流れの中で、就業時間や場所などに拘束されず、やりがいや充実感を感じながら責任を果たし、多様な働き方を実現していく手段として、起業・創業への注目が高まっていると考えられます。

キャリアを通じた自己実現

先述の2022年度起業と起業意識に関する調査(※3)では、「起業の動機」として“仕事の経験・知識や資格を活かしたかった(16.5%)“、”自分の技術やアイデアを試したかった(11.7%)“という回答が上位にあげられています。
同様に、「事業を始めてよかったこと」としては、“仕事の経験・知識や資格を活かせた(25.1%)”、 ”自分の技術やアイデアを試せた(24.0%)“が多くなっており、「起業の動機」に呼応する結果となっています。
その他、「事業を行ううえで問題だと感じていること」では、“売り上げを安定的に確保しづらい(36.8%)”が最も多くあげられるなど、業績の不安定さはあるものの、起業・創業を通じて自己実現を果たしている人が多いということが言えます。

また、近年では、「社会的起業家(インパクトスタートアップ)」(※4)といわれる、行政や従来の企業では解決が困難である/解決に時間を要する社会課題を、ビジネスの手法により解決することを企業理念として掲げる起業家があらわれています。

このように、自らの目的や使命感を明確に持ち、自己実現や社会的使命の実現を目指す手段としても、起業・創業の位置づけは重要になっているといえます。

ソーシャルビジネス・コミュニティビジネスの増加

近年は、SDGs(持続可能な開発目標)への取組みが消費者の購買行動や機関投資家の投資行動に影響を与えるようになってきており、SDGsは単なる社会貢献ではなく、積極的に挑むべき事業成長の機会であると言われています。

この点は社会解決の解決を企業理念とする創業・スタートアップ・社会的起業家にも当てはまります。商品・サービスの量や価格では競争が難しくても、標ぼうする企業理念に共感した顧客や投資家を獲得する機会がある点で、SDGsの意識の広がりは成長機会になり得るものと言えるでしょう。

都市圏の郊外地域では、少子高齢化と過疎化の進展による地域経済の担い手不足が深刻な課題となっています。地域社会に密着し、将来的に地域経済を支える役割を果たす起業・創業者に期待が集まっています。

このように、従来の組織では解決が難しい/時間がかかる社会課題や、複雑多様化する地域課題をビジネスで解決する主体として、創業・スタートアップ・社会的起業家に対する期待感が高まっていると言えます。

起業手続の簡素化・デジタル化

平成18年の会社法改正により、最低資本金制度の廃止や新しい企業形態の導入により、起業の手続が簡素化されました。

また、2020年1月からは、デジタル庁が運営する法人設立ワンストップサービス(※5)が開始され、法人設立関連の様々な手続をオンラインかつワンストップで行うことができるようになりました(※6)。

民間では、会計業務を電子化した「クラウド型会計サービス」が普及し、煩雑だった経費精算や決算手続などがオンラインでできるようになりました(※7)。

このように、近年は起業手続の簡素化・デジタル化が進んでおり、起業・創業がしやすい環境が整備されつつあります。

起業を後押しする公的支援策や補助金の充実

近年では、起業・創業に関する国や自治体の公的支援策だけでなく、民間ベンチャーキャピタルの増加や、金融機関等における創業・ベンチャー支援策などにより資金調達手段も多様化し、市場・販路開拓等においても、行政や民間の支援策(マッチング等)も充実してきました。

政府では令和4年をスタートアップ創出元年として位置づけ、5年間で10倍増を視野に、令和4年末に「スタートアップ育成5か年計画」を策定しています。

全国の市区町村では、平成26年1月より、各地における創業を促進するため、産業競争力強化法に基づく「創業支援等事業計画」を策定し、さまざまな創業支援策(ワンストップ相談窓口の設置や創業セミナーの開催等)を展開しています。

まとめ

起業創業のイメージ

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最終内容確認 2023年3月