業種別開業ガイド
障害者就労継続支援A型・B型
2024年 12月 18日
トレンド
厚生労働省によると、2022年の国内障害者総数は約1,164.6万人(推計値)で、国内人口の約9.3%を占めている。障害者自立支援法が施行された2006年(約723.8万人)から440万人以上も増えており、年々増加傾向にある。障害者総合支援法における就労系障害福祉サービスには、就労移行支援、就労定着支援、就労継続支援A型、就労継続支援B型の4種類のサービスがある。
就労移行支援と就労定着支援は一般企業での雇用を支援するのに対し、就労継続支援A型・B型は、企業の雇用に結びつかなかった人や一般就労が困難な人向けのサービスである。就労機会を提供し知識の習得やスキル向上のための訓練を行い、一般就労への移行に向けて支援する。事業者と利用者で雇用契約を結ぶA型と、雇用契約を結ばないB型に分けられる。具体的な違いを以下の表にまとめた。
A型は、雇用契約による安定した就労が作業効率の向上につながり、事業として収益アップが期待できる。近年では、生産活動内容や労働時間など不適切な事例が指摘され、2017年に指定基準(運営基準)が改正された。利用者の希望や能力を踏まえた個別支援計画の作成を徹底し、支援内容の適正化と就労の質の向上が求められている。
B型は生産活動以外にも、働くために必要な知識の習得や面談といった支援も実施する。リハビリや訓練が中心となり、利用者の就労支援に貢献できるサービスだ。高工賃を実現している事業所を適切に評価し、工賃向上に向けた取り組みを推進するため、報酬改定(新たな加算区分の創設、現行加算の要件見直し、加算単位数の引き上げ)が行われている。
就労継続支援事業は国から給付金や助成金が支給されるが、利用者への賃金・工賃は、生産活動による利益から支払わなければならない。利用者へ継続して仕事が提供できるよう、しっかりと収益を生む事業計画を構築することが重要だ。
生産活動には、主に企業などから業務を受託する方法と、独自の事業を立ち上げて運営する方法がある。いずれの場合も、綿密な事業計画を立て経営戦略を練り上げたい。販路の開拓には、地域の共同受注窓口へあっせん・仲介を相談すると良いだろう。
厚生労働省が2024年に行った調査によると、現在取り組んでいる生産活動として最も多かったのは、軽作業:部品組立、検品、袋詰めなど(60.2%)だった。次いで、清掃(28.6%)、雑貨製造:織物・縫製・皮革・木工など(20.3%)、菓子製造(13.5%)、農業:米・野菜・果物・花卉(11.4%)と続いている。
近年の例では、SNS運用、動画編集、グラフ作成など、IT技術を活用した生産活動を行っているA型事業所がある。日々の仕事の中で知識やスキルが身に付けられるため、一般就労への道も開かれていくだろう。
またB型においては、漫画・アニメ・ゲームなどのサブカルチャーに特化し、イラスト・マンガ制作、動画・アニメ制作、声優・アテレコといったユニークな生産活動を行っている事業所も出てきている。
近年の障害者就労継続支援A型・B型事情
厚生労働省の資料によると、就労継続支援A型・B型ともに利用者数と事業所数は増加傾向にある。2023年4月時点では、
- 就労継続支援A型:事業所数 4,415カ所、利用者数 85,421人
- 就労継続支援B型:事業所数 16,295カ所、利用者数 333,690人
となっている。
近年の事業所数の推移を見ると、A型は2016(平成28)年まで営利法人が設置する事業所数が著しく増加していたが、2017(平成29)年の指定基準(運営基準)改正の影響で伸びは鈍化した。一方、B型の事業所数は増加傾向で、特に営利法人が設置する事業所が大幅に増加している。要因としては、先述の報酬改定の影響が考えられる。
平均賃金・工賃月額を見ると、A型は2015(平成27)年度以降上昇を続けており、B型は2020(令和2)年度に落ち込んだものの、翌年には回復している。
先述の通り、利用者への賃金・工賃は、生産活動による利益から支払わなければならない。しかし、厚生労働省の調査によると、生産活動の収益が利用者の賃金・工賃総額を下回っている事業所は56.5%にも達している。状況を改善することで、利用者へ高単価でやりがいのある仕事を提供できるとともに、基本報酬のスコアが上がり事業収益の増加につながって好循環が生まれる。
2025年10月からは、障害者本人が就労先や働き方についてより良い選択ができるよう「就労選択支援」のモデル事業が創設される。本人の希望を聞きながら、就労能力や適性に合った選択を支援する。
貴重な戦力として障害者が活躍できる場は増えている。就労継続支援事業所の社会的意義を熟慮し、利用者からも取引先からも選ばれる事業所になることを目指していきたい。
障害者就労継続支援A型・B型の仕事
障害者就労継続支援A型・B型の職種は、主に「管理者」「サービス管理責任者」「職業指導員」「生活支援員」の4つに分けられる。それぞれの具体的な業務内容は以下の通り。
- 管理者:事業所の統括業務(業務状況の管理、利用者と家族への対応、契約業務、利用者の就労管理、職員のシフト管理・指揮命令、環境整備、営業活動など)
- サービス管理責任者:サービス提供の統括業務(個別支援計画の作成、職員の指導・研修、関連機関との連携、各種記録、請求業務など)
- 職業指導員:個別支援計画に基づいた指導と支援、一般就労に向けたサポート、取引先との納期調整など
- 生活支援員:利用者の健康管理やメンタル面のサポートなど
利用者と職員(職業指導員、生活支援員)の比率により、事業者が受け取れる給付金が変わる。人員配置基準とあわせて確認すると良い。
障害者就労継続支援A型・B型の人気理由と課題
人気理由
- 給付金や助成金が得られるため安定的に経営できる
- 利用者が増加している
- 社会貢献できる
課題
- 収益を生む事業計画の構築(生産活動内容の検討、販路開拓など)
- 利用者1人1人の希望に対応できる体制作り(稼働率向上の対策など)
- 他事業所との差別化(生産活動の工夫、環境の整備など)
開業のステップ
障害者就労継続支援A型・B型の開業ステップは共通しており、以下の通りである。
障害者就労継続支援A型・B型に役立つ資格
職種により、必要な資格が異なる。
管理者の資格要件は、自治体ごとに条例で独自の基準が定められているため、事前に確認が必要だ。次のいずれかの資格や経験が必要であることが多い。
- 社会福祉士、精神保健福祉士などの資格
- 社会福祉事業に2年以上従事した経験
- 企業の経営または同等の経験や能力
サービス管理責任者になるためには、3年以上の実務経験または国家資格+1年以上の実務経験と、所定の研修受講が必要である。
職業指導員や生活支援員に必須の資格は特にないが、次の資格は勤務をする上で役立つ。
- 社会福祉士:福祉の相談や援助に関する専門知識・技術を持つ国家資格
- 精神保健福祉士:精神障害者の社会復帰に向けた相談援助を行う国家資格
- 介護福祉士:介護を必要とする人の生活を支援する国家資格
- 介護職員初任者研修:介護に必要な基本的な知識・技術を持つ厚生労働省認定資格
開業資金と運転資金の例
障害者就労継続支援A型・B型の開業にあたっては、次のような資金が必要である。
- 法人設立費:手続きにかかる費用
- 物件取得費:前家賃(契約月と翌月分)、敷金もしくは保証金(契約ごとに異なる)、礼金(およそ2カ月分)など
- 内外装工事費:内装工事、看板設置など
- 生産活動に必要な設備・備品費:テーブル、椅子、パソコン、電話、インターネット回線開設費用、消火器など
- 広告宣伝費(求人費含む):ホームページ制作費、SNS広告、チラシ印刷、求人広告費など
- 車両費:送迎サービスに使用する送迎車にかかる費用
以下、開業資金と運転資金の例をまとめた(参考)。
日本政策金融公庫では、新規創業やスタートアップを支援する「新規開業資金」の貸付制度を用意している。新たに事業を始める人に通常より有利な貸付条件になっているため、確認してみよう。
また、社会的課題の解決を目的とする事業を対象とした日本政策金融公庫の「ソーシャルビジネス支援資金」も利用可能である。
売上計画と損益イメージ
障害者就労継続支援A型・B型では、報酬が単位数で定められている。1単位の単価は地域区分ごとに異なる。報酬金額は、単位数に1単位の単価をかけて算出する。
<報酬の計算方法>
算定する単位数(基本報酬+各種加算、減算)× 1単位の単価(地域区分)= 報酬の総額
利用者と職員(職業指導員、生活支援員)の比率(人員配置)や生産活動収支の状況などにより、基本報酬、加算・減算分が算出される。
※詳しくは、厚生労働省「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定について」をご確認ください。
ここでは以下のように仮設定し、1年間の損益イメージをシミュレーションした。
【A型の収入例】
定員:10名
月間稼働日数:22日(稼働率100%)
人員配置:7.5:1以上
基本報酬:655単位/日
(多くの事業所が取得しているスコアで仮設定)105点以上130点未満⇒655単位/日
※厚生労働省「就労継続支援A型に係る報酬・基準について≪論点等≫」参照
地域単価:10円
月間基本報酬:10名×22日×(655単位+加算分145単位)×10円 =約176万円
月間活動収益:約80万円
【B型の収入例】
定員:20名
月間稼働日数:22日(稼働率100%)
人員配置:6:1以上
基本報酬:726単位/日
(多くの事業所が行っている人員配置で仮設定)5:1、平均工賃月額23,690円⇒6:1以上、定員20人以下⇒726単位
※厚生労働省「就労継続支援B型に係る報酬・基準について≪論点等≫」「障害福祉サービス費等の報酬算定構造」参照
地域単価:10円
月間基本報酬:20名×22日×726単位×10円 =約319万円
月間活動収益:約20万円
年間の収入から支出を引いた損益は下記のようになる。
数ある事業所の中から利用者に選んでもらうには、魅力ある生産活動になるよう工夫が必要だ。就労環境を整備し、利用者の要望に応えられる体制を作ることで、通所率が上がり企業での就労の足掛かりになる。
サービスの質の向上は、さまざまな加算要件を満たし収入を増やすことができる。さらに、利用者がやりがいを持って就労できれば、効率的な生産活動につながり、取引先からの評価も得られるだろう。助成金なども活用しながら、安定した経営と社会貢献の両立を実現していきたい。
※開業資金、売上計画、損益イメージなどの数値は、開業状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)