業種別開業ガイド
不動産業
2021年 1月 15日
トレンド
(1)市場における新型コロナウイルス感染拡大の影響に懸念
不動産業の法人数は年々増加しており、2018年には約33.8万社、全産業の12%を占めている。市場規模もリーマンショック後は30兆円台に縮小していたが、ここ数年は拡大の傾向で2018年は46.5兆円となっている(出所:財務省「法人企業統計調査」)。
一方、2020年以降は新型コロナウイルス感染拡大の影響が懸念されている。特にホテルや商業施設の受けた打撃は大きく、今後の市場動向には注意が必要である。
(2)都市部と地方の差
近年、地方から都市部への人や企業の流入が顕著である。人や企業の移動により不動産の需要や価格は影響を受けるため、不動産業においても地域による差が大きくなっている。特に東京都心部では、再開発により次々と大規模なオフィスビルの供給が行われ、人や企業が集中していることから、都心へのアクセスが良好な地域では居住地としての需要もさらに高まっている。
(3)グローバル化
グローバル化に伴い、人・モノ・情報の移動が一層活発になっている。訪日外国人旅行者数の増加や、新しい外国人材の受け入れ制度の開始により、宿泊地や外国人住居の需要も高まっている。国際社会の中で存在感を発揮していくため、世界の人々や企業から観光やビジネス、生活の場として選ばれる魅力ある土地や建物が、不動産業界でも注目されている。
(4)情報公開のIT化・業務効率化
不動産業界には、業者間で様々な不動産情報を閲覧・登録できる「レインズ」という仕組みがあるが、顧客には公開されないことから、不動産業者と顧客との間に情報格差が生じ、流通の弊害となっている。そこで、ビックデータ解析を用いた情報公開システムを運用し、顧客に安心感と信頼感を与える取組が始まっている。
また不動産取引では、消費者保護等の観点から対面かつ書面での手続きを行ってきたが、近年の技術革新により、ブロックチェーン技術を活用した新たな手続き方法が登場している。これにより、複数の書面手続きを一括で行うことができ、顧客満足度向上につなげている。
ビジネスの特徴
不動産業には大きく分けて、(1)開発・分譲、(2)流通、(3)賃貸、(4)管理、(5)不動産投資・運用の5つの業態があり、相互に関わりをもって運営している。ただし、それぞれの業態ごとに、事業スキームが異なってくることを踏まえ、開業の際には、自身のノウハウや資金状況などに合わせ業態を選ぶことが重要となってくる。
なお、(1)、(2)は宅地建物取引業免許の取得が開業に必要な要件となる。(3)、(4)は宅地建物取引業免許の取得は必須ではないが、消費者保護の観点から賃貸住宅管理業者登録制度が設けられているため、登録が推奨される。
開業タイプ
(1)賃貸仲介業
賃貸物件を、顧客に紹介する業態である。賃貸借契約の成立時に支払われる仲介手数料が報酬となる。
売買仲介に比べ1件あたりの報酬は少ないものの、転勤・進学での引越しなどニーズが多く客層も広いなどのメリットがある。
(2)売買仲介業
売買物件の情報を仕入れて、物件の購入を考えている顧客に紹介する業態である。売買契約の成立時に支払われる仲介手数料が報酬となる。
1件あたりの報酬は高いものの、賃貸のように毎月何件もの契約を成立させることは難しい。そのため、在庫負担が大きくなりがちであり、在庫手当の資金負担が大きくなることもある。
(3)賃貸管理業
入居者の斡旋から家賃の集金、駐車場を含む物件の管理を業務とする。その他、業務内容は多岐に渡り、入居者の家賃滞納や空室時の家賃保証、トラブル発生時の円滑解決などの業務もある。
(4)その他のタイプ
不動産の運用方法を提案する不動産コンサルティング業などのコンサルティング業のほか、不動産デベロッパーや不動産投資・運用業などがある。
ただし、不動産デベロッパーは一般的にはゼネコンを指し、不動産投資・運用業は実質的には金融業に近い業態となる。
また、フランチャイズ加盟による開業などもある。フランチャイズのメリットとしては、知名度のある不動産会社の看板を借りることができることや、フランチャイズ本部のサポートを受けられることなどが挙げられよう。
開業ステップ
(1)開業のステップ
(2)必要な手続き
- 法務局への法人登記申請 …事業形態を法人とする場合は申請する。
- 税務署等への各種届出
- 都道府県庁への宅地建物取引業免許申請 …開業する事務所が1つの都道府県内に限定されている場合は都道府県知事免許、2つ以上の都道府県にわたる場合は国土交通大臣免許を申請する。
- 不動産協会・保証協会への加入 …必須ではないが、加入することで開業時の営業保証金1,000万円が免除され、経営をバックアップする様々なサービスを受けられる。
新型コロナウイルス感染予防
国土交通省は2020年5月、不動産業界団体に対し「不動産業における新型コロナウイルス感染予防対策ガイドライン」を通達した。店頭における感染予防対策や顧客対応のリモート化推奨など、感染予防に配慮した取り組みが求められている。ガイドラインに記載された店頭での取り組み事例として、「接客カウンターの客側座席間の距離を1メートル以上開ける」「接客カウンターへのアクリル板・ビニールカーテンなどの設置」「メール、電話、インターネット、ビデオチャットなどの活用により対面での接客機会を減らす」といったことが挙げられている。
新型コロナウイルスの感染収束がまだ見えない状況下では、これまでとは違う営業形態や集客方法が必要であり、特にオンラインツールには習熟しておきたい。
必要なスキル
(1)宅地建物取引士資格
不動産取引を行う際の重要事項説明を行うことができる資格であり、宅地建物取引業者では1事務所において、5人につき1名以上の割合で専任の宅地建物取引士の設置が義務付けられている。
(2)不動産仕入能力、情報収集能力
不動産業者にとって、不動産仕入は事業開始の第一歩であり、事業展開を左右する大きな要素となる。そのため、質が高く、顧客の要求に沿った不動産情報を多く入手することができる情報収集能力やネットワークの形成が必要となる。
(3)販売力
不動産は固有条件により、分譲物件の販売動向や賃貸物件の稼働率は大きく左右されるため、安定した事業基盤の構築には、組織的・戦略的な販売体制が重要となる。
開業資金と損益モデル
ここでは、社員2人、アルバイト2人の小規模な不動産仲介業者を開業することを想定する。
(1)開業資金
【事務所・駐車場を月30万円で賃貸して不動産仲介業を開業する際の必要資金例】
(2)損益モデル
a.売上計画
仲介内容に応じた平均単価、月々の成約件数を以下の通りとして、年間の売上計画を算出した。
b.損益イメージ
上記a売上計画に記載の売上高に対する売上総利益および営業利益の割合(標準財務比率(※))を元に、損益のイメージ例を示す。
※標準財務比率は不動産代理業・仲介業に分類される企業の財務データの平均値を掲載。 出典は、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」。
c.収益化の視点
不動産仲介業は、仲介手数料が売上となる。仲介手数料には上限が決められており、賃貸の場合は賃料の1ヶ月分、売買の場合は取引金額に応じて3~5%となっている。賃貸は特に時期によって契約数に波があるため、その点も踏まえた経営計画を立てる必要がある。
自宅や事務所として物件を選ぶ基準は、金額、駅からの距離、築年数、間取りなど顧客によって様々である。そのため、仲介可能な物件の種類は多い方が顧客のニーズに合った物件を紹介できる可能性が高くなり、成約にも結び付きやすくなることから、取扱物件数は重要である。
また開業する事務所の立地は重要である。最近では顧客にも公表されているインターネット上の情報から、事前にある程度物件や取扱店を調べて来店する顧客も多いが、駅前で目に留まった不動産屋に足を運ぶ顧客も多い。賃料は高くなりやすいが、顧客が立ち寄りやすい場所に事務所を設けることで、来店数を増やすことができ、結果的に契約数の増加につながる。
※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、開業状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討する際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)