業種別開業ガイド

高齢者向けリハビリ

2021年 7月 9日

トレンド

(1)人口の約3割が高齢者

総務省統計局によれば、2020年の総人口に占める高齢者(65歳以上)人口の割合は28.7%で、過去最高値を更新した。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、高齢者の割合は今後も拡大傾向で推移し、2025年には30.0%となり、2040年には、35.3%になると見込まれる。こうした状況を背景に、高齢者向け市場規模は2025年には100兆円規模に成長するとの予測がなされている(みずほコーポレート銀行産業調査部調べ)。

(2)VRでリハビリへのモチベーション向上

人工的に作られた仮想空間を作り出し、実体験に近いリアルな感覚を提供するVR(バーチャル・リアリティ)技術が、高齢者のリハビリにも活用されつつある。装着すると目の前に観光地の景色が現れるVRヘッドセットによって旅行体験をしてもらい、高齢者の外出意欲やリハビリへのモチベーションを高めることにつながると期待されている。

(3)オンラインリハビリ

コロナウイルス感染により重症化リスクの高い高齢者にとっては、リハビリのための外出もままならず、身体機能低下が進行する恐れがある。このような状況の中、動画配信によるオンラインリハビリ指導などのサービスが登場している。また、遠隔リハビリシステムによって自宅でリハビリができる技術が開発され、実用化に向けた取り組みが進んでいる。

ビジネスの特徴

高齢者を対象として、身体機能の回復や維持、介護予防のための身体訓練を行う。
保険が適用されるものと、全額自己負担で行うものがある。

デイケアと訪問リハビリテーションは医師の管理が必須であるため、実質的に病院、診療所、介護老人保健施設のみが開業可能となる。対して、リハビリ特化型デイサービスと自費リハビリは法人または個人による開業が可能な分野である。

(1)介護保険が適用されるリハビリ

a.通所リハビリテーション(デイケア)、訪問リハビリテーション

利用者に施設に通ってもらう「通所リハビリテーション」(デイケア)と、利用者の自宅へ訪問する「訪問リハビリテーション」があり、要介護認定区分によって以下のように分けられる。いずれも医師の判断の下、理学療法士や作業療法士などのリハビリ専門職(有国家資格者)がリハビリを行う。

要介護認定区分の表
b.リハビリ特化型デイサービス

介護保険制度上は通所介護(デイサービス)の1つである。要介護1~5の認定者が利用対象で、入浴、食事のサービスはなく、半日程度の短時間利用でリハビリを受ける。機能訓練指導員(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、看護師、柔道整復師、あん摩マッサージ指圧師のいずれかの有資格者)がリハビリプランの作成・指導を行う。デイサービスの指定事業者となるためには、運営主体は法人でなければならないが、新規法人でも問題なく、比較的参入は容易とみられる。

(2)自費リハビリ(保険外リハビリ)

医療保険や介護保険の範囲内で受けられるリハビリは時間や回数に制限があるため、充分なリハビリを受けられないことに不満を持つケースも少なくない。こうしたニーズに対応するのが、国民健康保険・社会保険・介護保険などを利用しない「自費リハビリ」である。全額自己負担となるため高額だが、利用者は納得がいくまでリハビリを受けることができる。

開業タイプ

法人または個人による開業が可能な「リハビリ特化型デイサービス」と「自費リハビリ」については、以下の2通りが考えられる。

(1)独立型

リハビリ特化型デイサービスの場合は法人としての開業となり、人員配置や設備においてデイサービスの指定基準を満たすことが必須となる。自費リハビリの場合は、提供するサービスによって必要な面積、設備は異なる。

(2)フランチャイズ加盟型

リハビリ特化型デイサービスで開業する場合、フランチャイズに加盟し、知名度やノウハウを活用して開業することも可能である。

開業ステップ

(1)開業のステップ

開業に向けてのステップは、主として以下のとおり。

開業ステップのフロー図

(2)必要な手続き

リハビリ特化型デイサービスの開業に際しては、法人設立のうえ、都道府県の事業者指定・審査・許可が必要となる。人員配置、設備等は指定基準で定められており、地域によって異なる場合があるため、事前に自治体へ確認をしておく。
自費リハビリの開業については、特別な許認可は不要であり、税務署へ個人事業の開業届出書、青色申告承認申請書の提出を行う。

(3)開業場所

商圏となる地域の要介護(要支援)認定者や競合となる事業者がどの程度なのかを把握しておく必要がある。

メニューづくり

リハビリ特化型デイサービスは、介護保険で定められた範囲内でのサービスとなる。同じ時間帯に複数の利用者が参加するため、グループで行う体操などのプログラムと、個々に合わせて機器や道具を利用したプログラムを組み合わせたメニューとなる。

自費リハビリでは、利用者の現在の状態、目標に合わせたオーダーメイドのプログラムを、マンツーマン指導で1~3か月程度の期間、継続して行う。料金設定は事業者によって異なるが、1回当たりに換算すると概ね数千円から1万円台となっているところが多い。理学療法士によるプログラムのほか、筋トレや鍼灸などを組み合わせているケースもある。

どちらの場合もリハビリの効果を見える化し、利用者の満足度を高め継続利用につなげていくことが重要である。

必要なスキル

代表者が医療や介護の専門家である必要はないが、現場と密接に連携をとり、状況を把握するためには、ある程度の実務経験が求められる。常時人と関わる立場であるため、コミュニケーションスキルは必須である。スタッフの離職を防ぎ質の高いサービスを提供するためにも、組織を円滑に運営していくマネジメントスキルが重要となる。

開業資金と損益モデル

(1)開業資金

【面積20坪程度の自費リハビリ提供施設を開業する際の資金例】

開業資金例の表

(2)損益モデル

a.売上計画

売上例の表

b.損益イメージ(参考イメージ)

上記a売上計画に記載の売上高に対する売上総利益および営業利益の割合(標準財務比率(※))を元に、損益のイメージ例を示す。

損益イメージ例の表

※標準財務比率は他の社会保険・社会福祉・介護事業に分類される企業の財務データの平均値を掲載。出典は、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」。

c.収益化の視点

リハビリ特化型デイサービスの集客については、ケアマネージャーへの営業活動が必須であり、信頼関係の構築が重要となる。一方でホームページやSNS等により広くサービスを周知していくことも必要である。

自費リハビリの場合、保険適用外のサービスであり高額となるため、利用できる層は限定される。医師やケアマネージャーからの紹介も得られにくいため、ホームページやSNS等での発信は不可欠であり、ネット検索で上位に表示されるSEO対策も重要となる。

自費リハビリは利用者1人あたりにかける時間が1~2時間と比較的長めであり、スタッフが少ない開業初期の状態で1日の受け入れ数を増やすことは質の担保の点から難しいと考えられる。継続利用者の増加が収益化につながるため、利用者の満足度向上が重要である。また、利用のハードルを下げるには、リーズナブルな料金でリハビリが体験できるトライアルコースなどのメニューも有効といえる。

※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。 (本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

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