2026年 8月 17日
トレンド
脱毛サロンは、光脱毛機などを用いて、利用者のムダ毛ケアを支援する美容サービスである。医療機関で行う医療脱毛とは異なり、エステティックサロンの範囲で、医療行為に当たらない方法で施術を提供する必要がある。
かつては、美容意識が高い女性を中心とした「特別なケア」だった脱毛だが、近年は若年層や男性にも需要が拡大している。2024年6月に公表された民間調査によると、国内の脱毛市場の規模は1,423億円に達し、特に男性の市場規模は635億円(前年比8.8%増)と右肩上がりを続けている。
グラフを見て気付くのは、市場規模と女性利用者数は2021〜2022年にピークを迎え、その後2023年に大きく落ち込んでいることだ。理由は、全国に店舗を展開していた中~大規模の事業者が相次いで経営破綻したことが大きい。帝国データバンクの調査によれば、2024年度の脱毛業界の倒産件数は、前年度比2.5倍の18件に達し、過去最多となった。また、2025年1〜7月を見ても、前年比3倍超のペースで12件の倒産が発生している。
こうした倒産の背景には、3つの構造的問題があるとされている。第一に、大量の広告費を前受金で賄うビジネスモデル(※1)の限界。第二に、賃料高騰と円安による輸入機器コストの上昇という固定費負担の増大。第三に、医療脱毛クリニックの急増を背景にした価格競争の激化と、消費者の防衛意識(※2)の向上により、新規顧客の獲得が困難になったと見られている。
※1:顧客から先に受け取ったお金(前受金)を使って、大規模な広告宣伝を行い、新規顧客を獲得するビジネスモデル
※2:消費者が契約内容や解約条件、料金体系、運営会社の信頼性を慎重に確認する意識
現在、脱毛市場には医療脱毛クリニック、サロン脱毛(有人エステ型)、セルフ脱毛サロン(無人型)の3つの業態がある。脱毛市場全体では利用者が増加傾向にある一方、サロン脱毛は横ばい傾向となっている。医療脱毛やセルフ脱毛サロンとの競合が強まるなか、有人型サロンでは接客、カウンセリング、肌ケアなどによる差別化が重要になる。
近年の脱毛サロン事情
脱毛への心理的ハードルが急速に低下し、市場が拡大している背景にはニーズの多角化がある。社会人としての身だしなみ、就活前の準備、ウェディング前の処理など、ライフイベントに連動した脱毛の機会が増加し、若年層を中心にニーズが拡大していると考えられる。中でも見逃せないのは、男性利用者数の増加だろう。男性の利用目的の内訳を見ると、従来から希望者が多いひげ脱毛に加え、近年はVライン脱毛が増加傾向にある。
これらの脱毛サービスを提供する3つの事業形態は以下のとおり。
医療脱毛クリニック
医療脱毛は、医師または医師の指示を受けた看護師が、医療機器を用いて行う脱毛である。毛根部などを破壊する行為は医療行為に該当し得るため、エステサロンでは行えない。近年は料金の低下もあり、利用者が増加している。
なお、一般に「永久脱毛」と呼ばれる場合でも、完全に毛が生えなくなることを保証するものではない。広告表現では、効果を断定したり、過度な期待を与えたりしないよう注意が必要である。
サロン脱毛(有人エステ型)
エステティシャンが光照射を行う従来型の形態。使用する機器は、毛のメラニン色素に反応するIPL方式と、蓄熱式で毛包幹細胞に働きかけるSHR方式に大別される。痛みが少ないSHR方式は近年急速に普及し、薄い産毛にも対応できるため支持を集めている。カウンセリングから施術、アフターケアまで一貫して担うため、接客力が他形態との差別化ポイントになる。
セルフ脱毛サロン(無人型)
業務用脱毛機を顧客自身が操作する完全無人の事業形態。スタッフを配置しないため人件費を抑えやすく、一般的な有人サロンより低価格で提供しやすい。フランチャイズ展開が進み、24時間営業を実現する店舗も増加。若年層やコスト重視の利用者に支持されている。
医療脱毛は医療行為に該当し得るため、医療機関としての体制や医師の関与が必要になる。一般の開業者がエステサロンとして参入する場合は、医療行為に当たらない範囲でサービスを設計する必要があり、事業形態はサロン脱毛(有人エステ型)とセルフ脱毛サロン(無人型)に絞られる。
セルフ脱毛サロン(無人型)は、機器と場所があれば運営できる一方で、価格以外での差別化の手段が限られるため、全国展開するフランチャイズとの競合も想定する必要がある。
一方でサロン脱毛(有人エステ型)は、カウンセリング力や施術の精度、肌ケアとの組み合わせなど、専門家としての付加価値を訴求しやすく、個人でも差別化を図れる余地がある。
こうした現状を踏まえ、本記事の次項からは、サロン脱毛(有人エステ型)を中心に解説を進める。
脱毛サロンの仕事
脱毛サロンは小規模で開業できる一方、仕事内容は多岐にわたる。複数名での運営の場合は互いの能力を補い合えるが、1人で経営する場合は、技術と経営の両面を担うことになる。
接客業務
予約の受付と確認、カウンセリング、会計、問い合わせ対応などの接客業務を行う。カウンセリングでは肌の状態、既往症、アレルギー、ホルモン剤の服用有無をヒアリングし、施術の可否を判断する。
施術
カウンセリングシートの確認、肌の状態の確認、機器の出力設定、シェービング、光照射、冷却および保湿ケアなどを行う。
トラブル対応
施術中のトラブルに備え、冷却処置と医療機関への誘導判断の手順を事前に準備する。特に日焼け直後の肌、アトピー性皮膚炎、ケロイド体質など、施術を控えるべき状態を正確に判断することが、顧客の安全を守るために重要である。
機器管理
業務用脱毛機の使用前点検、定期メンテナンス、ジェルやシート類などの消耗品の在庫管理を行う。機器の不具合は施術事故に直結するため、メーカー推奨の点検スケジュールを厳守する。
運営管理
施術記録の入力と保管、売上および顧客管理、損害賠償保険の更新、各種書類の作成などを行う。特定商取引法が適用されるコース契約を扱う場合は、契約書面の管理とクーリング・オフ対応の記録も必要になる。顧客データは肌トラブル発生時の証拠にもなるため、施術ごとに記録を残すことが、トラブル発生時のリスク管理につながる。
広告宣伝
SNS発信、ホームページ更新、予約プラットフォームの管理などを行う。開業直後は新規顧客の獲得が最優先課題となるため、SNSでの発信を開業前からスタートさせる。美容系予約プラットフォームへの掲載は集客力が高い半面、掲載料と送客手数料が固定費としてのしかかるため、次第に依存度を下げていく出口戦略を立てておくとよい。
脱毛サロンの人気理由と課題
人気理由
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参入障壁の低さ:一般に国家資格を必要としないため、小規模で始めやすい。民間スクールの短期集中コース(1〜3か月程度)で施術技術の基礎を習得でき、自宅やマンションの一室で1ベッドからスタートできる。
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リピート性の高さ:毛が生える周期に合わせて複数回の施術が必要になるため、一定期間内に同じ顧客が通い続けるケースが多い。全身脱毛の場合は最低でも6〜12回、部位によっては18回以上が目安。
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市場の再編による機会拡大:大手サロンの相次ぐ倒産を受け、小規模なサロンにも目を向けられる傾向が高まっている。
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低在庫・低廃棄のビジネス構造:主なランニングコストはジェルやシート類などの消耗品に限られる。在庫リスクが少なく、売上に対するコスト構造がシンプル。
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男性市場の拡大:男性向けメニューを整えることで、新たな顧客層を取り込める可能性がある。
課題
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医療脱毛との競合:医師による施術の安心感と、半恒久的な効果を持つ医療脱毛クリニックは、近年は料金も低下傾向にあり、手強い競合になっている。
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法規制とコンプライアンス:1か月を超え、契約金額が5万円を超えるコースを販売する場合は、特定商取引法の「特定継続的役務提供」に該当する場合がある。この場合、概要書面・契約書面の交付、8日間のクーリング・オフ対応、中途解約時の精算方法、関連商品の扱いなどへの対応が求められる。また、「永久脱毛」「完全脱毛」「保証」などの表現は、景品表示法上の不当表示に該当する可能性があるため、広告表現にも注意が必要である。
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施術リスクと損害賠償:出力設定のミスや肌状態の見誤りによって、火傷、色素沈着、毛嚢炎(もうのうえん)などのトラブルが生じる可能性がある。同意書の取得、施術記録の整備、損害賠償責任保険への加入が望ましい。
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技術革新とブームの変化の速さ:脱毛機器、消費者ニーズともに進化や変化が速い。
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集客コストの高止まり:美容系の予約プラットフォームは、掲載料と送客手数料などが高額になりやすい。SNSでの反響営業や口コミの拡充は効果が出るまでに時間を要する。
開業のステップ
STEP 1:コンセプトとターゲットの設定
「誰に、何を、どう届けるか」を最初に言語化する。女性専用か男女共用か、全身脱毛中心か部位特化か、都度払いか月額制か。競合の多い市場では、コンセプトの明確さが集客の差をつける。サロン名、内装の方向性、価格帯もこの段階で仮決定する。
STEP 2:市場調査と物件選定
開業予定エリアの競合サロン数、賃料相場、ターゲット層の分布状況を調べる。物件は、テナント型か賃貸マンション型かによって初期費用や集客の方針が変わる。テナント型は立地や看板による認知を得やすく、賃貸マンション型はWeb集客や口コミ、完全予約制・個室型の訴求が中心になりやすい。駅からのアクセス、駐車場の有無、プライバシーが保てる間取りが、物件選定の主な基準となる。
STEP 3:業務用脱毛機の選定と購入またはリース
脱毛機器は売上と直結する最重要の設備になる。IPL方式かSHR方式か、または両対応にするかを決定する。購入価格の相場は100万〜500万円程度。初期費用を抑えたい場合は、リース(月額3万〜10万円程度)も選択肢となる。
STEP 4:内装工事と備品調達
施術ベッド、パーテーション、冷却用保冷材、タオル類、消毒液、ゴーグルなどをそろえる。テナントでの内装工事費用は、坪単価10万〜20万円程度が目安。賃貸マンションであれば大規模工事は不要で、インテリアと脱毛機器の設置が中心になる。
STEP 5:開業届の提出と事業準備
個人事業主の場合は、開業日から1か月以内に管轄の税務署に「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出する。法人設立の場合は法人登記を行う。屋号付き口座の開設は開業届の提出後に行う。
STEP 6:特定商取引法対応の準備
特定商取引法の「特定継続的役務提供」に該当するサービスを扱う場合に備え、契約書面、クーリング・オフ、中途解約時の対応フローを整備する。
STEP 7:損害賠償保険への加入
万一の肌トラブル時に適切な補償ができる体制を整えるために、エステティック業向けの賠償責任保険などに加入する。
STEP 8:集客ツールの整備
ホームページやSNSアカウントを開設し、情報の発信を行う。また、特別な集客方法がない場合は、予約プラットフォームへの掲載を検討する。
STEP 9:開業
カウンセリングなど、対人施術の強みを活かした施術と接客を行う。プラットフォームへの依存から脱却し、自前の集客基盤を育てる。
脱毛サロンの開業および運営の要件
サロン脱毛をエステサービスとして行う場合、一般に国家資格や保健所への届出は不要とされる。ただし、医療行為に当たらない施術範囲を守ることが前提であり、使用機器、施術方法、広告表現、契約内容については慎重な確認が必要である。物件の用途、衛生管理、自治体の指導事項についても、開業前に確認しておきたい。
また、長期コースや高額コースを販売する場合は、特定商取引法の「特定継続的役務提供」に該当する場合がある。この場合、概要書面・契約書面の交付、クーリング・オフ、中途解約時の精算方法、関連商品の扱いなどへの対応が求められる。開業前に契約書、同意書、施術記録、解約時の対応フローを整備しておくことが望ましい。
<法令・契約上、確認が必要な要件>
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施術方式の制限(医師法第17条)
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開業届もしくは法人登記
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特定商取引法への対応(コース販売時)
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景品表示法への対応
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未成年者への施術・契約における親権者同意の確認
<法的義務ではないが、実務上必須に近い対応>
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施術同意書の取得
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損害賠償責任保険への加入
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民間資格の取得
<必須ではないが、有用な資格や人員>
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日本エステティック協会(AJESTHE)認定資格
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日本エステティック業協会(AEA)認定資格
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皮膚科または美容皮膚科との連携医師
開業資金と運転資金の例
脱毛サロンの開業費用は、一般的に少額になりやすい。実際に賃貸のワンルームマンション、もしくは自宅にベッドをひとつだけ設置して事業をスタートするケースも多く見られる。物件にはテナントも考えられるが、内装工事費や家賃が2〜3倍程度になるため、ここでは賃貸マンションで1名開業するケースを例に示す。
<前提条件>
地方中規模都市の駅前
賃貸マンション(1LDK〜2LDK)
1ベッドで施術
1名のみで開業
初期費用が大きく変動する最大の要因は、業務用脱毛機のグレードの違いによるものだ。購入ではなくリース(月額3万〜10万円程度)を選択すると、初期費用を100万円台まで抑えることが可能だが、長期的なコストは割高になる。なお、業務用脱毛機の購入は中小企業省力化投資補助金の補助対象となる場合がある。また、脱毛サロンの開業時には、小規模事業者持続化補助金、デジタル化・AI導入補助金などを活用できる場合がある。補助対象設備や公募要件は随時変更されるため、最新の公募要領を確認すること。
開業のための資金調達には、日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金などが候補となる。融資条件は事業計画や信用状況によって異なるため、民間金融機関や自治体制度融資と比較しながら検討するとよい。
売上計画と損益イメージ
次に、前項と同一の条件で、売上計画と損益イメージを算出した(例)。
月間の収入から支出(上記運転資金例)を引いた損益は下記のようになる。
脱毛サロンの損益は、稼働率に大きく左右される。40%前後(1日2件)の稼働率の場合、月間売上は40万円程度にとどまり、家賃や借入返済を差し引くと赤字になる可能性が高い。一方で、稼働率が80%(1日6件)に達すると、月間売上は約120万円程度となり、経営は安定軌道に乗る。開業後3〜6か月は稼働率が低い期間が続くことが想定される。さらに、上記の損益には、税金、社会保険料、事業主の生活費、予約キャンセルや未稼働時間による影響は含めていない。実際の資金計画では、開業直後の低稼働期間や広告費の増加も見込み、余裕を持った運転資金を準備しておくことが望ましい。
脱毛サロンは、小規模から始めやすい一方で、医療脱毛やセルフ脱毛サロンとの競合、広告費の負担、施術トラブル、長期契約に伴う消費者対応など、開業前に確認すべき点が多い業種である。安定した運営のためには、料金体系や契約条件をわかりやすく示し、施術内容やリスクを丁寧に説明することが欠かせない。市場調査、物件選定、機器選定、法令対応、資金計画をひとつずつ確認し、必要に応じて専門家や所管窓口に相談しながら準備を進めることが重要である。
※開業資金、売上計画、損益イメージなどの数値は、開業状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)








