業種別開業ガイド

eラーニング事業

2022年 9月 26日

トレンド

コロナ禍でeラーニングがより深く社会に浸透

年々着実な広がりを見せていたeラーニングは、コロナ禍を経て、社会のさまざまな層へより深く浸透することになった。小学校から大学まで、多くの教育機関が正規の授業としてリモート教育をスタート。学校の授業以外でも「オンラインで学ぶ」ことが選択肢の一つとして検討されやすくなった。また一般向けでも、趣味の習い事から資格取得のための学習まで、オンラインでの受講を望む人が増加。法人においては、多くの企業で研修や新人教育がオンラインに切り替わり、これまで導入が遅れていた中小企業においてもeラーニングを採用するケースが増えている。

国内外の市場規模も大幅に拡大

e-ラーニングの市場規模の推移と予測

出典:株式会社矢野経済研究所

その結果、eラーニングの市場規模も大幅に拡大している。株式会社矢野経済研究所の調査によると、19年度の2354億円から20年度には2917.5億円と約24%増を記録し、21年度にはさらに3309.3億円まで増える見込みだという。こうした利用増に伴い、多くの講師・参加者に「移動の時間やコストがかからない」というeラーニングのメリットが浸透した結果、コロナ禍収束後もeラーニング市場の拡大傾向は国内外で続くと見られている。株式会社グローバルインフォメーションは、2021年に2,533億米ドルに達した世界のeラーニング市場規模は、27年に5,218億米ドル規模に拡大するという見込みを発表している。

法人向けが3割、個人向けが7割を占める

eラーニングは、企業の研修を対象としたBtoBと、個人の学習を対象としたBtoCに分かれており、前述した矢野経済研究所の調査によれば、2020年時点において売上高ベースで企業向けが約3割、個人向けが約7割を占める結果となっている。特に個人向け市場においては、コロナ禍前からSkypeなどを用いた格安の語学学習サービスや、学習塾・予備校のeラーニングサービスが増加。そしてコロナ禍以降は、文部科学省の「GIGAスクール構想」に基づく小中学校のICT教育環境整備が前倒しで進められており、利用者のさらなる拡大が予想される。

ビジネスの特徴とヒント

「差別化」が大きなポイントになる

こうしたeラーニング市場の有望性もあり、コロナ禍以降だけをみても多くの企業がeラーニング事業に参入している。その結果、法人向け研修サービスをはじめ多くの分野でeラーニングの価格下落が進行。さらに近年では、YouTubeをはじめとする動画共有サービスなどを通じて、その道の専門家が無料で分かりやすく知識やノウハウを一般向けに紹介するケースも増加している。このような環境で、eラーニングを事業として成立させるには、いかに差別化を行い、利用者にとって価値ある学びを提供していくかがポイントになる。

双方向化などの工夫や利用者のモチベーションアップも

差別化の一例としては、双方向のコンテンツにしたり、利用者一人一人にパーソナライズできるようにしたりといった工夫があれば、独自の価値を感じてもらいやすくなるだろう。また、自宅などで利用者が一人で取り組むケースが多いというeラーニングの実情を踏まえると、利用者のモチベーションをいかに維持するかも事業継続に向けて重要になる。例えば、学習の進捗状況を確認できれば利用者の励みになり、効果を具体的な数字で評価できれば法人の研修などとしても導入されやすくなるはずだ。このほか、学習者同士のコミュニティを用意したり、講師との交流の場を設けてモチベーション維持を図っているサービスも少なくない。

ニーズのある「激戦区」を狙うか、「ニッチな領域」をリードするか

学習塾や予備校による児童・生徒向け学習、一般向け英語学習、企業向け研修、資格取得講座など、eラーニングでの学びがすでにある程度確立された分野や、趣味関連でも競争が激しい分野に参入しようとする場合は、より正確なターゲティングが求められるだろう。同じジャンルのコンテンツを提供するのであれば、誰を対象に、どのようなスタイルで学びを提供するのかがより重要な要素になるからだ。一方、まだあまり知られていないニッチな領域の学びを提供してブルーオーシャンを開拓する場合、果たしてそこに本当にニーズがあるかを見極めることもビジネスの成功に欠かせない要素となる。

eラーニング事業イメージ01

開業のポイント

まずは「誰に、何を、どんな形」で提供するか

eラーニング事業を開業するにあたっては、特に法的な許認可などは必要ないため、「学習コンテンツ」と「それを提供するシステム」さえあれば、事業を始めることは可能だ。eラーニング事業をスタートするにあたっては、このいずれかを自前で持っているケースが多いと考えられる。その場合、最初に行うのがビジネスプランの設計だ。法人向けか個人向けか、どの分野の内容を扱い、その学びをいくらで提供するのかといった大まかなものから、どんなスタイルで誰に学びを提供するか、さらにそのプランを実現する上ではどんな機能を持つシステムが必要かなどについて検討し、コンテンツとシステムの開発にかかる概算の費用と収益を見積もっておく。特に外部講師の活用を考えている場合、講師の質はコンテンツのクオリティはもちろん、事業の成功も左右するものとなる。講師へのギャランティーは交渉の前提条件となるため、相場なども調べながら事前にしっかり考えておくようにしたい。

次に「コンテンツ」と「システム」を開発し、適切な「PR」も

ビジネスプランが定まったら、続いてコンテンツとシステムの開発だ。コンテンツ関連では、教材の作成などに加え、必要に応じて講師への依頼、交渉、契約なども進めていく。システムに関しては、学びのコンテンツを提供するためのシステムに加えて、利用料金の支払いや講座予約に関するシステムも検討しておくべきだろう。さらに、前述したような「学習の進捗状況を確認できるシステム」や、「利用者同士の交流ができる機能」などを設けたいのであれば、その実現手段と費用感も把握しておきたい。こうした下準備の完了後、PR等で利用者を募って事業スタートといった流れになる。eラーニング事業の肝は、利用者に価値を認めてもらえるコンテンツづくりと、その価値を伝えるPRにある。いかにコンテンツが優れていても利用されなければ意味がないため、コンテンツとシステムが完成したからといって気を緩めず、その後のPRについても継続的に検討したい。

外注サービスや無償のシステムも上手に活用を

準備に想像以上の手間と費用を要すると感じた人もいるかもしれないが、実際はビジネスモデル作成から各種システムの開発・提供、PR、運用までを一貫して支援する外注サービスなども存在している。必要に応じてこうしたサービスを利用するのも一つの手だ。その一方、コンテンツは既存のWeb会議システムや動画共有プラットフォームを通じて提供し、予約はインターネット上で無償提供されている予約システムなどを利用することによって、初期投資を可能な限り圧縮しながら始める方法もある。特に、ニッチな分野の専門的なノウハウを有している中小企業などであれば、それ自体が独自の価値をもつ教材のテーマとなり、思わぬ支持を集める可能性もある。まずは自社あるいは自分の有している強みを改めて棚卸ししてみることが、eラーニング事業を考える第一歩かもしれない。

必要スキル

自前のコンテンツがあれば、あとは伝える力とビジネスのセンス

eラーニング事業で主に必要となる要素は、学習コンテンツとコンテンツの提供システムであり、それらを自前で保有しているか否かで、必要となるスキルの度合いも変わってくる。例えば語学学習、人材育成、楽器演奏など特定分野の専門知識や経験があり、その知識やノウハウをeラーニングとして提供しようとする場合、自分の中にあるコンテンツのタネを利用者のニーズに即した形にして伝える力と、システム外注先などが提案する内容や価格の妥当性を見極めながら、事業として成立させていくセンスが鍵になるだろう。

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マーケティングや企画、コーディネートの力も

一方、自前の学習コンテンツを持っていない場合には、外部にあるコンテンツをeラーニングに適した形で配信する、あるいは外部講師などを雇ってその知識やノウハウを伝えるケースが多いはずだ。そうした場合に求められるのが、社会のニーズやすでに提供されているeラーニングの状況などを把握するマーケティングの力と、その情報を基に最適なコンテンツを築き上げる企画力だ。また、企画の実現に欠かせない講師などのリソースを整えてコンテンツ制作をリードするというコーディネートの力も重要になるだろう。

改めて、成否を分けるのは「企画の掘り下げ」と「事業計画」

eラーニング事業では、近年ますます数を増やしている同業者に加え、無料のYouTube動画など競合が多く、同種のコンテンツを提供する場合でも「誰に、どのようなスタイルで提供するか」という企画面の掘り下げ方で結果が変わるのは先に述べたとおりだ。また、eラーニングを事業としてある程度の規模で展開しながら成功を手にするには、やはり綿密に練られた事業計画が必要となる。本サイトの「起業マニュアル」コーナーなども参考にしながら、関連知識を身につけるなど、準備にしっかりと力を入れておくようにしたい。

上記の記事は、作成時の情報に基づき、同業種における開業のヒントやポイントをまとめたものです。実際の開業にあたっては、より専門的な機関に相談することをおすすめします。

最終内容確認日2022年9月

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