業種別開業ガイド

ダンス教室

2025年 6月 6日

ダンス教室のイメージ01

トレンド

ダンスにはさまざまな種類があるため、ダンス教室の業態はターゲットによって大きく異なる。かつてはダンス教室といえば社交ダンスやジャズダンスが主流だったが、昨今はヒップホップダンス、ブレイクダンス、K-POPダンスなどを教える教室が、主に子どもや若者から人気を集めている。この記事では、そうした現代的なダンスのレッスンを行うダンス教室に焦点を当てて、その近年の動向について解説する。

近年、ダンス教室の市場は拡大傾向にある。特に、2012年から中学校の体育の授業でダンスが必修化されたことにより、関心を持つ若年層が増大している。テレビやSNSでもダンスが取り上げられる機会は多く、若者たちに文化として根付きつつある。

これらの増加に大きく寄与しているのは、ブレイクダンスやヒップホップダンス、K-POPダンスなどのストリートダンスやモダンダンスである。一例として、10代の若者のヒップホップダンスの実施率について、笹川スポーツ財団が実施した『子ども・青少年のスポーツライフに関する調査報告書(2013~2023)』のデータを見てみよう。週1回以上の実施率は、2015年以降増加傾向にあり、特に女子においては3.5%から6.0%と大きく増加していることが分かる。

週1回以上の「ヒップホップダンス」実施率の推移(年齢:10〜19歳)

さらに、同調査の4〜11歳の集計結果を見てみると、小学生女子のダンス人気が急上昇していることが分かる。2024年のパリオリンピックでブレイキンが正式種目として採用されたことなどが、その要因として考えられる。

週1回以上の「ヒップホップダンス」実施率の推移(年齢:4〜11歳)

近年のダンス教室の事情

ダンス人気は、社会現象としてだけでなく、教育や健康維持の観点からも拡大傾向にある。その需要の高まりを受けてダンス教室の数も増加しており、近年は以下のような傾向が見られる。同業他社との差別化はもちろん、他のスポーツや習い事も競合と捉え、研究を重ねたい。

ダンス教室の増加

都市部を中心にダンスへの関心が高まり、それに伴いダンス教室の数も増加している。地方都市でも、子ども向けの習い事として定番になりつつある。

ダンスの競技化(オリンピック正式種目に採用)

2024年のパリオリンピックでブレイキンが正式種目として採用されたことで、競技ダンスの認知度が向上。将来の職業としてダンサーを目指す子どもも増加している。

若者のライフスタイルの変化

若者の生活スタイルが多様化する中で、趣味や自己表現の手段としてダンスを選ぶ傾向が強まっている。

人気ジャンルの多様化

ヒップホップダンス、ジャズダンス、ブレイクダンス、K-POPダンスなど、多様なジャンルから自分に合ったスタイルを選べる点も、ダンス人口の増加に寄与している。

フィットネスとしてのダンス

スポーツジムのプログラムに取り入れられるなど、ダンスは健康維持やストレス解消の手段としても注目を集めている。

SNSを活用した自己表現

ダンスの動画を録画してSNSで発信する文化が定着しつつある。これを目的にレッスンに通う若者も少なくない。

オンラインとの親和性の高さ

コロナ禍を機に、多くのダンス教室が自宅で受講できるオンラインレッスンを導入した。オンラインであれば、地域を問わず全国規模で会員を獲得できる点が魅力となっている。

ダンス教室の仕事

ダンス教室の仕事は、単にレッスンを提供するだけでなく、顧客との関係構築、運営管理、マーケティングなど多岐にわたる。特に若者向けの場合は、憧れ、趣味、競技志向、フィットネスなど、多種多様な目的を持つ生徒が集まる。以下に主な仕事の種類とその内容を記す。

レッスンサービス

ダンス教室の核となる業務。初心者から上級者まで、ターゲット層と目的に合わせたレッスンを提供する。

レッスンの準備と片付け

魅力的なプログラムの構築、スタジオの管理、音響機器のセットアップ、床や鏡の清掃など、安全なレッスン環境を整える。

イベント・発表会の企画

定期的に発表会を開催することで、生徒のモチベーションが向上する。特に若年層はSNSへの投稿やコンテスト参加を重視するため、それらを組み込んだイベント企画が効果的。

マーケティング・集客

ダンスは特に動画や写真との親和性が高い。YouTube、Instagram、TikTokを活用した宣伝が主流。広告運用や公式サイト運営も重要な業務のひとつになる。

指導者のリサーチ・契約・研修

プログラムの考案や実施を得意とする指導者を採用する。その際にはダンス教室の趣旨に合った指導になるように研修を行う。

顧客管理

月謝の管理、入退会手続き、問い合わせ対応など、運営の土台を支える業務。生徒数が増えるほど、データを維持管理することが難しくなる。

施設・設備管理(常設の場合)

ダンス教室には、音響設備、防音処理、床材のメンテナンスなど、さまざまな管理が求められる。レンタルスタジオを活用する場合でも、設備や契約内容の確認が必要。

ダンス教室の人気理由と課題

ダンス教室へのニーズは増加傾向にある一方で、他の習い事を含めた競争が激化しており、差別化や収益性の向上が課題になっている。

人気の理由

  1. 中学校体育の授業でダンスが必修化
  2. SNS・動画コンテンツの普及
  3. 韓国・欧米ダンスの影響
  4. フィットネスとしての需要
  5. 競技ダンスの普及

課題

  1. 競争の激化(他との差別化)
  2. 適切な価格設定
  3. 質が高い指導者の確保
  4. 集客(地域内見込み層へのアプローチ、最小開催人数の確保)
  5. 設備投資の負担
ダンス教室のイメージ02

開業のステップ

ダンス教室を開業するには、安定した集客から運営を継続するための計画が必要になる。以下に、開業までの主なステップをまとめた。規模や地域、コンセプトによっては追加で作業が必要になることもある。

STEP1:コンセプトとターゲットの明確化

どのようなダンス教室を目指すのか、初期の人材の特性を活かして教室のテーマとレッスンの方向性(例:教育特化、ジャンル特化、プロ育成など)を決定する。

STEP2:市場調査と競合分析

地域の需要(人口、年齢層、ダンス人気)をリサーチして分析するとともに、既存のダンススクールと差別化するポイントを明確にする。

STEP3:事業計画書と資金計画の作成

開業資金と運営資金の計画を立案。設備が整った既存のレンタルスタジオを利用するか、フロアをレンタルして改修するかで開業資金と運営資金は大きく異なる。事業計画書には、収支計画、運営方針、マーケティング戦略を詳細に記載する。資金調達の方法としては、自己資金や銀行ローン、補助金・助成金を検討する。

STEP4:物件の確保と改修

既存のスタジオや公共施設をレンタルする場合は、どの物件をどのように借りるかを決定する。賃貸フロアの場合は防音や防振の基準を満たす改修の計画を立てる。

STEP5:レッスンスケジュールの確定

どのようなレッスンをどのような頻度で行うか、事業計画書をもとにプログラムを確定する。

STEP6:人材の採用と研修

事業の方向性に合った外部講師を招聘し、指導方法を共有する。

STEP7:マーケティングと集客計画

ホームページの制作に加えて、SNSを活用した集客を実施。体験レッスンやオープニング記念のイベントなどを企画する。

STEP8:オープン

口コミや地域メディアを活用しながら、マーケティングと集客を強化し、安定経営を目指す。

ダンス教室に役立つ資格

ダンス教室の開業と運営で重要になるのは、主にダンサーやインストラクターとしての実績である。開業にあたり必須の資格はないが、指導者としての専門性を証明する資格を取得しておけば、顧客の信頼を得やすいだろう。その一部を紹介する。

認定ダンス指導員(初級、2級、準1級、1級)

ダンス教育振興連盟(JDAC)が認定する、国内で著名なダンス指導資格。初級では指導マナーや基本的な指導方法を学び、準1級以上では質の高いインストラクターであることの証明となる。

ダンス教育指導士(Basic・Advance・Expert)

JDACが認定する、ダンスだけでなく教育現場での指導力も証明できる資格。学校教育や自治体でのダンス指導にも対応できる実力の証として、ダンス教育の分野で高い評価を得ている。

こどもダンス指導士(Basic・Advance)

JDACが認定する、ダンスと幼児教育の両分野における知識と指導力を証明する資格。子ども向けダンス教室や保育・教育現場での指導に活かせる。

開業資金と運転資金の例

ダンス教室の開業資金や運転資金は、立地、規模、コンセプト、講師を正社員雇用するかなどの条件によって大きく変動する。特に教室については、既存のスタジオ(公共の体育館などを含む)をレンタルする場合と、賃貸物件をダンスフロア用に改修する場合で大きな違いが生じるため、先に双方のメリットとデメリットを整理する。

既存のレンタルスタジオを利用

メリット:隣町や別の主要駅など、遠方の魅力的なエリアにレッスンを展開できる。レンタル先さえあれば、フロア面積による生徒数の制限が少ないことも特徴。資金の流れが見えやすく資金繰りも容易。

デメリット:条件が良いレンタルスタジオを希望の曜日と時間帯で定期的に借り続けることが難しい。そのため、プログラムを変更しづらく、曜日と時間帯のニーズにも応えづらくなる。

賃貸フロアを改修

メリット:フロアを利用する時間設定が自由。生徒たちの希望に合わせた曜日と時間帯の設定も可能。イベントスペースとしても活用できるので、地域コミュニティ活動などにも幅を広げることができる。

デメリット:事業地が固定されるので、エリアを広げづらい。また、防音防振工事と大型の鏡の設置など、相応の開業資金が必要になる。

ここでは、上記2つのケースでダンス教室を開業する場合における、開業資金と運転資金の目安を表にまとめた(参考)。

・共通条件
中規模都市の県庁所在地で開業。ダンスフロアは賃貸。開業者自らもレッスンを担当。講師の雇用はアルバイト契約。

・ダンスフロアの種類
A. 既存レンタルスタジオを借りる場合 … 約50平米のスタジオを想定。自宅を事務所として利用
B. 賃貸フロアを改修する場合 … 駅近郊の物件を想定し、約50平米のフロアと約30平米のフロア、事務所スペースを設ける。

開業資金例
運転資金例

開業のための資金調達には、日本政策金融公庫の新規開業資金(限度額7,200万円)などが利用できる。また、ダンス教室は教育や芸術に関する補助金や助成金の対象になることが多いため、都道府県庁や市区町村役場に確認してみるとよい。

売上計画と損益イメージ

「開業資金と運転資金の例」で取り上げたダンス教室の、1か月あたりの売上計画と損益イメージの一例を挙げる。追加する想定条件は以下の通り。

顧客単価:月1万円(幼児小学生向けから成人のパーソナルレッスンまで加味した会員1人あたりの平均単価)

売上計画

売上見込みから支出見込み(前項、運転資金例)を引いた損益イメージは下記のようになる。

損益イメージ

ダンス教室の売上は、月謝、単発レッスン、イベント収益など複数の収益源から構成される。そのため、収益の安定化には生徒数の確保と客単価の設定が欠かせない。最初の難関は、口コミが見込めない開業時から必要な生徒数を確保すること。講師の魅力が生徒の集客に直結するため、大きな事業展開を計画するほど、実績を持つ講師を確保しなければならず、先行投資が必要になる。

さまざまな事業形態が想定されるが、ダンス教室は時代のニーズに適合した業種のひとつ。ダンス教室のテーマを明確にし、ブランディングの向上を目指すことで、安定経営や事業拡張を目指せる。何よりも、若者の心と体を育み、未来への架け橋になれる魅力的な業態だ。

ダンス教室のイメージ03

※開業資金、売上計画、損益イメージなどの数値は、開業状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

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