業種別開業ガイド

アクアショップ

2024年 3月 13日

アクアショップのイメージ01

トレンド

コロナ禍をきっかけに、アクアリウム市場が拡大している。外出制限で在宅時間が増え、家の中でできる趣味としてアクアリウムが注目された。アクアリウムとは、水を張った水槽やガラス容器で水生生物(海水魚、金魚、熱帯魚、珊瑚、水草など)を飼育することを言い、愛好家は世界中に広がっている。

日本では高度経済成長期の1960年代に、養殖された熱帯魚が出回るようになった。日本には鯉や金魚を観賞用に育てるといった文化があり、魚の飼育に馴染みがある中で1990年代に熱帯魚ブームが到来したという歴史がある。当時は、魚も飼育用具も現在に比べて高価なものが多かったが、時代とともに価格も水槽の大きさもスリム化されてきた。

現在では、アクアリウムはインテリアとしての要素も大きい。アクアリウムの他にも、「テラリウム」「ビバリウム」「パルダリウム」などはマニアが生まれるほど人気で、メディアにも取り上げられ話題となっている。

(1) アクアリウム

  • 水が入った水槽で、水中の生き物(魚、珊瑚、水草など)を育てる。
  • 水草と石、流木などで作られる「水草水槽」もアクアリウムに含まれる。

(2) テラリウム

  • 水槽内に水中と陸地を作り、魚や植物を育てることを指す。
  • 最近では、苔をガラス容器に入れて育てる「苔テラリウム」が人気。

(3) ビバリウム

  • 本来は、生き物を育てるための環境全体を表す言葉。
  • 日本では主に、水槽の中に植物を植え、小型の陸生動物(爬虫類や両生類など)を飼育することを言う。

(4) パルダリウム

  • パルダ(palus)はラテン語で湿地、沼地を意味する。
  • ガラス容器に、熱帯地方の植物で熱帯雨林を再現したものを指す。

「〜リウム」(-arium)は「~な場所、空間」の意味で、いずれも「動植物を育てるための環境」を指している。このような水槽の中で作り出す生き物の世界は、世界水草レイアウトコンテスト(IAPLC)といったコンテストも毎年開催されるなど、美術品として評価されるようになってきた。

生き物を育てる楽しさだけでなく、水槽の中の小さな自然世界で生み出される色や音に癒される人は多い。自身が快適に暮らすためのアクアリウムが、今の市場を支えている根幹と言えそうだ。

近年のアクアショップ事情

コロナ禍で観賞魚市場にも影響が出ると考えられていたが、実際には魚をペットとして新たに購入する人が増え、市場は広がりを見せている。

ペット現在飼育状況

環境省の資料によると、魚類(メダカ・金魚・熱帯魚、鯉、淡水魚など)を飼育している人は犬、猫に次いで3番目に多い。1週間程度であればエサをあげなくても問題なく、魚の種類によっては、自動給餌器や照明のタイマー利用でさらに長く家を留守にしても飼育が可能なことが人気の理由と考えられる。

マンション型の住居スタイルが増えてきたことも後押ししている。省スペースで飼育でき、生き物の飼育に慣れていない初心者でも手を出しやすい点も大きいだろう。また観賞魚は動物愛護法の対象外で、犬猫のように販売時に対面での説明が義務化されていないため、ネットでの購入が可能なのもアクアリウムを始めやすいポイントと言える。

環境省のデータによると、観賞魚市場はバブル崩壊後の1994年(平成6年)をピークに右肩下がりを続けていたが、財務省の貿易統計ではコロナ流行を境に3年連続で輸入額が増加している(観賞用海水魚のみのデータ)。

輸入額の推移

また、観賞魚関連事業をトータルに扱う企業の業績が右肩上がりになっているほか、ECサイトで熱帯魚・観賞魚の市場規模が成長を続けている。

これは、先述のとおりコロナ禍の外出制限で家にいる時間が増え、新しくアクアリウムを始めたり、水槽のメンテナンスをこまめに行うようになったりしたことが市場拡大の要因のひとつだろう。また家庭だけでなく、オフィス、病院、教育施設、飲食店、式場など、アクアリウムをインテリアや癒しの場として設置するようになったことも市場を支えている。

アクアショップでは通常、観賞魚や飼育用品(水槽、ろ過装置、フィルター、ヒーター、照明、砂・石、水草、流木など)を販売しているが、商品だけではなく、顧客に寄り添った情報の提供や、新しい提案をすることも必要だ。水換えの方法や、人工海水の作り方、お部屋に合うアクアリウムの提案など、初心者でも分かりやすく説明するプロアクアリストを配置する店も多い。

水槽レンタルや水草レイアウト水槽の設置、出張水槽メンテナンス、イベント時のポップアップといったサービスを提案している店舗もある。これまでにないサービスを打ち出して新規顧客を獲得し、専門的な知識で顧客に寄り添えば、ファン化を実現できるだろう。

アクアショップの仕事

アクアショップの仕事は主に「接客」「掃除・水槽管理」「店舗管理」「出張業務」の仕事に分けられる。それぞれの具体的な仕事は以下のとおり。

(1) 接客
来店した客へ生物の飼育や植物の栽培方法などを説明。個々のライフスタイルや知識経験レベルに合った商品提案を行う。

(2) 掃除・水槽管理
動植物を扱うため、清潔感は大切。小まめな清掃を行い、水槽のある環境を魅力的に見せるのも重要な仕事。

(3) 店舗管理
仕入れや売上管理など店舗全般の管理業務。経験と知識が求められる業務。

(4) 出張業務
アクアショップでは自宅や職場で水槽を楽しむ人への出張管理業務も行う。顧客先へ伺い、水槽の掃除や生物、植物のケアを担当する。

アクアショップのイメージ02

アクアショップの人気理由と課題

人気理由

  1. 生き物から感動と癒しを与えてもらえる
  2. 販売やメンテナンス管理を通して、お客様へ喜びと癒しを与えられる
  3. アクアリウムやテラリウムの趣味領域を深められる

課題

  1. 売って終わりではなく、いかに顧客と長くつながっていくか
  2. アクアリウムの世界を知らない人やメンテナンスが面倒だと感じている人へのアプローチ→新たなファンの取り込み
  3. 販売前に熱帯魚が死んでしまうリスク

開業のステップ

アクアショップの開業のステップは、以下のとおり。

開業のステップ

大きな水槽を購入する顧客もいるため、店舗を借りるときは、可能であれば駐車スペースも確保しておこう。

事業計画書は、どのようなアクアショップにするか、コンセプトと扱う商品をしっかりと設定して作成すると良い。

アクアショップに役立つ資格

アクアリウムの基礎や水槽の管理、水草の種類や選び方など、アクアリウムに関する知識を有していると証明する「アクアリウムクリエイター(*1)」という資格がある。必須資格ではないが、知識が乏しいと感じる人や独学で不安な人は、学びも兼ねて取得を検討しても良いだろう。

(*1) アクアリウムクリエイターの詳しい情報は、こちら(日本デザインプランナー協会)をご確認ください。

アクアショップを開業するために特に資格はいらないが、魚病薬を取り扱う場合には「動物用医薬品販売業許可証(*2)」の取得が必要だ。3種類ある動物用医薬品販売許可証のうち、アクアショップで必要なのは「特例販売業」という許可証になる。なお、店頭での販売許可のみで、ネット販売は対象外なので注意しよう。

(*2) 動物用医薬品販売業許可証の詳しい情報は、こちら(農林水産省)をご確認ください。

開業資金と運転資金の例

アクアショップは手広く始めてしまうと開業資金がかかる上に、差別化が図りにくく顧客の獲得に苦戦するリスクが懸念される。まずは取り扱い商品を限定した専門店にしたり、初心者向けアクアショップなど顧客ターゲットを絞ったりして、コストを抑えたスタートが望ましい。

開業するための必要な費用としては、以下のようなものがある。

  • 物件取得費:前家賃(契約月と翌月分)、敷金もしくは保証金(およそ10カ月分)、礼金(およそ2カ月分)など
  • 内装工事費:電気工事、看板設置や内装工事など
  • 什器・備品費:水槽・ポンプなど展示用に使う備品など
  • 広告宣伝費:SNS広告、近隣へのチラシ投函など
  • 商品仕入費:観賞魚や水草、販売用の水槽やポンプ、ろ過フィルターなど

以下、開業資金と運営資金を表にまとめた(参考)

開業資金例
運転資金例

売上計画と損益イメージ

アクアショップを開業した場合の1年間の収支をシミュレーションしてみよう。

売上計画

年間の収入から支出(上記運転資金例)を引いた損益は下記のようになる。

損益イメージ

民間調査によると、顧客満足度の高い企業は、水槽の種類を充実させたり、料金シミュレーターで料金プランを分かりやすく示したりするなど工夫がされている。生物や植物、その他関連商品の販売だけでは、経営は厳しくなる可能性がある。出張で水槽管理をするなど固定売上を確保していきたい。また、アクアリウムやテラリウムのワークショップを開催するなど、定期的にイベントを企画すると良いだろう。

先述したようにインターネットで購入する人もいるため、自社ホームページの立ち上げやECモールへの出店など、顧客のニーズに応えられるように整備したいところだ。また、水槽の世界は水草やカラフルな魚たちでSNS映えも良いため、積極的にSNSを活用していくと良い。ファンや新規顧客を増やす一翼を担ってくれるはずだ。

アクアショップのイメージ03

※開業資金、売上計画、損益イメージなどの数値は、開業状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)