起業マニュアル

起業支援サービスの活用:司法書士

司法書士の業務

司法書士といえば、不動産や企業の登記手続きの専門家というイメージが強いかもしれません。しかし、司法書士は単に不動産や企業の登記手続きを行うだけでなく、企業にかかわる法務に関するパートナーとしても会社経営者をサポートします。

司法書士の業務は、起業時の支援と起業後の支援に大きく分けることができます。

1.起業時の支援

会社をつくる場合、名称、目的や役員など本店の管轄法務局において登記がなされます。会社設立の際に定める定款は、会社の最も重要な規則を定めたものであり、会社の憲法とも言われるものです。このため、十分に吟味して作成することが必要となります。

司法書士は設立時に、この定款を作成し、設立登記の手続きをサポートします。専門家に依頼すると高い報酬がかかるというイメージもありますが、電子定款の作成により印紙税(4万円)がかからず、また、オンライン申請による減税のメリットも受けることが出来ます。

司法書士の関与の下で会社定款を作成すれば、ご自身で描かれている今後の会社のカタチに合わせた機関設計をすることができますので、より会社にフィットした定款を作成することができます。そのため、設立後に定款変更の必要性が生じることも少なく、定款変更、それに伴う機関変更、役員変更等といった手続きで発生するコストを抑えることにも繋がります。

2.起業後の支援(企業法務)

企業法務とは、企業に関する法律事務を言います。企業法務は大まかに3つに区分されます。

  • 対処法務:会社経営上で発生した法的紛争を処理するための法律業務
  • 予防法務:会社経営上の法的紛争を予防するための法律実務
  • 戦略法務:会社経営上の重要な意思決定(政策決定)に参加し、企業の意思形成に係わる法律業務

・対処法務

これは、人体に例えると「病気になってから治療する」という治療医学に対応する考え方に基づくものです。企業に紛争が生じたとき、司法書士がその問題に対処します。対処法務は、一般的に弁護士が担当しているケースが多いのですが、司法書士は140万円以下の訴訟事件を受けることができますので、対処法務の立場からもクライアントのニーズに応えることができます。

・予防法務

これは、人体に例えると「病気にならないように予防する」という予防医学に対応する考え方に基づくものです。予防法務は、事前に紛争を防止することを目的としたものだといえます。積極的に法律を活かすことで、裁判によって企業に生じる様々なロスを避け、経営者が安心して会社経営業務に専念することを可能にします。

近年、新しい会社法が制定され、またコーポレートガバナンスが求められコンプライアンスの遵守の重要性が増しているなど、会社を取り巻く環境は日々変化しています。激変する経営環境の中で、企業法務においては、対処法務から予防法務へのニーズが高まっています。「何か」が起こってから対処するのではなく、「何か」を起こらないように未然に防ぐ対策を講じておくことが大事です。司法書士の法務スキルは、予防法務の視点から大いに活用できると考えます。

とくに法務部を持たない企業においては、契約書の作成、確認作業をアウトソーシングすることで、より効率的な会社経営を行うことができると同時に、企業防衛策を講じることが出来ます。また、契約書を作成し、確認する作業において、紛争を未然に防ぐという観点のみならず、自社の権利を主張したり、間接的に義務履行を促したり、環境変化に伴い契約内容を見直し、新たなリスクをヘッジするような条項を追加したり、自己に有利な条項に変更するなどといった処置を「戦略的」に実施することもできます。(つぎに説明する戦略法務に繋がります)

・戦略法務

上記のほかにこれからの時代において高まりつつあるのは、法を経営戦略のために利用しようする戦略法務の考え方です。これは会社経営において経営判断より法律判断を優先するものです。

たとえば日本企業全体の約9割を占める中小企業の経営者の平均年齢は、およそ60歳ともいわれており、先代経営者の引退・死去による後継者への事業承継が大きな問題となっています。とくに経営者が大株主である会社などの場合は、事業承継が相続問題と密接な関係にあるため、会社の将来を見据えて時間をかけた周到な準備が必要となります。

司法書士は、平成20年に施行された「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」を活用した、会社の事業承継問題に関するアドバイスを行い、会社の登記のみならず成年後見業務、贈与・遺言、不動産の相続登記など、幅広い法的サービスを提供して、会社経営者をサポートしています。

企業再編・事業承継の計画を立案し、進めていくこともその一環であり、法律からのアプローチにより、より効果的なスキームを構築し、戦略的に利用することが可能となります。

以上のように、起業時および起業後において、司法書士を効果的に利用することで会社経営をより効率的に行い、また法律からの視点により会社経営の可能性をより伸ばすことができると考えています。

(執筆・監修:司法書士 塚本 夕香子)
最終内容確認 2013年10月