業種別開業ガイド
介護ショップ
2020年 4月 10日
トレンド
(1)高齢化による市場の拡大
総務省が発表した2018年10月1日時点の推計人口によると、65歳以上の人口は3,557万人となり、総人口に占める割合は28.1%と過去最高を更新、人口の4人に1人が高齢者という結果になった。
また、2018年度の介護福祉用具用品市場規模は前年度比2.0%増の3,145億円と右肩上がりの予測がされている(矢野経済研究所)。さらに、2025年の国内市場予測(2015年比)をみても、介護・福祉関連の用具・用品、装置・機器の合計は4,494億円(24.1%増)と試算されており、今後も成長し続けるとみられている(富士経済)。
(2)介護保険制度の発足による市場の拡大
介護の対象は身体障害者、高齢者が対象となるが、2000年の介護保険制度の発足により介護用品の購入が一定の条件下で補填できる制度が作られたため裾野が広がった。現在では、デパートなどで特設コーナーが設けられている例も珍しくはなく、専門店も増えたほか、高齢者向けの介護用品の種類、品数自体が増加している。
(3)コンサルティング需要
一般的に介護用品の選定と使用方法に関して、介護者が十分な知識を持っていないケースが多い。そのため、店舗スタッフには、適切な用具の選択と提案ができるコンサルティング力が求められている。
ビジネスの特徴
介護ショップは、介護保険が適用される種目を扱う点が大きな特徴といえる。基本的には、「福祉用具貸与」および「特定福祉用具販売」のふたつのサービスがあり、いずれも、貸与・販売するだけではなく、適切な福祉用具の選定、取り付け、調整等も重要となる。
福祉用具貸与は、要介護者が自立した日常生活を送れるよう、要介護者の介護状態に合わせて居宅での介護に必要なものを貸与するサービスである。
特定福祉用具販売は、介護保険制度における福祉用具のうち、入浴・排せつの用に供するもの等、貸与に適さないものの販売を行うサービスをいう。
また、こうした介護保険が適用される福祉用具を取り扱う場合は、福祉用具専門相談員を2名以上常勤させるなど、人員・設備についての設立基準を満たしている必要がある。開業にあたっては、各自治体に申請を行い、審査を受けなければならない。
開業タイプ
(1)個人店舗型
個人で開業する場合は、商品の仕入れや広告・宣伝などを自らの力で行う必要がある。これは手間という観点からはデメリットだが、自由度が高いという観点からはメリットといえるだろう。
また、介護ショップ特有の課題として、介護保険事業者として指定申請を行う必要がある点には注意が必要だ。申請から指定を受けるまでに一定の期間がかかるほか、人員や設備などの設立基準を満たしている必要がある。そのため、介護に関する基本的な知識や能力は必須といえるだろう。
(2)フランチャイズ型
フランチャイズ型のメリットとしては、情報が集約されていることや研修制度等が整っていることだ。また、介護ショップ特有の利点として、自治体への申請をフォローしてもらえることも大きいだろう。場合によっては、介護の初心者であっても開業できる可能性があるといえる。
デメリットとしては、ロイヤリティを支払う義務が生じることや、経営に関してフランチャイズ本部のルールに従う必要があることなどが挙げられる。
開業ステップ
(1)開業のステップ
(2)必要な手続き(関係法令等)
- 指定居宅サービス等の人員、設備及び運営に関する基準(都道府県知事の指定)
※指定された福祉用具を販売する場合はどの事業者であっても保険給付が行なわれるが、レンタルを行なう場合、指定事業者でなければならない。 - 介護保険制度
※「福祉用具貸与」および「居宅介護福祉用具購入費」として介護機器・用品の販売・レンタルが保険給付の対象となっている(ただし、定められたものに限る)。ロープ、移動用リフトについては、取り付けに際し工事を伴わないものに限る
必要なスキル
介護製品に関わる商品知識はもとより、介護福祉士、社会福祉士、精神保健福祉士等福祉系三大国家資格の資格は必要としないまでも可能であれば同等の知識を身に付けるなど日々の研鑚は必要である。一般介護者に販売する際に的確にアドバイスする事が可能となり、集客力の向上にもつながる。
開業資金と損益モデル
一般的な介護用品ショップの開業のケースの場合、介護者にアピールできる立地条件が重要になる。一般的な小売店などと同様、人通りの多い場所であることに加えて、病院・クリニックの周辺地域、老人保健施設や在宅介護支援センターの周辺地域などが望ましい。
(1)開業資金
製品の展示に必要なスペースを考える必要がある。最低、ベッドを1台、車椅子を3台など、製品展示用だけで10坪程度は確保できることが望ましい。
【店舗面積100平米の介護ショップを出店する際の必要資金例】
(2)損益モデル
a.売上計画
年間営業日数、1日平均来客数、平均客単価を以下の通りとして、売上高を算出した。
b.損益イメージ
上記、売上計画に記載の売上高に対する売上総利益および営業利益の割合(標準財務比率(※))を元に、損益のイメージ例を示す。
※標準財務比率は他に分類されないその他の小売業に分類される企業の財務データの平均値を掲載。
※出典は、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」。
c.収益化の視点
店舗設備などを行う場合、設備投資資金の需要が生ずる。またレンタル事業を行う場合や病院、福祉施設を販路とする場合、一般販売に比較し資金回収の期間が長くなるため、一定の手持ち資金を確保しつつ取引先の信用状況も把握することが重要である。
その他、介護関連の事業となるため、一般の小売店等に比べ人的サービスの比重が重く固定費の負担が大きい点も特徴である。たとえば、大型製品の運搬などを考慮すると販売員は最低でも2人は必要であろう。加えて、在庫チェックや製品の依頼など事務的な作業が大量に発生するため、その担当者が必要となる。こうした背景から、現実的にみれば人員は最小3人ほどとなるため、その分の人件費も用意しなくてはならない。
※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元に作成した一般的な内容のものであるため、開業を検討する際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)