業種別開業ガイド

アクチュアリー

2022年 7月13日

1. トレンド

(1)アクチュアリーの有資格者の傾向

公益財団法人日本アクチュアリー会によると、アクチュアリーとは、「確率・統計などの手法を用いて不確定な事象を扱う数理のプロフェッショナル」と表現されており、国際的な専門職として広く海外でも知られ、各国の企業からも高く評価されている。日本アクチュアリー会によると、同会の会員は個人資格の「正会員」「準会員」「研究会員」と、官公庁・法人からなる「法人会員」などに分類される。中でも個人会員は年々増加しており、2021年3月末現在で、正会員1,931人、準会員1,297人、研究会員2,144人の計5,372人となっている。また、個人会員の業態分布は、生命保険会社(40.9%)が最も高く、損害保険会社(16.0%)、信託銀行(6.9%)を合わせると6割強と大多数を占めている。

なお、日本におけるアクチュアリーとは、日本アクチュアリー会の正会員であることを意味しており、先述のとおり、個人会員の正会員は全国で2,000人に満たないことから、企業等からの需要の高さに比べて、人手不足の状況にある。

〇アクチュアリー個人会員の業態分布(2021年3月末)
アクチュアリー 図表01
※日本アクチュアリー会HP「個人会員の業態分布 2021年3月末」(http://www.actuaries.jp/actuary/fields.html)を基に作成

(2)企業を取り巻くリスクの多様化

グローバル化や社会の変化に伴い、企業を取り巻くリスクは日々多様化・複雑化している。実際に、最近では新型コロナウイルス感染症の拡大という局面に直面し、世界規模での感染症拡大が社会経済にもたらす影響の大きさを痛感し、日頃のリスク管理の重要性が強く認識されたところである。企業が直面するリスクはその性質や大きさも様々であることから、業務遂行上の全てのリスクに関して、組織全体の視点から統合的・包括的・戦略的に把握・評価し、企業価値の最大化を図る収益・リスク管理のアプローチとして、近年ERM(エンタープライズ・リスクマネジメント)の重要性が各方面で認識されてきている。

このような多様化・複雑化するリスクに適切に対応するため、リスク管理の専門家としてのアクチュアリーに対する社会からの期待は、今後ますます高まると考えられる。

(3)アクチュアリー資格の取得が要件となる制度・資格

以下の制度・資格については、アクチュアリー会の正会員となることが要件の一つとなっている。こうした制度の要件を満たし、資格を取得することにより、国内外のフィールドを問わず、さらなるステップアップが可能となる。

〇アクチュアリー会の正会員であることが要件となる制度・資格等
アクチュアリー 図表02
※日本アクチュアリー会HP「アクチュアリー用語集」(http://www.actuaries.jp/actuary/glossary.html)を基に作成

2. ビジネスの特徴

アクチュアリーの業務は、主に保険会社や信託銀行等に所属して、保険や年金の料率設定、決算などに関わる保険数理・年金数理業務をはじめ、商品開発、リスク管理分析、長期計画の策定などに携わっている。また、近年はコンサルティング会社に所属し、保険や年金に関わるコンサルティングを行い、監査法人に所属し、中立的な立場から外部監査に携わるケースも増加している。

欧米諸国と比較すると、日本ではアクチュアリーが独立開業するケースは少ない。しかし、近年はアクチュアリー資格を活用してコンサルティング業務等を行うコンサルティング会社を起業するケースも増えており、こうした企業において成功事例が続けば、独立開業するアクチュアリーが増加していくことも期待できる。

3. 開業タイプ

(1)個人事業主

企業のコンサルティング業務等を行う個人事業主として開業する。

(2)法人設立

アクチュアリー資格を活用して企業等のコンサルティングを行うコンサルティング会社を設立する。

4. 開業ステップ

(1)開業のステップ

アクチュアリー 図表03

(2)起業にあたって必要な手続き

〇法人設立の場合

定款作成、会社登記をし、法人設立届出書、青色申告の承認申請書、給与支払事務所等の開設届出書、源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書、法人設立届出書(地方税)などを提出する必要がある。

〇個人事業主の場合

個人事業の開廃業等届出書、所得税の棚卸資産の評価方法・減価償却資産償却方法の届出書、青色申告承認申請書等を納税地の所轄税務署へ提出する。また、個人事業開始申告書は事業所所在地の都道府県税事務所へ提出する必要がある。

5. 必要なスキル

アクチュアリーに必要なスキルは、大きく2つに分けられる。

1つには、数学的な手法を活用した分析スキルである。アクチュアリーは、確率や統計などの数学的な手法を活用し、個人の寿命や病気、事故にいたる確率など、膨大なデータをもとに計算し、予測することが求められる。このスキルは、生命保険会社、損害保険会社、信託銀行等で実務経験を積みながら習得するのが一般的である。

もう1つは、日本アクチュアリー会の正会員として認定されることである。正会員となるためには、同会の資格試験の全科目合格とプロフェッショナリズム研修(初期教育)の受講が必須の要件となる。ただし、資格試験の難易度は非常に高いため、根気強くチャレンジしていくことが必要となる。

〇アクチュアリー資格取得までの流れ
アクチュアリー 図表04
※日本アクチュアリー会HP「資格取得までの流れ」(http://www.actuaries.jp/examin/)を基に作成

6. 開業資金と損益モデル

ここでは、保険会社等で業務経験を積みながら資格試験にすべて合格し、日本アクチュアリー会の正会員となったうえアクチュアリーの実務経験を積んだ後独立開業し、アクチュアリー資格を活用したコンサルティング業務(※)を行う法人を設立する想定し、開業資金と損益モデルを掲載する。

※保険会社、信託銀行、共済組合、官公庁等のクライアントに対し、保険・年金関連の監査やコンサルティング業務を行う想定としている。

(1)開業資金

【一般企業からの転身型、都内に事務所を構え、2名で開業する際の必要資金例】

アクチュアリー 図表05

(2)損益モデル

a. 売上計画

顧問契約先3社を抱え、スポットで行う相談業務等を年間で30社行う想定で、売上高を算出。

アクチュアリー 図表06
b. 損益イメージ

上記a.売上計画に記載の売上高に対する売上総利益及び営業利益の割合(標準財務比率(※))を元に、損益のイメージ例を示す。

アクチュアリー 図表07
※標準財務比率は「経営コンサルタント業」に分類される企業の財務データの平均値を掲載。
出典は、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」。

(3)収益化の視点

労働集約型の側面が強く、開業にあたり設備投資は少なく済むが、人件費が経費の大半を占める。企業経営を軌道に乗せるためには、継続的な顧客の獲得が重要となる。需要に対して、人材不足の業界であることから、高単価の事業とはなるが、開業当初は実績も乏しいことから、比較的安価で業務を請け負わざるを得ない場面も想定される。まずは実績を着実に積み上げ、より多くの顧客から信頼を獲得することが求められる。

また、リスク管理にしては、東証1部上場などの大手企業などではその重要性も認識されているが、まだこうした認識が十分ではない、あるいはリスク管理にどう対応するべきか分からない企業が、比較的規模の大きい企業でも大半を占めているのが実情である。

こうしたことを踏まえ、リスク管理の重要性について啓蒙することで、顧客対象を大手企業から準大手、中小企業へと拡大していく取組も重要となろう。

※開業資金、売上、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討する際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)