業種別開業ガイド

プログラミング教室

2020年 11月 16日

トレンド

(1)プログラミング教育必修化により子ども向け教育市場が拡大

2020年度より小学校でのプログラミング教育が必修化された。これに伴い、子ども向けのプログラミング教育の需要が高まることが予測されている。

GMOメディア株式会社が運営するプログラミング教育ポータルサイト「コエテコ」と株式会社船井総合研究所の共同調査「2020年 子ども向けプログラミング教育市場調査」によると、2019年の子ども向けプログラミング教育市場規模は前年比126%の114億円となった。今後も拡大傾向は続き、2025年には292億円に上ると予測されている。

(2)IoT・AIの発展により注目が高まる社会人向けプログラミング教育

プログラミング教室は、IT業界への転職をめざす方やスキルアップを図る方など、社会人向け教室にも需要がある。社会的な状況として、今後はIoTやAIの発展による雇用環境の変化が予測されるため、さらに需要が高まる可能性もある。

総務省が2018年に発表した「ICTによるインクルージョンの実現に関する調査研究」によると、業務外での学びなおしや職業訓練が必要になる可能性について、「極めて高い」と答えた割合が9.7%、「高い」が22.7%と約3割を占めており、その具体的な内容として、プログラミングを含む「情報通信分野に関すること」は34.5%と、「外国語に関すること」の52.8%に次ぐ2番目に高い結果であった。

(3)競争激化のため差別化が非常に重要——幼児対応、女性入会率等がカギか

子ども向けプログラミング教室は上述の通り市場規模が拡大している一方、教室数の増加も著しい。競争の激化が進行している状況だ。今後の発展のためには、ターゲットを広げていく必要があるとみられている。

差別化の戦略として考えられるのは、例えば、生徒の年齢層の拡大だ。現状は幼稚園の年長から小学1~4年の申し込みが78%を占めているが、これをさらに幼児向け、あるいは中高生向けに拡大していく戦略が考えられる。また、幼児向けにターゲットをしぼった業態をめざすなど、ターゲットを明確にすることで差別化を図る戦略もあり得るだろう。

そのほか、プログラミング教室は女性が少ないことが大きな課題とされているため、女性に向けたPRも重要となる。子ども向け教室については、現状は男児83%に対し女児は17%と極端に差がついている。社会人向けの場合も、IT業界は女性が少ない傾向にあるため、プログラミング教室も女性が少ないケースが多いと予測できる。女性の需要を掘り起こすことは差別化戦略として有効に働くだろう。

ビジネスの特徴

子ども向け教室に関しては、プログラミング教育必修化という大きな追い風が吹いている。ただし、上述の「2019年子ども向けプログラミング教育市場トピックレポート」によると、プログラミング教室を申し込む子どもは平均1.87個の習い事をしていることに留意が必要である。つまり、現状ではプログラミング教室はあくまで「3つ目の習い事」であり、学習塾や英会話などと比較すればまだマイナーな状況となっている。加えて、生徒の年齢幅の狭さや男女比の偏りなど、いくつかの課題が存在することは開業にあたって注意しておきたい。

大人向け教室についても、IoTやAIの発展といった社会的な追い風はある。ただし、社会人は仕事などにより学習時間が取りづらいなど、子ども向け教室とは異なる課題がある。プログラミングの習得によってどのような成果が得られるかをアピールしていくことが重要となると考えられる。

開業タイプ

(1)個人経営型

学習塾等のほかのスクール事業と同様、プログラミング教室は個人経営で開業することが可能である。

(2)フランチャイズ型

加盟金やロイヤルティ等が必要となるが、開業の準備や教室運営まで幅広くサポートが受けられる。

(3)オンライン型

通学型だけではなく、オンラインで完結している教室も存在する。生徒にとってはライフスタイルに合わせやすいというメリットが、運営側にとっては家賃等の経費削減といったメリットがある。

開業ステップ

(1)開業のステップ

開業に向けてのステップは、主として以下のとおり。

開業のステップ

(2)必要な手続き

プログラミング教室を開業するにあたって必要な資格等はない。

子ども向け教室と大人向け教室それぞれの課題

プログラミング教室は、子ども向けと大人向けで事業計画立案にあたって考えるべきことが異なる。

子ども向け教室では、プログラミング教室同士の競争だけでなく、習い事のひとつとして、学習塾や英会話、スイミング、ピアノ等との競争があることに留意が必要だ。

上述の「2019年子ども向けプログラミング教育市場トピックレポート」によると、習い事を決める上で重要な要素としては、「授業内容・カリキュラム」が50.5%で最も高く、次いで「アクセス・自宅からの距離」が12.9%、「料金」が9%と続いている。

大人向け教室では、生徒にとっては「費用」と「時間」がネックになっている。イノベーション・デザイン&テクノロジーズ株式会社「社会人の大学等における学び直しの実態把握に関する調査研究」によると、仕事以外の学習をはじめる障害要因として「費用が高すぎる」「勤務時間が長くて十分な時間がない」が上位を占めた。

必要なスキル

  • プログラミング能力

当然のことながら、講師には最低限のプログラミング能力が必須となる。また、対応できる言語が複数あることが望ましい。

  • 教育力

教室である以上、生徒とコミュニケーションをとりながら目標へと導く、広い意味での「教える能力」が必須である。また、教材の選択やカリキュラムの設計、生徒のフォロー体制などを整えておくことも重要だ。

開業資金と損益モデル

(1)開業資金

賃貸で開業することを前提として、必要な資金例を記載する。10坪の教室兼事務所を構える想定。

(2)損益モデル

a.売上計画

売上は、生徒数×月謝が基本となる。これ以外に、入会金や年間テキスト代が加わる。また、学習塾における夏期講習のように、短期の学習コースなどを設定することで追加の売上が見込める。

売上計画例の表

b.損益イメージ(参考イメージ)

 損益のイメージ例の表

※標準財務比率は「学習塾」に分類される企業の財務データの平均値を掲載。
出典は、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」。

c.収益化の視点

売上総利益率が47.9%と高い水準であるが、営業利益率は4.6%であることから、労働集約型ビジネスであるといえる。そのため、損益計画を立てる際は、人件費やその他の諸経費を上回るために必要な生徒数を把握し、その確保に努めることが必要である。

個人で開業する場合、小規模の教室施設から始めれば、初期費用は抑えられる。月謝というかたちで定期的な入金があるため、一定の生徒数で安定すれば、投資回収等の計画も立てやすいといえる。

子ども向けのプログラミング教室については、似た業態である学習塾と比べれば習い事としてニッチな領域であるため、生徒を定着させるための工夫が必要となる。短期コース等のプログラムを充実させるなど、サービスを複数用意しておくことも重要となるだろう。

大人向けのプログラミング教室の場合は、事前に目的・ターゲットを明確化し、どの程度の需要があるのか把握しておくことが重要になる。

また、経営が安定するまでは、オンライン開業等といった、教室施設関連の費用を抑えられる業態から始めることを検討しておきたい。

※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)