業種別開業ガイド

日本語教師

2022年 1月21日

トレンド

(1)在留外国人数は新型コロナで減少したものの、概ね増加傾向

2008年に「留学生30万人計画」がスタート、2019年4月には「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律」が施行され、新たな在留資格として「特定技能」が創設された。このように、日本政府は外国人受け入れを推し進めている。

こうした背景もあり、2013年以降、日本における外国人登録者数は年々増加し、2019年末時点には293万3,137人と、300万人に迫る勢いとなった。しかし、2020年は新型コロナウイルスの感染拡大による入国制限などが大きく影響し、それまでの増加傾向が一転して、2020年12月末時点で288万7,116人となり、4万6,021人(1.6%)減少した。それでもなお、今後新型コロナウイルスが収束し、海外との往来が活発化していけば、必然的に在留外国人の数は再び増加に転じるものと予測される。

(2)日本語教育をめぐる状況

文化庁が毎年実施している「日本語教育実態調査」によると、大学や日本語学校などで日本語を学ぶ学習者数は平成2年度調査では6万人余りだったのに対し、令和元年には27万人を超え、在留外国人数同様、増加傾向を示している。ただし、令和2年は新型コロナウイルスの感染拡大の影響により16万人余りまで大きく減少した。

また、サーベイリサーチセンターがインターネットのモニター調査で行った「在留外国人を対象とした総合調査」によると、何らかの形で日本語を現在進行形で学んでいると回答した在留外国人は約8割に上った。学習方法については、5割は「独学」と回答している一方、無料の日本語教室や有料の日本語教室を利用しているとの回答はそれぞれ1割台にとどまっている。また、現在日本語を学んでいないと回答した人の中でも、学習意向を持つ人は6割を超えており、日本語教育の潜在的なニーズは大きい。

経済産業省「特定サービス産業動態調査」によると、平成29年度における教養・技能教授業の年間売上高は9,151億円となっている。この分類の中には様々な教室が含まれているが、今後も日本における在留外国人の増加の大きな流れに変化がなければ、日本語教育の市場規模は拡大することはあっても、縮小は考えにくい。

(3)目覚ましい翻訳技術の向上と、今後の日本語教師のあり方

一方、今後の日本語教師のあり方に影響をもたらすと考えられるのが、言語翻訳技術の急速な精度向上である。これまで欧州言語以外はなかなか翻訳の精度が上がらないとされてきていたが、近年の音声認識技術やAI技術の急速な発達により、欧州言語に限らず、幅広い言語での翻訳技術が向上してきている。また、スマートフォン等で手軽に利用できる翻訳アプリなども普及し始めており、ある程度定型のやりとりであれば、こうしたツールを駆使し、意思疎通することが可能となりつつある。

こうした技術革新は今後も加速度的に続いていくことが想定されるが、日本語教師の仕事がなくなるかというと、そうとは考えにくい。野村総合研究所が発表した「人工知能やロボット等による代替可能性が低い100種の職業」には日本語教師も含まれており、AI等では補えない、文化的・社会的な背景等を踏まえたコミュニケーション力の育成が日本語教師には求められると考えられるためである。

日本語教師のイメージ写真1

ビジネスの特徴

生徒の大半が成人の在留外国人である点が最大の特徴である。在留外国人の来日理由も留学から就職、技能実習生など、様々なケースが考えられ、国内でも地域によって在留外国人コミュニティの規模や出身国など大きなばらつきがある。

今後開業を検討するに当たっては、地域の在留外国人の特徴をよく理解し、どのような日本語教室とすればビジネスとして成り立つかを検討することが重要である。

開業タイプ

(1)個人経営型

学習塾等のほかのスクール事業と同様、日本語教室は個人経営で開業することが可能である。

(2)フランチャイズ型

加盟金やロイヤルティ等が必要となるが、開業の準備や教室運営まで幅広くサポートが受けられる。

(3)オンライン型

通学型だけではなく、オンラインで完結している教室も存在する。生徒にとってはライフスタイルに合わせやすいというメリットが、運営側にとっては家賃等の経費削減といったメリットがある。また、コロナ禍にあっても、オンライン型は有効であると考えられる。
オンラインの大きな利点として、海外在住の生徒へのサービスの提供も可能となる。こうした場合、地域によっては時差が発生するが、その時差が返って功を奏すケースも考えられるため、個人レッスンなどについてはこうしたオンラインの活用は検討に値すると考える。

日本語教師のイメージ写真2

開業ステップ

(1)開業のステップ

開業に向けてのステップは、主として以下のとおり。

開業のステップ

(2)必要な手続き

個人事業主等として日本語教室を開く場合は特別な認可などは必要ない。一方で、日本語学校の設立については出入国在留管理庁への申請や、同庁による実地調査、文部科学省によるヒアリング面接等、様々な手続きが必要となる。

とりわけ、日本語学校を設立する場合には、教員、校舎、資産も揃っていることが条件となっており、この条件のハードルが高い(詳細は、日本語学校の設立代行などを手掛けている法律事務所やコンサルなどに問い合わせるのが良いと考えられる)。

したがって、まずは個人で開業するのが望ましいと考えられる。

立地や日本語教育のニーズを把握する重要性

日本語教室は、特に対面での教室を開く場合に、その土地に住む外国人の特徴を把握することが重要となる。また、子ども向けに日本語を教える機会もあるものの、主な対象は成人となるため、ビジネスを展開するうえでは他の習い事や教室とは異なる工夫も求められる。

先述のサーベイリサーチセンターの「在留外国人を対象とした総合調査」によれば、現在日本語を学んでいない理由として、「時間的余裕がない」との回答が3割を占めた。また、「日本語教室の時間が合わない」や「金銭的な余裕がない」との回答も1割前後となっており、ターゲットとする生徒層の時間や費用感にどのように対応していくかが重要となる。

また、日本語を学ぶ理由や、日本語を使う場面も各生徒それぞれ異なる。職場で必要となる言語スキルをとってみても、ビジネスの場で必要とされる日本語と普段の買い物や医者にかかる場合に必要となる日本語では、必要な語彙はまったく異なる。こうした様々なニーズに的確に応えることができるかどうかが生徒の定着につながると考えられる。

必要なスキル

日本語教育に関する知識、日本文化に関する造詣

当然のことながら講師には日本語能力が必要となるが、日本語のネイティブであること=良い日本語教師とはならない。
日本語学校などの教育機関で職を得ようとすると、応募資格に、

  • 日本語教師養成講座420時間修了
  • 日本語教育能力検定試験合格
  • 日本語主専攻あるいは副専攻

が挙げられるケースが多い。

自身で開業する場合はこうした資格は必須とはならないが、「日本語を母国語としない人に対し、どのように日本語を教えていくべきか」という点について専門性を持っていることは生徒にとっても安心材料となる。

また、言語としての日本語に関する知識とは別に、日本語と日本文化に対する深い理解や、それを異なる文化を持つ人にも分かるよう説明できる教師自身の表現力・コミュニケーション力も重要になる。特に、翻訳技術が飛躍的に進歩する中、言語と文化の密接なつながりをいかに伝え、教育していくかは、今後も人間の教師に求められる役割と思われる。

教育力

教師である以上、生徒とコミュニケーションをとりながら目標へと導く、広い意味での「教える能力」が必須である。また、上述の日本語教育に関する知識とも重複するが、教材の選択やカリキュラムの設計、生徒のフォロー体制などを整えておくことも重要となる。

その他

上記以外では、可能であれば、日本語以外の言語にある程度精通していることが望ましい。特に、来日間もない外国人は日本語をほとんど知らない状態で教室に来ることも考えられる。もし自身やスタッフがその外国人の母国語を使うことができれば、コミュニケーションの円滑化はもちろんのこと、他の教室との差別化の大きな材料となりうる。

日本語教師のイメージ写真3

開業資金と損益モデル

(1)開業資金

賃貸で開業することを前提として、必要な資金例を記載する。10坪の教室兼事務所を構える想定。

開業資金例の表

(2)損益モデル

a.売上計画

売上は、入会金のほか、生徒数×月謝が基本となる。これ以外に、短期滞在の留学生やビジネスマン向けのコースや、概ね1レッスンあたり約60分、3,500~7,500円、50~200回などのコースを設けている例などもあり、こうしたコースを追加することでさらに売上が見込める。

売上計画の表

b.損益イメージ(参考イメージ)

経営者の給与などは労務費として原価に含める前提で作成。販売費及び一般管理費中の人件費は、教員向けの人件費を想定。

損益イメージ例の表

※標準財務比率は「学習塾」に分類される企業の財務データの平均値を掲載。
出典は、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」。

c.収益化の視点

収入は、入会金のほか、生徒数×月謝が基本となるため、一定数の生徒を確保できれば経営は安定する。

ただし、日本語教室は、ターゲットとなる生徒層が在留外国人という特殊なケースとなるため、生徒集めはもとより、生徒を定着させるための工夫はより一層重要になる。生徒が普段働いている日中の時間以外でのクラスの提供や、経済的な負担感を軽減するための短期プログラムの実施、ニーズの高いテーマや言語を使うシナリオを限定したレッスンの提供などはその一例と言えよう。

また、経営が安定するまでは、オンライン開業など生徒が受講しやすいような環境を整備することも重要である。

※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

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