業種別開業ガイド

訪問看護ステーション

トレンド

(1)拡大し続ける訪問看護事業

訪問看護事業の事業所数は、訪問看護ステーション、定期巡回・随時対応型訪問介護看護事業ともに増加し続けている。

訪問看護ステーション事業所数の推移グラフ
定期巡回・随時対応型訪問介護看護事業所数の推移グラフ

(2)国策としての訪問看護事業

2025年、いわゆる「団塊の世代」が75歳以上になり、国民の約5人に1人が後期高齢者となる。このため、社会保障費が急増し、2014年度に10兆円だった同予算は、2025年度には21兆円にまで膨れ上がる見込みであり、同時に、医療・介護施設や介護人材の不足などが懸念されている。
これを受け国は、『地域包括ケアシステム』(地域や自宅で医療、介護、予防、生活支援などのサービスを受けられる体制づくり)を推進しており、訪問介護などへの積極的な支援を行うとしている。

(3)保険外サービスや混合介護の推奨

国は、介護事業者の収益力の維持・向上に向けて、(ア)徹底的な効率化の推進、(イ)介護サービスの質の向上、(ウ)介護保険収入以外の収入源の確保等を推奨している。(ウ)に関しては、65歳未満の幅広い層をターゲットにした医療保険収入に加え、家主または本人の外出時における一時付き添いなどのサービスなどを始めている訪問看護事業者もある。

(4)慢性的な看護人材不足

2019年1月の政府の「医療従事者の需給に関する検討会」資料によれば、訪問看護における看護職員数は、2016年に4.7万人であったが、2025年には、約12万人が必要になると試算している。しかし、近年の看護師の有効求人倍率は2.5倍前後で推移し続けており、慢性的な人材不足状態にあることが窺える。今後、需要が急増することが見込まれる看護師の確保が業界の大きな課題となっている。

訪問看護事業の特徴

訪問看護は、厚生労働大臣が定める疾病等であれば、医療保険が適用されるケースもあるが、ここでは、介護保険適用時のみを解説する。

訪問看護は、利用者の心身機能の維持回復などを目的として、看護師などが疾患のある利用者宅を訪問し、主治医の指示に基づいて療養上の世話や診療の補助を行う事業である。
利用料金(事業所収入)は以下のように定められているが、利用者の所得金額などにより1割から3割と負担割合が変わる。
利用者負担分は現金収入、保険給付分は訪問実施の翌々月末に支払われる。現行の事業所収入のベースは以下のように定められている。(平成30年4月改定)

訪問看護の時間別事業所収入金額表
予防訪問看護の時間別事業所収入金額表

通常の訪問看護は、定期巡回や介護士との連携は行っていないが、定期巡回や介護と連携したタイプの訪問看護もある。定期巡回・随時対応型訪問介護看護は、定期的な巡回に加え24時間365日必要なサービスを必要なタイミングで柔軟に提供するサービスである。サービスの提供にあたっては、介護士と連携し、看護と介護の一体的なサービスを提供することができる。
訪問看護部分の事業所収入のベースは以下のように定められている(平成30年4月改定)。

訪問看護部分の事業所収入のベース

訪問看護事業 開業タイプ

訪問看護事業の開業タイプは、大きく2つのタイプに分けることができる。

(1)訪問看護

訪問看護は要介護1~5ランクの人を対象に、医療機関などの看護師などが利用者宅を訪問し、病気を観察、床ずれの手当などを行い、心身機能の維持回復および生活機能の維持向上を図るサービスである。なお、要介護1,2の利用者に対しては、要介護状態の悪化を防ぎ、高齢者の自立した生活を支援するための、予防訪問看護サービスを提供できる。

(2)定期巡回・随時対応型訪問介護看護

定期巡回・随時対応型訪問介護看護は、要介護度1~5ランクの人を対象に、日中夜間、ホームヘルパーなどに随行して定期的に家庭の巡回や、連絡のあった家庭の訪問を行い、介護や身の回りの世話、病気の観察、床ずれ手当など、心身の機能回復を図るサービスである。

開業ステップと手続き

(1)開業のステップ

開業に向けてのステップは、主として以下の7段階に分かれる。

開業ステップのフロー図

(2)必要な手続き

訪問看護事業を開業する場合は、事業者が各都道府県の介護保険担当部署にて認可申請を行う。認可基準の詳細や申請時の提出書類などについては、都道府県で異なる場合があるため、事前に登録窓口で確認する必要がある。
なお、訪問看護事業は、事業開始時に介護保険法に基づく指定を受けた場合、健康保険法に基づく指定をみなし指定で受ける。介護保険法のみの指定を希望する場合は、「指定訪問看護事業を行わない旨の申請書」を地方厚生(支)局長へ提出する。

サービスづくりと工夫

訪問看護サービスは、症状が安定期や終末期にある要介護者が対象である。具体的には、次のようなサービスを提供する。

  • 血圧、脈拍、体温などの測定、病状のチェック
  • 排泄、入浴の介助、清拭、洗髪
  • 在宅酸素、カテーテルやドレーンチューブの管理、褥瘡の処理、リハビリレーション
  • 在宅での看取り

業務の実施に際して、利用者やその家族などの第三者にケガや物の損害を与えてしまった場合に備え、賠償責任保険へ加入しておくと、安心である。

必要なスキル

訪問看護事業にあたる場合は、次の人員基準を満たしている必要がある。

  • 管理者(看護師、保健師で看護職員との兼務可)の配置:1名
  • 看護師、准看護師、保健師の配置:常勤換算で2.5 人以上(うち1 人は常勤)
  • 理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の配置:実情に応じた人数

ケアマネージャーや医師による紹介は重要な要素である。実績を作り、利用者による評価を上げ、ケアマネージャーや医師に紹介してもらえるよう、彼らとのネットワークを構築できるコミュニケーション能力・営業スキルも求められる。

また、利用者へのサービスや施設の内容をホームページで案内している事業者がほとんどである。選ばれる事業者になるため、ホームページの更新作業ができる人材も確保したい。

保険請求事務は、概して複雑である。このため、本制度を熟知し、請求ソフトを使いこなせる人材も必要だと言える。

開業資金と損益モデル

訪問看護は必ずしも広い事業所を必要としないため、通所事業と比べ初期投資を低く抑えることができる。以下は、30坪の自己所有物件で、訪問看護ステーションを始める場合の例である。

(1)開業資金

訪問介護開業資金例の表

(2)損益モデル

■売上計画(参考例):訪問看護ステーション

訪問介護ステーション売上例の表

■収支イメージ(参考例):訪問看護ステーション

訪問介護ステーション収支イメージ例の表
  • 開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、施設の状況などにより異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

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