業種別開業ガイド

再生資源回収業

トレンド

(1)環境産業の市場規模は拡大傾向

環境省「環境産業の市場規模・雇用規模等に関する報告書(2016年版)」によると、環境産業の市場規模は2016年に約104.2兆円(前年比約3.6%増)となり、過去最大となった。中でも「廃棄物処理・リサイクル設備」や「廃棄物処理・資源有効利用分野」といった業種の伸びが指摘されている。

(2)レアメタル・レアアース等の回収

自動車、パソコン、携帯電話などに使われているレアメタル、レアアースとよばれる希少金属・希少資源について、再生利用へと導くリサイクルの役割が重要度を増している。再利用されたレアメタル等はステンレスや特殊鋼などの構造材や発光ダイオード・半導体等に利用されるため、その需要は非常に高い。

(3)限定的な許可の可能性

近年、「遺品整理士」の資格を持ち、地域において一定の実績がある事業者に対し、遺品整理業務等に限定して一般廃棄物収集運搬業の許可を行う自治体の事例が増えている。帯広市での事例を皮切りに、各地で同様の取組が広がっている。2019年には福岡市において、「自ら請け負った遺品整理又は引越時に発生する家庭系ごみ」に限って許可を行う旨の募集が行われた。

大量の古紙

ビジネスの特徴

環境問題への意識が高まるにつれ、リサイクルという言葉が消費者一般に浸透したため、不用品の回収に関するニーズは高いものと思われる。
一方で、事業者としての許可を取得するためのハードルは高く、特に一般家庭から回収するために必要な「一般廃棄物収集運搬業」許可については、自治体によっては新規登録を受け付けていないことも多い。
また、廃棄物に関しては、「廃棄物処理法」、「家電リサイクル法」、「小型家電リサイクル法」など関連法案が多く、それぞれしっかりとした理解が必要となる。理解が曖昧なまま事業を行った結果、違反事業者となり、営業停止処分が下されることもある。不安な点や不明な点はそのままにせず、地域の企業支援センターを利用するなどして、積極的に相談することが望ましい。

集積された空容器

開業タイプ

(1)回収専門型

回収を行い、買取業者(資源再生業者)への販売を行うことで売上を確保するモデル。顧客とのトラブル発生を回避するため、チラシや口頭等で料金体系や引取りルールといった事前の説明責任をしっかりと果たすことが肝心である。

(2)リサイクルショップ型

自ら店舗を持ち、回収と一般顧客への販売を同時に行うスタイルを指す。回収した家電などをリユース品としてそのまま販売できるメリットがある。一方で、在庫を保管するための倉庫が必要になるなど、設備の準備が欠かせない。

ペットボトルのキャップ

開業ステップ

(1)開業までのステップ

開業に向けてのステップは、主として以下のとおり。

事業計画の作成・資金調達→許可申請→資材準備(軽トラック等)→流通ルート確保→開業

(2)必要な手続き

【一般廃棄物収集運搬業】

一般家庭から不要物・廃棄物を回収して事業を行う場合、事業を行う市区町村に対して一般廃棄物収集運搬業の許可が必要となる。許可申請が下りるかどうかは行政の裁量により、そもそも新規登録を受け付けていない場合も多い。
一方で、自治体によっては事業を限定して許可を行う事例も出てきており、地域の動向を注視することが肝要である。

【産業廃棄物収集運搬業】

法人から不要物・廃棄物を回収する事業を行う場合、産業廃棄物収集運搬業の許可が必要となる。こちらについては知事許可となっており、各都道府県庁の指定窓口にて申請を行う必要がある。
公益財団法人日本産業廃棄物処理振興センターが実施する講習会を修了していることが申請条件となっており、修了証の写しを提出する必要がある。このほかに、事業計画書の提出と、運搬施設が整っているかの証明、経済的基礎は十分かといった事項に関して審査が行われる。

【積替保管】

運搬車に産業廃棄物を積み込んだ場合、その日のうちに処理業者に引き渡さなければならないが、一定量になるまで保管し、より大きな運搬車で一度に運ぶなどの対応を行うことで、運搬が効率化される。この積替保管を行うためには、産業廃棄物収集運搬業の申請を行う際に事前計画書の提出と、現地審査が必要となる。
また、積替を行う市町村に対しても許可が必要な場合があるため、事前に確認することが望ましい。

【古物商】

回収した家電などをリユース品として販売する場合、「古物商」の許可が必要になる。申請は、地域を管轄する警察署の生活安全課・防犯係にて行う。

【金属くず商】

鉄やアルミなどの金属が含まれている、自動車やエアコン配管、アルミサッシなどを販売する場合、「金属くず商」の許可が必要になる。ただし、地域によっては金属くず商の届出が不要なこともある。
営業所のある地域を管轄する警察署(生活安全課)が申請窓口となる。納付金額については地域によって異なるため、個別に確認を行うことが望ましい。

再委託の禁止

一般廃棄物の収集・運搬・処分について、再委託は一切禁止されている。廃棄物処理法第7条第14項において、「一般廃棄物収集運搬業者又は一般廃棄物処分業者は、一般廃棄物の収集若しくは運搬又は処分を他人に委託してはならない。」と記載されており、例外・除外規定はない。
一方で、産業廃棄物については廃棄物処理法第14条第14項において、再委託は原則として禁止されているが、「ただし、事業者から委託を受けた産業廃棄物の収集若しくは運搬又は処分を政令で定める基準に従って委託する場合その他環境省令で定める場合は、この限りでない」と記載されており、例外として再委託が認められる場合がある。

必要なスキル

不用品回収のために軽トラック等の活用が必須であるため、AT限定でない自動車運転免許が必要となる。
さらには、個人もしくは法人から安定した仕入(回収)を行い、回収した不用品を資源再生業者に販売するための流通ルートの確保が必要となる。定期的に不用品を排出する顧客を複数確保し、違法性のない適正な資源再生業者と契約を行うことが開業における第一歩となる。
また、各種法の知識や、それを遵守する行動規範も必要となってくる。

開業資金と損益モデル

(1)開業資金

従業者数が10人未満の小規模な事業所が多いことに鑑み、小規模での開業を前提としたモデル例を記載する。

【車両2台程度の規模の開業資金例】

車両2台程度の規模の開業資金例

(2)損益モデル

a.売上計画
年間営業日数、1日平均来客数、平均客単価を以下の通りとして、売上高を算出した。

売上計画

b.損益イメージ(参考イメージ)
標準財務比率(※)を元に、法人形態の場合の損益のイメージ例を示す。

損益イメージ例

※標準財務比率はその他の再生資源卸売業に分類される企業の財務データの平均値を掲載。
出典は、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」。

c.収益化の視点
東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」をみると、受取債権回転率・日数が年6.4回・57日、棚卸資産回転率・日数が14.0回・25日で、支払先行で多少の収支ズレが生じている。ただし、資金需要の大半は人件費や支払家賃などの経費に関わる運転資金であり、設備面の資金負担はさほどなく、特に懸念するほどのものではない。
したがって、資源回収に関わる車両などへの投資負担をなるべく抑えたうえで、売上を増やす工夫をするなど、投資効率を重視した経営をすることが望ましい。

※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討する際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

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