業種別開業ガイド

イベント業

2021年 6月25日

トレンド

(1)2019年市場規模は拡大傾向で推移

日本イベント産業振興協会(JACE)の「2019年イベント消費規模推計報告書」によれば、2019年の国内イベント全体消費規模金額は17兆4,890億円(前年比100.8%)となり、8年連続で前年を上回った。特にスポーツ関連イベントの伸びが著しく、ラグビーワールドカップのほか、プロスポーツのファン感謝デー、市民マラソンなども多く開催された。(なお、同協会の「2020年イベント消費規模推計報告書」では、2020年の国内イベント全体消費規模金額は8兆6,649億円(前年比49.5%)とコロナ禍の影響を大きく受けたことが伺える)

(2)オンラインイベントなど新たなビジネスモデル

新型コロナウイルス感染拡大の影響により、国内外で予定されていた様々なイベントが相次いで中止となり、業界全体が大きなダメージを受けている。緊急事態宣言解除後、人数に上限を設け、感染対策をとりながら少しずつ再開しつつあるものの、元の状態に戻るのは当分先と見る向きが多い。そのような中、オンラインによる産業見本市や展示会開催など新たなビジネスモデルを模索する動きが高まっている。オンラインイベントが新規顧客開拓のきっかけになる可能性もあり、コロナウイルス収束後も1つのスタイルとして定着することが予想される。

(3)映像演出の進化

無観客で行われた音楽イベントのオンライン配信では、コンピューターが作り出したバーチャル空間でアーティストがパフォーマンスをするなど、様々な映像演出でリアルイベントに代わる体験を提供している。オンライン配信の普及に伴い、ライブ配信演出に特化したスタジオやバーチャルライブ制作プラットフォームがオープンするなど、多様な映像表現技術の場が開かれ、今後の発展が期待される。

ビジネスの特徴

イベントの形態は、「見本市・展示会」「会議・講演会」「祭り・フェスティバル」「文化・芸能イベント」「スポーツイベント」「博覧会」など様々である。イベント制作会社や広告代理店では、これらのイベントを自前で、またクライアントからの依頼を受けて企画し、当日の運営・進行を行い、当日集まった参加者から支払われた料金がイベントの売上となる。

イベント業務を「企画」「運営」の2つに大別すると、「企画」はイベントの立ち上げ、宣伝、集客、スポンサー探し、スタッフ確保、内容の構成決めなどが主な業務となり、「運営」はイベント当日の現場運営(会場設営、機材設置・操作、イベント進行・演出など)に関わる。小規模イベントであれば、企画者が自前で運営まで行うことも可能だが、大規模イベントの場合は運営業務を専門業者に委託することがほとんどであり、必然的に多くの人員が関わることとなる。

開業タイプ

(1)個人開業タイプ

主な業態は、個人としてイベントを企画する「プロデューサー」と、イベント当日の運営・進行を請け負う「ディレクター」である。業界経験者であるケースが多く、人脈を通じての依頼が主となる。自宅での開業も可能。

(2)会社設立タイプ

①企画会社

イベント企画、集客、人員の手配、スケジュール管理、構成などを中心に行う。当日の現場運営は他社に委託する場合が多いが、起業当初は人件費抑制のためアルバイトでまかなうのも1つの手段である。小規模イベントからのスタートであれば、従業員も少人数で可。設立に際し特別な許可は不要だが、集客経路や人脈を確保しておくことが望ましい。

②運営会社

  • 人材派遣型:依頼に応じてイベントに人材を派遣し、現場の運営を行う。設立には人材派遣業の許認可申請が必要。
  • 機材レンタル型:イベントに必要な機材のレンタルや設営を行う。機材購入費が高額となるため、事前の資金準備が必須となる。

開業ステップ

(1)開業のステップ

以下、個人でイベント企画会社を設立する場合について記載する。
開業に向けてのステップは、主として以下のとおり。

開業のステップ

(2)必要な手続き

人材派遣業として開業する場合は許認可申請が必要となるが、それ以外であれば資格や手続きは不要である。個人ならば一般的な開業手続きとして税務署への開業申請を行う。法人ならば必要に応じて、健康保険・厚生年金関連は社会保険事務所、雇用保険関連は公共職業安定所、労災保険関連は労働基準監督署、税金に関するものは所轄税務署や税務事務所にて手続きを行う。併せて、消防署への防火管理者の届出も行う。

事業継続における重要点

イベントといってもその形態や目的は様々であり、起業にあたってはどのようなイベントを主に企画・運営するのか、方向性をはっきりさせておくことが重要である。イベントの種類によって来場者層、会場、機材、ゲスト、プロモーション方法などは異なるため、特定のジャンルでノウハウや実績を蓄積していくことにより、将来はより規模の大きいイベント開催も可能になると考えられる。また、成功したイベントは1回限りで終わらせず、継続して開催すれば固定ファン開拓にもつながる。その際は内容の見直しや新しい要素を取り入れるなど、参加者を飽きさせない工夫が必要である。

イベントを成功に導くためには、リスクマネジメントも重要である。火災や地震が起こった際の避難経路の確認、急病人や怪我人が出た時の対応など参加者の安全管理はもちろん、施設・機材の損傷やイベントの延期・中止といった事態への備えも必須である。イベント主催者が加入する保険はぜひ検討しておきたい。

必要なスキル

アイデアを生み出す発想力や、企画を形にする実行力に加え、イベントに関わる多くの人を指揮・統率し、交渉するスキルが不可欠である。

満23歳以上で3年以上の業務経験があれば、(一社)日本イベント産業振興協会の認定資格である「イベント業務管理士」の取得が可能であり、スキルアップに役立つ。なお、同協会では業界未経験でも受験できる「イベント検定」も実施している。

開業資金と損益モデル

従業員10人未満規模で会社を設立する場合を想定。

(1)開業資金

必要資金例の表

(2)損益モデル

a.売上計画

売上計画例の表

b.損益イメージ(参考)

損益のイメージ例の表

※標準財務比率は他に分類されない専門サービス業に分類される企業の財務データの平均値を掲載。
出典は、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」。

c.収益化の視点

参加者から支払われる料金が売上となるため、集客を上げることが最重要となる。そのための広告戦略は欠かせないものであり、費用対効果を常に念頭において低コストでできるだけ高い効果を上げられるように努めたい。また施設・機材使用費や人件費などを可能な限り抑える工夫も必要である。

※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討する際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

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