業種別開業ガイド

ワインバー

2024年 12月 4日

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トレンド

1980年頃から日本でも定着してきたワインは、この40年で国内消費量を約8倍へと押し上げた。この成長は、景気の減速や人口の減少を考えると驚くべきことである。この背景には、和食やイタリアンなどの調理は季節の食材をその時々で使い分けるため、ワインとの相性が良いことも挙げられる。日本のアルコール市場において、ワイン文化は成熟したものと考えられ、今後は国産ワインの生産拡大も期待されている。

ワイン消費数量推移(1980年から2021年)

(1)ナチュラル・オーガニックワインの人気拡大

日本のワインバーでは、ナチュラルワインやオーガニックワインの人気が急速に高まっている。これらのワインは化学肥料や添加物を排除し、環境保護に配慮された製法で作られており、特に若年層に支持されている。また、ナチュラルワインの一角であるオレンジワインも近年注目を集めており、その独特の風味と濃厚な香りは、アジアンを含む各国料理と楽しむことが可能だ。都市部では、ナチュラルワインを専門に扱う店が増え、生産者と顧客との交流の場を提供していることも評価されている。

(2)ノンアルコール・低アルコールワインの需要増加

「ソバーキュリアス(Sober Curious)」という、お酒の量をコントロールしようとするライフスタイルが海外で広がっている影響もあり、ノンアルコール・低アルコールワインのニーズが近年高まっている。そのため、アルコールを控えながらもワインの味わいや文化を楽しみたい人のニーズに応えるワインバーが増加している。ただし、ノンアルコールワインは、通常のワインと比べて味わいの違いを出すのが難しいため、品質を重視し、顧客に満足してもらうための工夫が必要とされている。

(3)ワインとネオカルチャーとの融合

ワインバーでは、ワインだけでなくアートや最新技術を取り入れた新しい体験を提供するスタイルが急速に広がっている。ワインのトレーサビリティー(流通経路が追跡可能であること)や希少価値を保証するバーが登場し、タブレットなどでその情報を確認できるスタイルが人気だ。 また、NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)を活用することで、ワインボトルの所有証明書やボトルラベルのデジタルアートといった特別な価値を提供するケースもあり、これによりワインのコレクション価値や投資的な側面が強調され、ほかのアルコール飲料にない大きな差別化の要因となっている。

(4)スタンプラリーやメンバーシップ制の常態化

リピーターを増やすため、スタンプラリーやメンバーシップ制を導入するワインバーがここ数年でさらに増えている。また、ワイン好きな顧客は、複数のワインバーを巡る傾向が強く、地域全体で利用できるスタンプラリーや複数店舗にまたがるパスの発行が人気となっている。都内のオフィス街の「ワインスタンプラリー」では、参加店舗を巡ると特典が得られ、さまざまな店舗でのワイン体験が楽しめる。さらに、メンバーシップ制度により、ワイン好きを集めたコミュニティを形成する動きも進んでおり、ワイン愛好家同士の交流が促進され、定期的に足を運ぶリピーター層の確保にもつながっている。

近年のワインバー事情

現在、ワインバーの経営においては、円安や輸送費の増加によるワインの輸入コストの増加が課題となっており、価格設定の見直しが必要となっている。低価格帯からプレミアムワインまで広範囲を提供する店舗が増えているが、国内産のワインや小規模生産者のワインも積極的に取り入れることで、コスト削減と差別化を進めている店舗もある。

また、多種多様なワインを楽しめるワインバーにとって在庫管理とオーダーの効率化は欠かせない課題であり、最近ではPOSシステムや専用の在庫管理ソフトの導入が進んでいる。無駄な仕入れを減らし、顧客の注文履歴をデジタル管理することで、個人の顧客に合わせたワイン提案が可能となり、顧客満足度の向上にもつながっている。

また、コロナ禍をきっかけにテイクアウトやデリバリーサービスの要望が増え、ワインバーにおいても柔軟に対応することで需要を取り込み、売上の下支えとする店舗が多い。特にマリネやパテなどのように、保存性が高く家庭でも楽しめるペアリングフードを提供することが多い。家飲み需要に応えるなど店舗内外で柔軟に対応し、さまざまな利用機会に応えられるように経営の多角化が図られている。

なお、都市部では「立ち飲みワインバー」の業態が急速に広がっている。立ち飲みスタイルは、小スペースでも売上を最大化できる可能性が高いことが大きな利点である。席を設けないことで、同じ面積の通常のワインバーに比べて、一坪あたりの収容人数を大幅に増やすことが可能となり、回転率を高めながら収益率を上げることができる。特に家賃の高い都市部や駅近の立地では、固定費が経営を圧迫するため、この施策は有効である。

さらに、フードメニューも軽食やおつまみが中心であるため、調理コストや提供時間が抑えられ、厨房スペースを小さくできるというメリットもあり、顧客の回転率をさらに高めることが期待できる。

このように、「立ち飲みワインバー」は、低コストでの開業と効率的な運営を両立しながら、ワイン愛好家が集うカジュアルな交流の場を創出し、現代の都市部における人気の業態となっている点に着目すべきだろう。

ワインバーのイメージ02

開業のステップ

開業のステップ

必要なスキル

ワインバーを経営するためには、ワインに関する専門知識を持つことが必須であり、ブドウ品種や生産地、テロワール(栽培されている場所の土壌や気候など)、年代、さらには保存方法まで深く理解することが求められる。ソムリエ資格の取得やワインエキスパートとしての経験を積むことで、顧客に的確なワインの提案や、料理とのペアリングをアドバイスできるようになると顧客の満足度をさらに高められるだろう。

次に、季節やトレンドに応じたワインリストやメニュー構成を提案できるスキルも重要である。国内外のワイン市場の動向を把握しながら、顧客に新しい体験を提供するためのラインナップをつくる能力が求められる。料理との相性を意識しつつ、訴求力のあるメニュー作りをすることが経営の差別化につながる。

さらに、ワインバーでは接客・コミュニケーション能力も欠かせない要素である。顧客の好みやニーズを聞き出し、最適なワインを提案するには、観察力や柔軟な対応力が必要だ。礼儀やマナーを守りつつフレンドリーな接客を行うことで、顧客がリピーターとして定着することにつながる。

そして、ワインの品質を保ちつつ最適な在庫量を維持する在庫・仕入れ管理スキルも不可欠である。ワインの保管には適切な温度と湿度管理が不可欠であり、回転率や鮮度を考慮して在庫を調整し、仕入れの無駄を抑えることが重要となる。また、流行に応じたワインを取り入れることで、コスト効率と高品質なサービスを両立させることができる。

ワインバーに役立つ資格と許可

ワインバー経営では、容器に注いだお酒のみを提供するのならば、飲食店営業許可を取得するだけでこと足りるが、テイクアウト用にボトルワインを未開封で販売するには、税務署から「酒類小売業免許」を取得する必要がある。経営管理が複雑になるが、客単価の高いテイクアウトのニーズを考えると、検討する価値は十分にある。

その他の必要な資格

  1. 食品衛生責任者:飲食店営業に必須の資格で、1日の講習を受けることで取得できる。
  2. 防火管理者:一定の収容人数以上の飲食店には防火管理者が必要。
  3. ソムリエ資格(任意):ワインの専門知識を身につけることで顧客に信頼され、適切なアドバイスが可能になる。

開業資金の一例

開業にかかる資金と月々の運転資金の目安は以下の通りである。近年では主流になりつつある半分以上立ち飲み席を備えたワインバーを例に試算した。地域や店舗の規模によって経費も異なるが、参考にしていただきたい。

【前提条件】都内 9坪 席数 カウンター6席 最大収容人数20名 家賃25万円

開業資金の一例

売上計画と収益イメージ

前項の店舗立地条件で収支予測を以下に掲載する。客単価が徐々に下がっているのは、多くの顧客に認知されることで、1杯だけ飲む人や2、3軒目に利用する人が増えることを考慮したためである。最初の2年はワンオペで十分機能すると考え試算している。また、専門知識を備えているスタッフが常駐することが望まれるために、給与は高めに検討すべきである。

売上計画と収益イメージ

助成金など

ワインバーで活用できる助成金として、「人材開発支援助成金」を検討するべき。店舗の作業効率化のためにデジタルツールを導入する場合、スタッフを教育する研修費や研修時間の人件費を補助してもらえる制度である。

雇用保険に入っていることが必要だが、ほとんどの事業所がこれに該当するため、支給条件などを確認し、利用すべきである。また国からの支援だけでなく、各市町村でも創業時に様々な補助金・助成金が用意されている可能性があるので、ぜひ詳細を確認しておきたい。

ワインバーのイメージ03

※開業資金、売上計画、損益イメージなどの数値は、開業状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

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