将来にわたる仕入れの安定性
顧客単価の設定が難しい
開業のステップ
器店を新しく開業するためには、仕入れ先の確保と入念な事業計画が必要だ。また、開業時だけではなく、どうすれば持続可能な事業になるのかを可視化しなければならない。
STEP 1:コンセプトの設計
店舗のテーマやターゲット層を決定する。例えば、地域の伝統工芸に特化するのか、モダンなデザインを扱うのかなど。屋号やロゴなどのブランディング要素もここで検討する。
STEP 2:仕入れ先の確保
設計したコンセプトを満たす条件の産地や作家を探し、仕入れ先と契約をする。特別なつながりがない限りは作家との直接契約ではなく、卸先との契約になることが多い。作家、工房、卸商のいずれか、または複数の仕入れ先と契約を締結する。
STEP 3:市場調査と販売計画の立案
競合店舗の分析や消費者の動向をリサーチする。仕入れた商品をどのように販売するのかをシミュレーションし、販売の方向性や将来性を計画する。
STEP 4:資金計画
立案した販売計画に基づいて初期投資と運営資金の見積もりを立てる。自己資金に加え、補助金や融資を活用する計画もここで立案する。
STEP 5:立地など開業場所の選定
器店の場合は「どのような顧客層が買いに来るか」を想定して立地を決定することが大切になる。一般的に器は、購入後に長く持ち運びたくない商品ということにも留意する。
STEP 6:店舗デザインとレイアウト
思い描いた世界観を店舗のデザインやレイアウトに落とし込む。その上で、商品を魅力的に見せるための照明や什器を選び、器の質感や色みを引き立たせる。
STEP 7:法的手続き
開業届や青色申告承認申請書など、必要な書類を用意して提出。必要な資格や許可がある場合は事前に取得する。
STEP 8:プロモーション計画
タウン誌や地域のウェブサイトなどに開店を告知する。また、SNSやオンライン広告を活用した集客を自らも実施。開店から事業を軌道に乗せるペースで計画を組む。
STEP 9:オープン準備
在庫の確認やスタッフのトレーニングを実施し、開業までの最終チェックを行う。取り扱う器の特徴や作家のプロフィールなどを、スムーズに解説できるように訓練する。
STEP 10:開業
店舗をオープンする。顧客に器の解説をすることはもちろん、必要であれば暮らしの提案を行いながら器を販売し、店舗のファンを増やしていく。
これらのステップは順序が入れ替わることや、複数のステップが同時に進行することもある。自身のケースに応じて柔軟に対応したい。
器店に役立つ資格
器店を起業するために必須の資格はない。ただ、古物の販売を事業計画に入れている場合は、古物商免許が必要になる。また、暮らしや文化、顧客対応、器の生産地などの知識は豊富なほど良い。
古物を扱う場合、必須になる資格
古物商許可
古い器やリユース品を扱う場合、また買い取りをする場合に必須の資格。古物営業法に基づき、管轄の警察署で申請を行う。試験などはなく、申請時に手数料を支払うだけで取得できるが、その際に古物をどこでどのように販売する予定なのかという詳細が必要になる。また、古物を仕入れた時や売れた時は、台帳に情報を記録しなければならない。
役立つ検定
うつわ検定
産地、材料、使い方、選び方など、器に関するさまざまな知識を証明できる検定。器に専門特化した検定だけに、合格するための勉強だけでも、器の販売に必要な知識を学ぶことができる。空間コーディネーターなどの専門家も関わっている検定で、実践的な内容が魅力。
やきものマイスター
やきものの種類、製造工程、絵柄や技法の種類、産地の特徴などについての設問が出題される検定。3級から1級まであり、3級は基礎知識、2級は従事者向け、1級はエキスパート向けと段階が分かれている。
器の産地に関する検定
器はその産出地域の文化や自然環境に大きく影響を受けて現在の姿になっている。主要な産業や文化風習など、産地に詳しくなることで顧客と話す内容に厚みが増すため、余力があればぜひ取得しておきたい。
カラーコーディネーター検定
色の基礎理論、配色技法、心理効果、業界別の活用事例などの知識を証明できる検定。単体でも美しい器だが、カラーコーディネートの知識があれば、商品の陳列が変わり、顧客への提案にも深みが増す。
フードコーディネーター
食器と料理の調和は、最も顧客が望むもの。また、カフェの併設などを考えている人にとっては、食器の魅力を最大限に引き出すために有効な資格になる。
開業資金と運転資金の例
器店の開業資金や運転資金は、立地、規模、コンセプト、グレード、ECサイトの有無などの条件によって大きく変動するが、最も予算が必要になるのは改装費用だろう。美しい器を引き立たせる内装や設備が必要になる。これはECサイトを開設する場合も同様で、文言や写真、デザイン、ユーザビリティが上質であることが求められる。ここでは一例として、地方中規模都市の賃貸物件を想定し、ECサイトの有無で分けて資金例を算出した。
(想定ケース)中級から高級グレード製品がメインのセレクトショップ。30〜50平米の賃貸物件、それに伴う内装とディスプレイ。販売および事務を担当する常駐スタッフ1名(開業者自身)。ECサイト開設の場合はアルバイト1名を追加で雇用する想定。
売上計画と損益イメージ
開業資金と運転資金の例で取り上げた器店の、1か月あたりの売上計画と損益イメージの一例を挙げる。追加する想定条件は以下の通り。
(共通する条件)
仕入率:40%
(実店舗)
顧客単価:1万円
1か月の顧客数:150名(1日平均6名に販売)
1か月の稼働日数:25日間(週休1日を想定)
(ECサイト)
顧客単価:1万円
1か月の販売件数:50件
年間の収入から支出(上記運転資金例)を引いた損益は下記のようになる。
器店の経営で成功している人を分析すると、何かしらアドバンテージを持ち、早期に安定した経営を実現しているケースが多い。例えば、作家とひょんなことから知り合いになった、取り壊す予定だった蔵と巡り合って店舗にした、ECサイト構築やプロモーション能力に長けた知り合いが身近にいた、産地との縁が強かった、単なる愛好家を超えたレベルで器に接しているなどが挙げられる。
また、地方での開業を考えている人は「地方創生交付金」の情報がないか、自治体のウェブサイトを一度チェックしてみると良い。「移住及び定住の促進に資する事業」「地域社会を担う人材の育成及び確保に資する事業」「観光の振興、農林水産業の振興その他の産業の振興に資する事業」などが、主な交付対象になっている。加えて、創業支援や小規模事業者持続化補助金などもチェックしておくべき制度だろう。
器を購入する理由は人それぞれだが、そのお気に入りの器を長く使うことで「愛着」が生まれてくることは、ほとんどの人に共通することである。器は人生を一緒に歩むものであり、作り手、売り手、使い手のすべての「心」が宿るからこそ、特別な感情で接する人が多いのだろう。器店は、単に物を売るだけではなく、暮らしや文化を支える素晴らしい仕事である。
※開業資金、売上計画、損益イメージなどの数値は、開業状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)