業種別開業ガイド

オーガニック農業

2023年 1月 27日

トレンド

農薬や化学肥料に頼らない有機農業。近年のエコロジーに対するイメージの変化、食の安全・安心へのこだわりなどによって、オーガニック農産物を選択して購入する層が増加している。平成27年に国連サミットで採択された持続可能な開発目標(SDGs)に注目が集まり、近年、農林水産省も有機農業を推進。農薬も化学肥料も使用する「慣行農業」の後継者がなかなか見つからず、耕作放棄地は広がるなか、20〜50代を中心にオーガニック農業を始める人が増加している。これは、現在と未来の地域と食にとっての重要なターニングポイントであり、大きな希望であるといえるだろう。

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近年のオーガニック農業事情

農水省では、令和3年に「みどりの食料システム戦略」を策定し、30年後までに以下の姿を実現することを目指している。

  • 農林水産業のCO2ゼロエミッション化の実現
  • ネオニコチノイド系を含む従来の殺虫剤に代わる新規農薬等の開発により化学農薬の使用量を50%低減
  • 輸入原料や化石燃料を原料とした化学肥料の使用量を30%低減
  • 耕地面積に占める有機農業の取組面積の割合を25%(100万ヘクタール)に拡大

背景としては、以下のような項目が挙げられている。

  • 生産者の減少・高齢化、地域コミュニティの衰退
  • 温暖化、大規模自然災害
  • コロナを契機としたサプライチェーン混乱、内食拡大
  • SDGsや環境への対応強化
  • 国際ルールメーキングへの参画

実際、農業大学を卒業し、国内外を巡って酪農や畜産も含めて学んだ後、畑での不耕起栽培による新規就農に挑む20代女性が存在する。早期退職の制度を用いて大企業を退職し、有機農業の生産グループで研修を受け、出荷を開始した50代男性もいるのだ。ほかにも、さまざまな事例が全国に広がっている。

有機であることを示すためには、JAS法に基づくJAS規格に示されたルールを守って生産していることを農林水産大臣の登録を受けた機関から認証されなければならない。これが有機JAS制度で、認証されればJASマークを使用することができる。

有機JASにおいて、化学的に合成された農薬・肥料の不使用、遺伝子組み換え技術の不使用、環境に優しい農法の使用については証明可能。ただし、認証されても使用できる農薬も存在する。

ちなみに、各地域で慣行的に行われている節減対象農薬や化学肥料の使用状況と比較し、節減対象農薬の使用回数が50%以下、化学肥料の窒素成分量が50%以下で栽培された農産物には、特別栽培農産物としての表示が許可されている。

完全に環境と調和した自然農を実践すると、通常は栽培できる作物・収穫量・生長のサイズが限られてくる。農を業として手がけるが、オーガニックにこだわりたいのであれば、ターゲット層とその規模、作業内容、販売法などを熟慮し、栽培法も選択したい。

栽培法を深く理解したうえで農産物を購入してくれる層が広ければ、有機JASの認証を受ける必要はない場合も多いため、ターゲットに応じて認証を受けるかどうかを判断するとよい。また、若手が集まるオーガニックのグループに所属したり、規模に応じて都市生活者やレストラン、大手流通グループ、ネットユーザー、オーガニックマルシェの来場者などをターゲットと想定したりすることも一考の余地があるだろう。

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オーガニック農業の人気理由と課題

人気理由

1. 時代に調和し、社会・地域貢献にもなる。

  • 地域の環境を改善できる
  • 食と地域の担い手となることができる

2. 学歴や経験よりも、関心ややる気が問われる。

  • 農大卒でなくても携わることができる
  • 各地域で研修先となる農業法人や農家が存在する

3. 資金が少なくても開始できる

  • 大規模な機械がなくても始めることはできる
  • 資金がないほど、手作業のこだわりは反映しやすい

課題

  1. 大規模に手がける場合には資金が必要
  2. 販売先を見つけにくい

新規就農の9ステップ

新規就農の9ステップ

農家資格と有機JAS認証の取得

農地法第3条を背景に、農地の売買や貸借には農業委員会の許可が必要とされている。許可を得るためには、農家資格を取得しなければならない。その取得には、原則年間150日以上農作業に従事し、各エリアで定められた面積以上を耕作することなどを営農計画書で示すことも求められる。その前に、きちんとしたものを売買するためにも、農業大学で学ぶか、研修機関・JA・農業法人・農家で研修を受ける。これらは農地と農業を守るためのルールなのだ。

また、有機JAS認証を取得するためには、農薬・肥料などの資材、生産を行う圃場(農地)、種苗について、有機JAS規格に適合していることを証明しなければならない。栽培を開始する2年前から圃場に禁止された農薬・化学肥料を使用しておらず、遺伝子組み換えの種苗を使っていないことなどを証明するため、日頃より栽培記録や資材の購入履歴を管理しておく必要がある。

そのために、以下のようなステップを踏む。

有機JAS認証取得のステップ

新規就農時の費用

農家資格を取得後、正式に農地を確保する場合、面積、地域、貸借か売買かによって農地にかかる費用は異なる。また、機械や施設等の費用に関しても、規模、農法等によってさまざま。種苗・肥料・燃料等についても、栽培品目、農法、規模等によって費用は大きく変わる。農法や品目と予算とを比較し、よく検討したい。

また、有機JASの認証費用も、認証機関が費用算出条件に従って算出した参考価格自体に、それぞれ幅がある。

初期費用の例
  • 農地は貸借の場合は0〜2.2万円/10a程度、売買の場合には50万円未満〜500万円以上と、地域等によってさまざまのため、売買の総額の平均を示した
  • 機械施設等・種苗肥料燃料等に関しても、新規参入者の就農1年目の平均値を示した

(「平成28年度新規就農等相談活動事業 新規就農者の就農実態に関する調査結果」「平成30年度新規就農等相談活動事業 新規参入者の経営資源の確保に関する調査結果」いずれも一般社団法人全国農業会議所全国新規就農相談センター、「有機JAS認証機関紹介情報」農林水産省生産局農業環境対策課 より)

所得イメージ

以下は、一般社団法人全国農業会議所全国新規就農相談センターの「平成30年度新規就農等相談活動事業 新規参入者の経営資源の確保に関する調査結果」をもとに、有機に関わらず農業全体の所得のイメージとしてまとめている。

所得イメージ
  • 売上高は農産加工を含む
  • 農業所得および農外所得は、農業次世代人材投資資金(旧青年就農給付金)は含まない(後述)

ただし、一般社団法人全国農業会議所全国新規就農相談センターの「平成28年度新規就農等相談活動事業 新規就農者の就農実態に関する調査結果」を見ても、5年目以上になってすら、農業所得で生計が成り立っている割合は48.1%にとどまる。

開業資金の調達

自己資金だけではどうしても足りないという場合にはどうするか。まず、国や自治体などの助成制度・補助金に関し、調べておくとよい。さらに、JAや日本政策金融公庫から資金を調達するのも1つの方法だ。たとえば以下のような制度がある。

1. 自治体の就農研修支援事業補助金・就農準備資金

自治体によっては、就農するための研修段階や営農初期段階を支援する補助金や資金が用意されていることがある。ただし、対象者や対象経費、補助額には制限がある。

2. 自治体の新規就農者支援事業補助金・経営開始資金

自治体によっては、農業経営の安定を支援する補助金や資金が用意されていることがある。ただし、対象者や対象経費、補助額には制限がある。また、不正の発覚や対象事業を中止した際などには、補助金の返還を求められるので注意が必要だ。

3. 就農準備資金・経営開始資金(農業次世代人材投資資金)

農水省では、次世代を担う農業者となることを志向する人に対し、就農前の研修を2年間まで後押しする資金や、就農直後の経営確立を3年間まで、それぞれ年150万円支援する資金を交付している。また、経営発展支援事業では、上限1000万円まで支援され、国が2分の1、都道府県が4分の1を負担する。ただし、審査は厳しいともいわれている。

4. JAの農業融資

青年等就農計画を市町村が認定した場合、認定新規就農者として青年等就農資金が無利子で借入できるほか、技術・経営指導等が受けられる。農業近代化資金、アグリマイティー資金、JA農機ハウスローンなどが利用できる。

5. 日本政策金融公庫の新規就農・農業参入支援

青年等就農計画を市町村が認定した場合、認定新規就農者として青年等就農資金が無利子で借入できるほか、新たに農業経営を開始しする人、農業に参入する人を、各種融資制度や情報提供によって支援している。

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※開業資金、所得イメージの数値は、開業状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)