業種別開業ガイド

映像・動画制作

2020年 12月 18日

トレンド

(1)コスト低下により容易になった動画制作

デジタルカメラが広く普及した2000年初頭と同様に、動画制作のハードルは、近年ますます低くなっている。現在のビデオカメラは、高性能かつリーズナブルな価格となり、無料のビデオ制作ソフトウェアやアプリも登場、低コストでの参入が可能となっている。このようなハード及びソフトの登場により、動画作成はあらゆる面でビジネスチャンスが拡大している。

GEM Partnersが行った消費者調査によると、「定額制動画配信(SVOD)」「レンタル型動画配信(TVOD)」「動画配信販売(EST)」を合わせた2019年の動画配信市場全体の規模は、前年比22.4%増の2,692億円と推計されている。これは、日本映画製作者連盟が発表した同年の劇場年間興行収入2,611億円と同程度である。

(2)スマートフォンの普及に伴うWeb動画の需要拡大

映像業界は、これまで映画やテレビ、CM作成など限られた分野に集中していたが、スマートフォンの普及に伴いWeb動画の需要拡大が拡大している。

現在では、Web動画を制作する「ビデオグラファー」も一つの職種として認識されるようになっている。

(3)ソーシャルメディアの台頭

YouTubeはもちろんのこと、FacebookやInstagramなどのソーシャルメディアなどは、アプリ内での撮影、編集、ホスティングまで提供することで、スマホを使った動画制作がさらに一般的になっている。大規模なスタジオなどを必要としない映像・動画コンテンツの制作が可能となっている。

(4)更なる映像技術、情報伝達の高速化の向上

映像分野は日進月歩で進化しており、インターネット配信の他、新たな技術としてVR、4K・8Kの台頭があげられる。また、2020年3月から商用サービスがスタートした5G(第5世代移動通信システム)は「高速大容量」「高信頼・低遅延通信」「多数同時接続」を可能としている。映像・動画制作で起業する際には、これらの進歩にも対応していく必要があろう。

ビジネスの特徴

自主的に映像・動画を制作する業態やクライアントからの要望に応じた映像・動画を制作・編集する業態に大きく分けられる。いずれの業態でもコンテンツの企画力が問われることとなる。また、動画の編集のみを請け負う業態もある。編集のみを請け負う場合は、最低限の動画編集能力があれば起業することができる。

開業タイプ

(1)企画型

広告代理店やテレビ局などのクライアントから依頼を受け、CMや番組などの映像ソフトを制作する。したがって、映像制作の企画から携わることになるため、クリエイター的な要素が強く高い能力が求められることになる。

また、フリーランスとして活動する場合、この動画制作工程には企画、シナリオ、撮影、編集、監督といった一連の工程のほか、営業活動なども含まれることとなる。

(2)技術型

この業態は、CMや番組などの収録業務が中心となる業態と収録後の編集が中心となる業態に分けられる。

実さらに収録業務が中心の業態の場合、スタジオ収録のみの業態や外での収録のみ業態、または両方を手掛ける業態がある。これらの業態のいずれを選択するかは、自身の経験やスキルのほか、機材などにかかる費用も考えたうえで業態を選ぶのが望ましい。

(3)編集特化型

クライアントがすでに撮影した動画の編集などを請負う形での活動が主体となる。近年はテレビ局や広告代理店だけではなく、ソーシャルメディアの台頭もあってYouTuberなどの個人からの依頼も見込まれる。

特に個人がクライアントとなる場合、動画編集に長けていない人も多いため、動画編集に特化した業態での開業も有効であろう。

ただし、差別化を図る意味では、クライアントの意向を汲み取り、よりよい動画を制作するための提案力も求められるため、企画型と同様に、高い企画力や提案力があることが望ましい。

開業ステップ

(1)開業のステップ

開業に向けてのステップは、主として以下のとおり。

開業のステップ

(2)必要な手続き

特に必要としないが、撮影スタジオを所有する場合、防火対策が必要となるケースがある。この場合、地元の市町村、あるいは消防署などへの届け出の必要がある。

映像・動画制作に必要な企画力

現在は、動画編集技術の自動化も進んでおり、技術的なハードルは低くなっているため、仮に動画編集のみを請負う業態では、独立後事業を継続していくことが難しくなる。

差別化を図るためにも、動画コンテンツの企画力が求められることになる。

必要なスキル

現在は無料の動画編集ソフトでもある程度の動画編集が可能で、動画編集の自動化も進んでおり、それほど高いスキルは要求されるわけではない。ただし、動画編集を完全に自動化できるわけではない。そのため、高度な編集能力を身に付け、自身のスキルに付加価値を付けることが重要となってくる。

また、1日に編集する動画の本数を増やすためにも、動画の編集スピードを上げることが重要となってくる。

開業資金と損益モデル

ここでは、初期投資負担を減らすという観点から、動画編集を主力業務として、自宅で開業するケースを想定して、事業モデルを示す。

(1)開業資金

動画編集を主力業務として自宅で開業する場合の開業資金例

※什器・備品は、撮影機材、照明機材、動画編集ソフト等。

(2)損益イメージ

a.売上計画

YouTuberなどの個人の動画編集の相場が5,000円程度であることから、下記のように売上計画を立てた。

売上計画の表

※標準財務比率は映像プロダクションに分類される企業の財務データの平均値を掲載。 出典は、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」。

b.損益イメージ

 損益のイメージ例の表

※人件費は売上原価に含む。
※標準財務比率は映画・ビデオ制作業に分類される企業の財務データの平均値を掲載。
出典は、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」。

c.収益化の視点

動画編集に特化して個人で開業する場合には、先行して発生する資金需要もないため、大きなリスクを負うことなく開業することが可能である。動画編集は慣れてくれば1本あたり2~3時間で仕上げることができる。このため、売上の短期回収も可能であり、この点でもリスクは低いといえ、事業が軌道に乗るまでは高回転型のビジネスで売上を確保するのが無難であろう。

収益性を高めるためには、企業からの動画編集依頼を受けるなど高単価の案件を増やしていく必要がある。ただし、企業からの支払いは通常後払いとなるため、多少なりとも先行資金負担が生じることに注意する必要がある。

自身が開業する分野では、いつ、どの程度の規模の売上が立つと予測されるのか、しっかりと把握しておくべきだろう。場合によっては、映像制作と土木の保守点検を兼業するなど、複数の事業を同時展開できる可能性もある。

また、ドローンの活用方法は、用意するドローン機体の選び方にも関わる。これは収益化の視点からみれば、開業資金に関連する事項である。ドローン機体は、10万円ほどの小型空撮用から、100~300万円ほどの産業用まで種類が幅広い。業態に合わせた売上・利益率等の予測を立てることにより、現実的な開業資金の回収期間を設定するべきだ。

※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)