業種別開業ガイド

シェアハウス

2021年 9月24日

トレンド

(1)市場規模

一般社団法人 日本シェアハウス連盟が行った「シェアハウス市場調査 2019年」によると、国内シェアハウスの物件数は4,867棟で、部屋数は56,210室と、増加の一途をたどっている。2018年3月末時点での国内の主なシェアハウス業者は752社で、そのうち60.1%が設立から5年未満と新規参入の増加が目立つ。シェアハウスはすべての都道府県において立地がみられ、今後も需要は拡大していくとみられている。

(2)コンセプト型シェアハウス

目的や志向をもつシェアハウスの事で、近年注目を集めている。音楽やスポーツなど趣味をコンセプトとしたシェアハウス、ペットと入居できるシェアハウス、シングルマザーの子育て支援などをコンセプトとしたシェアハウス、専門家のセミナーなどを開催し、起業家を育成するコンセプトとしたシェアハウスなど、様々なコンセプトがある。

(3)コミュニティの場としての役割

従来は家賃の安さや入居・退去のしやすさが売りであったシェアハウスも、近年では交流の場としての役割が増大している。先述したようなコンセプトを持ったシェアハウスや、交流を図るようなイベントを開催するなど、シェアハウスならではのコミュニティが求められている。

シェアハウスのイメージ

ビジネスの特徴

1つの賃貸物件を複数の入居者に貸し出し、家賃収入を得る業態である。中古の一戸建をシェアハウス用にリノベーションした物件が多く、リビング、キッチン、トイレ、浴室、洗面所等は共用となっている。1人に1軒を貸す場合に比べ1人当たりの家賃は割安だが、複数人から家賃が得られるため空室リスクを回避できるメリットがある。

開業形態にもよるが、自身で物件を所有した場合はリフォームやリノベーション、家具・家電の準備等で、かなりの初期費用が必要となる。シェアハウスを作ることや管理・運営することに必要な資格はないが、経営を成功させるには、マーケティング、不動産、経営上の基礎知識などが求められる。

開業タイプ

(1)自主方式

自分で物件を所有し、シェアハウスの管理・運営も自身で行う。物件を所有するため、初期費用と毎月の支出額が大きいが、自身で管理・運営も行うため収入も大きくなる。

(2)委託方式

自分で物件を所有し、管理・運営は管理会社に委託する。管理・運営の手間はかからないが、管理会社への委託費用がかかるため、他の方式よりもコストがかかる。

(3)受託方式

物件所有者から、物件の管理・運営を受託する。物件を所有しないのでリスクは低いが、管理・運営には実績やノウハウが必要となるため、未経験から始めるのは難しい。

(4)サブリース方式

シェアハウスとして使用する物件を運営管理会社に賃貸する。入居者との契約関連や、シェアハウスの運営管理はすべて運営会社が行う。

シェアハウスでおしゃべりする住人

開業ステップ

(1)開業のステップ

開業のステップ

※管理会社によって求める仕様が異なるため、物件をリフォームする場合には、早期から相談するのが望ましい。

(2)必要な手続き

特に必要な手続きは無いが、シェアハウスとなる物件については建築基準法から逸脱してはならない。

2019年6月に施行となった改正建築基準法により、既存の建物をシェアハウスに転用する場合の規制が緩和された。

延べ面積200m²未満かつ3階建て以下の戸建て住宅であれば、耐火建築物にする必要はなく、200m²未満であれば用途変更の建築確認申請は不要である。

ただし、自治体によっては規定や条例により異なる部分もあるので確認が必要である。また、消防法などの関係規定については従前のままであるため、防火や避難などに関して設備や器具の設置、届け出等が必要になる場合もある。

宣伝と集客

宣伝活動や集客方法は、ホームページやSNSの活用、ポータルサイトへの掲載など、インターネットを通じたPRが主流となっている。ポータルサイトへの掲載には床面積の大きさなど基準があるので、注意が必要となる。

必要なスキル

開業に免許や資格等は不要だが、経営を成功させるには、マーケティング、不動産、経営上の基礎知識などがあるほうが望ましい。自身で管理・運営も行う場合は、入居者が相談しやすい環境を創出するなど、コミュニケーション能力も必要となる。

開業資金と損益モデル

ここでは初期費用の負担を軽減する観点から、自己所有の中古物件をシェアハウス用にリノベーションし、管理・運営を自分で行う場合について記載する。

(1)開業資金

【木造2階建て一戸建て住宅(約40坪)を5部屋のシェアハウス(家賃月7万円・共益費込み)として改修する場合の必要資金】

必要資金例の表

(2)損益モデル

a.売上計画

売上計画表

b.損益イメージ

上記a売上計画に記載の売上高に対する売上総利益および営業利益の割合を元に、損益のイメージ例を示す。

損益イメージ表

※国土交通省住宅局発行の「シェアハウスガイドブック」に掲載されているビジネスモデルを参考に東京商工リサーチが作成。

c.収益化の視点

1軒を1人に貸す場合よりも高い賃貸料収入が見込める上、空室リスクが低いという利点はあるものの、1軒のみでは本業として成立させるのは難しく、収益向上には複数の物件を経営する必要がある。事業拡大に当たっては、工事や設備面での投資や管理会社への業務委託など、さらなる費用が必要となり、金融機関からの融資も含め綿密に計画することが求められる。

1軒ごとの収益を上げる手段としては、空室期間をできるだけなくすことのほか、将来的には家賃の値上げも考慮に入れる必要があると思われる。後者についてはターゲットとなる顧客層の動向を見極めつつ、慎重に判断することが重要である。

※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。 (本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討する際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

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