業種別開業ガイド
100円ショップ
2025年 3月 12日

トレンド
1980年代中頃に登場した100円ショップは、価格の手頃さと品数の豊富さによって消費者を獲得し、市場を拡大してきた。基本的に薄利多売のビジネスモデルのため、いかに利益率を上げるかが課題となる。近年、市場の上位企業では独自商品の企画開発、製造、販売までを一貫して行い、ブランド価値を創造しながら利益を生み出している。
民間の調査によると、100円ショップ市場は1兆円規模に成長し、店舗数は10年前の約1.5倍となっている。

コロナ禍には、消費者の衛生志向や室内の快適さを求める需要の高まりにより、衛生グッズ、生活雑貨、キッチン用品の売り上げが伸びた。また、ガーデニング、DIY、アウトドア用品の分野でエントリーモデル(初心者向けや低価格で手軽に利用できる製品)として100円ショップのグッズが利用されるようになった。
さらに市場拡大の追い風となっているのが、近年の社会情勢だ。2022年から続いている円安や物価上昇により、消費者の節約意識が強まっている。内閣府が2024年に行った消費動向調査によると、国内景気の先行指標とされる消費者態度指数は「改善に足踏みがみられる」という基調判断となった。

消費者庁の「消費者意識基本調査」では、幅広い世代で費用対効果(コストパフォーマンス)を重視する人の割合が高く、品質に対する値頃感が重要な購買動機となっている。
また、買い物の回数に関する民間調査によると、ドラッグストアの次に100円ショップの利用が多いことが分かった。コンビニエンスストアは低迷が続いていることからも、よりシビアに価格を見定める消費傾向がうかがえる。
10年前とPRの手法が変わったことも、市場拡大の1つの要因と考えられる。SNSの普及により、個人発信のおすすめ商品情報が広がりやすくなっている。
総務省の「情報通信白書」によると、インターネット利用者に占めるSNS利用者は8割にも及び、6割以上の人が情報収集のために利用している。また消費者庁の調査では、7割以上の人が「インターネット上の口コミや評価が高い商品を選ぶ」と回答している。SNSの情報をきっかけに商品を購入するなど、SNSは購買意欲を掻き立てる重要なツールとなっている。
SNSに100円ショップの商品情報が投稿されると、ほとんど売れなかった商品が売れ出すケースもあるという。そして、客層の拡大にもつながっている。企業側もSNS運用を取り入れているところは多く、商品のPRだけでなく、企業と消費者の双方間コミュニケーションでニーズを捉え、新商品の企画開発に生かしている。
近年の100円ショップ事情
急激に進む円安の影響で製造や輸入にかかるコストが増加し、採算が悪化するケースがみられる。経営を維持するために、各社さまざまな打開策を講じている。
例えば、これまで100円に限定していた価格帯を、200円〜2,000円以上に広げる企業が増えている。価格帯の幅を広げることによって取り扱える商品が増え、質に見合った価格での販売が可能となった。
大手100円ショップチェーンでは新たな取り組みとして、300円ショップブランドの立ち上げや、サステナビリティ(持続可能性)を意識したブランドの展開をスタートさせた。付加価値を追求した商品づくりを行っており、顧客層の拡大にもつなげている。最近ではデパートに複合店をオープンさせ話題となった。集客力の実績を積んでおり、全国の商業施設などへの出店が相次いでいる。
300円ショップに関しては、近年順調に店舗数を伸ばしている。民間の調査によると、2023年度末に1,000店舗を超え、5年前と比べ約2.8倍の店舗数だという。

100円より高い300円ショップが増えているのは、前述のようにコストパフォーマンスを重視した消費傾向の表れだと考える。消費者は、価格以上の価値があると認めたものを購入する。企業側は100円より商品開発に選択肢が広がるため、今後も300円ショップ業態に参入する企業は増える可能性があるだろう。
多くの企業で価格帯の幅を広げる動きがある一方で、100円均一価格を堅持する企業もある。原材料が高騰する中で売価を変えずに利益を出すためには、抜本的なコストコントロール(原価管理)が必須だ。シンプルに設計した商品で原価を抑えたり、店舗ごとの商品発注を自動化して欠品を防止したりするなど、デジタルを活用して徹底的な効率化を実現している。
近年では、各社で新たな販売チャネルを開拓する動きがみられる。コロナ禍を機に1点から買える個人客向けネットストアをオープンさせた企業、流通大手の傘下に入り販路拡大を狙う企業、日本文化を取り入れた商品で海外進出する企業、コンビニエンスストアとの提携や食品スーパーの一角で代理販売してもらう委託型店舗を展開する企業など、各社さらなる成長を目指し戦略的に事業拡大に挑んでいる。
100円ショップの仕事
100円ショップの主な仕事は「商品企画・仕入れ」「運営管理」「店頭業務」「販売促進」に分けられる。
- 商品企画・仕入れ:顧客ニーズに合わせた商品の企画・発注など
- 運営管理:在庫管理、スタッフ管理、総務、経理、各種書類作成など
- 店頭業務:販売、品出し、清掃など
- 販売促進:SNS運用、店舗レイアウトなど

100円ショップの人気理由と課題
人気理由
- 需要が拡大しており安定した販売が見込める
- 身近な商品を取り扱うことが多く専門的な知識は不要
- 大手フランチャイズに加盟する場合はブランド力を生かせる
課題
- 円安によるコスト増加(利益率を高める戦略の構築)
- 他業種からの参入増(競合店との差別化)
- 初期投資が必要(資金の確保)
開業のステップ
100円ショップの開業には主に2つのパターンがあり、個人で独立して開業するか、フランチャイズに加盟して開業するかに分けられる。ここでは、フランチャイズに加盟して開業する場合のステップを紹介する。

100円ショップに役立つ資格
100円ショップを開業するにあたって、特別な資格は必要ない。ただし、食品を販売する場合には「食品衛生責任者」の資格がいるため、所管する保健所への確認が必要だ。資格の取得には、各都道府県の保健所が行っている食品衛生責任者養成講習を受講する。ただし、調理師、栄養士、製菓衛生師などの免許保有者は、講習の受講は不要である。
開業資金と運転資金の例
フランチャイズに加盟して100円ショップを開業する場合には、以下のような費用が考えられる。
- 物件取得費:前家賃(契約月と翌月分)、敷金もしくは保証金(およそ10カ月分)、礼金(およそ2カ月分)など
- 内外装工事費:内装工事、看板設置など
- 什器備品費:商品棚、レジ、パソコンなど
- 仕入れ費:商品代、仕入れにかかる費用など
- フランチャイズ加盟金:契約金、保証金、研修費など
- 諸経費:営業許認可料など


企業によっては、加盟金がかからなかったり、内外装工事費や什器備品費を本部で負担してくれたりするところもある。どのような要件となっているか、事前に確認すると良い。
日本政策金融公庫では、新規創業やスタートアップを支援する「新規開業資金」の貸付制度を用意している。新たに事業を始める人に通常より有利な貸付条件になっているため、確認してみよう。
売上計画と損益イメージ
100円ショップ(フランチャイズ型)を開業した場合の1年間の収支シミュレーションは、以下の通りである。
月間営業日数:30日
客数:約600人/日
客単価:約500円

年間の収入から支出(上記運転資金例)を引いた損益は下記のようになる。

個人で独立して開業する場合は、自己資金に合わせて小規模にスタートできるが、仕入れ先の選定や集客、利益確保など、経営上の課題が多い。一方フランチャイズ加盟での開業は、50坪以上といった要件はあるが、資金繰りがクリアできればブランドの集客力で安定した収益を得られる可能性が高い。
近年、100円ショップはインバウンド客にも人気が高まっている。世界中の人が驚く100円グッズは、まさに「ロマンとそろばん(社会的意義と経営的な価値)」が形になったものと言えよう。今後も、日本が誇る100円ショップならではの価値ある商品を人々に提供し続けていきたい。

※開業資金、売上計画、損益イメージなどの数値は、開業状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)