業種別開業ガイド
点字通訳者
2022年 4月 20日
トレンド
(1)視覚障がい者数は30万人強で推移
厚生労働省「生活のしづらさなどに関する調査」によると2016年の視覚障がい者数は31.2万人である。視覚障がい者数について、ここ20年程度は30万人強で推移しており、そのうち、点字の識字率は約1割といわれている。視覚障がい者の年齢構成をみると、60歳以上が8割弱を占めるなど高齢者の割合が圧倒的に高く、今後は高齢化の進行に伴って視覚障がい者数が増加することが予想されている。
(2)2019年6月に読書バリアフリー基本法が成立
障がいの有無に関わらず、全ての国民が等しく読書を通じて文字・活字文化の恵沢を享受することができる社会の実現に向け、2019年6月に「視覚障がい者等の読書環境の整備の推進に関する法律」(読書バリアフリー法)が成立した。同法の施行により、点字図書のほか、文字やフォントを変えて読みやすくした本、音声読み上げ等のデジタル本の充実など、視覚障がい者の読書環境の整備を図る施策が展開されている。点訳図書については、現在全国の点字図書館やサピエ図書館にて利用できるが、点訳を担うのはボランティアが主体で、点訳者の不足から点訳された書籍は限られているのが現状である。
ビジネスの特徴
目で読む人のための文字である「墨字」を縦3点・横2点の点(凸面)を組み合わせて、「点字」に翻訳するのが主な業務である。従来は針のような点筆と呼ばれる道具で、手作業で紙に点字を書いたり、点字タイプライターなどの専用の道具を使ったりするのが主流であったが、近年は自動点訳やデータ化ができるようになっており、点訳ソフトを用いて作業を行うことが多い。点訳されたものを、点字のルールに沿って通訳ができているか、分かりにくい部分がないかなど校正する作業も行う。なお、点字通訳者についてはボランティアが大半であり、点字通訳を専業としたビジネスを展開する人はごく少数とされる。
開業タイプ
(1)点訳ボランティアからの独立
点字のルールや技術に関する知識は、大学や専門学校のほか、専門の養成機関で学ぶことができる。また、点訳作業については経験も必要であるため、点字図書館等でボランティアとして経験を積んだ上で独立するケースが想定される。
(2)福祉施設等からの独立
点字通訳者は障害者施設や学校、自治体等で点字のわかる職員として働いていることが一般的であり、これらの機関に就職したのちに独立する道もある。点字通訳のスキルに加え、福祉施設等での障害者福祉全般に関する経験を活かすことができるため、ビジネスの業務範囲を広げることが可能である。
開業ステップ
(1)開業のステップ
開業に向けてのステップは、主として以下のとおり。特段の設備は必要としないため、自宅開業が可能である。
(2)必要な手続き
開業にあたって特段必要な手続きはない。
必要なスキル
・点字のルールや技術への知識
大前提として、点字のルールや技術への知識が求められる。資格は必須ではないが、点字の基本的な仕組みを理解するための「点字技能検定」がある。点字技能検定は社会福祉法人日本盲人社会福祉施設協議会、および社会福祉法人日本盲人会連合が主催しており、実際に点字資料作成に3年以上従事した人が取得可能な資格である。このほか、初心者向けの資格として「ビジネス点字検定」もある。
・文章力
本を点字にする際には、その内容をよく理解し、作者が何を読者に伝えたいのか、よく把握している必要がある。また、時には表現方法を少し変えて、より伝わりやすい文章とすることもあり、読解力や、語彙力・表現力などの文章力全般に関するスキルが求められる。
開業資金と損益モデル
(1)開業資金
自宅開業が可能であるうえ、現実的には事務所賃借料等の経費を賄うだけの収益を得ることが困難と考えられるため、以下は1名で自宅開業する場合の必要資金例を挙げている。
(2)損益モデル
a. 売上計画
請負単価2,000円/時間で、月120時間作業すると仮定し、売上高を試算した。
b. 損益イメージ(参考イメージ)
※標準財務比率は「通訳業」に分類される企業の財務データの平均値を掲載。
出典は、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」。
(3)収益化の視点
点字通訳者は現状ボランティアが大半を占めており、点字通訳を専業とする人はごく少数とされる。それだけビジネスとして成立させるだけの収益を得ることが困難と言わざるを得ない。また、近年は自動点訳やデータ化がすすみ、点訳ソフトを用いて作業を行うことが多くなっており、こうしたことも開業のハードルを高くする要因となるものと考えられる。
このため、点字通訳に関する技能を活かした開業には、オーダーメイドの点訳や、ビジネス用途の点訳、特殊な書籍の点訳など差別化を図ることが必須である。
また、継続的な受注を得るためには人的な繋がりを活かすほか、点訳ニーズとのマッチングが可能なプラットフォームを構築するなどの工夫も必要であろう。
※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)