業種別開業ガイド

コピーライター

2023年7月 21日

トレンド

コピーライターのイメージ01

コピーライターが花形職業・時代の寵児としてもてはやされた1980年代〜2000年頃と比較すると、現在では扱われる媒体や業務の幅が大きく広がり、また内容も変質している。

活躍の舞台は、TV・新聞・雑誌・ラジオ・サイネージ・交通広告・カタログ・ポスター・パンフレット・商品パッケージ・DMといった旧来からの媒体に加えて、WEBコンテンツ、SNS、メールなどのオンラインにまで拡大し、その業務はキャッチコピーを作ること以外に、商品のネーミング、商品開発やコンセプト策定、企画書づくりのほか、オンライン・マーケティングの手法に対応したコンテンツ制作までカバーすることが求められている。

多種多様な商品やサービスが日々誕生するなかで、その差別化を図り、イメージを浸透させるために最も効果的な広報手段が採用されるが、キャッチコピーを考えることは、商品やサービスのアピールポイントを絞り込む作業でもあり、マーケティングやブランディング戦略の全体像を理解し、最適解を提案することが求められる。

近年注目を集める「O2O(Online to Offline)マーケティング」という手法は、オンライン媒体で集めた見込み客をオフライン(=実店舗)へ誘導して購買を促す施策のことで、そこにコピーライティングを提供するには、オンライン/オフライン双方の媒体効果を踏まえた発案が必要となる。スマートフォンの普及以降、ユーザーが様々な媒体を横断的に利用する形態が加速度的に浸透し、コピーライターもいずれかの媒体を選んで専門化するのではなく、カスタマージャーニーと呼ばれるユーザーの行動パターンを分析し効果を上げるようなコピーライティングの能力が期待されている。

また、2030年までに達成すべき持続可能な開発目標(SDGs)に多くの企業や団体が足並み揃えて取り組む現状では、コピーライターとしても「サステナビリティ」や「ダイバーシティ&インクルージョン」といった観点を無視できない。持続可能性や多様性・公平性・包括性といった視点を欠いたクリエイティブは、共感を呼ばないばかりか、批判や攻撃の対象ともなり得る。特にオンライン媒体での波及効果を考えれば、真摯な姿勢で問題意識を持って表現活動を行うべきだろう。

近年のコピーライター事情

経済産業省が定期的に発表する「産業動態統計速報」を見ても、かつてのコピーライターが活躍したメインステージである「雑誌広告」や「テレビ広告」を「インターネット広告」が上回る傾向は明確だ。

広告業の当月売上高の構成比
経済産業省・特定サービス産業動態統計速報(2022年12月)「広告業の動向」より転載

その「インターネット広告」の実態は、かつての商品やサービスを積極的に売るためのアプローチから変質しつつある。「コンテンツ・マーケティング」と呼ばれる手法では、価格やサービスの差別化要素をあからさまに訴求するやり方ではなく、ユーザーに有益なコンテンツを継続的に豊富に提供することで、親密な関係を構築しコアなファン層が生まれやすい環境を醸成する。

コンテンツは、テキストだけでなく写真や動画、メールマガジンやコラム、セミナーなど様々な形態で提供され、既に多くのユーザーを擁するプラットフォームも活用されている。ここで情報を発信するのはインフルエンサーと呼ばれる一般ユーザーである場合も多く、商業広告とファンによる情報発信の境界は限りなく曖昧になりつつある。このような状況下では、コピーライターという専門職も、ターゲットや媒体に応じて、内容や表現を書き分ける能力が求められる。

また「バナー広告」「リスティング広告」「SNS広告」など、オンラインサービスと連動して提供される広告手法は、仕様やその効果が日々バージョンアップされ変化し続けている。コピーライティングの要素がユーザーに対してどの様な形式・タイミングで提供されるのかを把握するためには、その技術的な背景も理解する必要がある。さらに、これらのサービスは効果測定の機能も併せ持っているため、クライアントに対して説得力のある提案を行うには、そうした指標を根拠として理解を促す必要がある。

コピーライターのイメージ02

コピーライターの仕事

基本的には広告代理店・広告制作会社、特定企業の広告を専属で手がけるハウスエージェンシー、企業の広報部門、IT関連会社などでのコピーライターやディレクターとしての勤務を経て、コピーライターとして開業するパターンが多い。

仕事の流れの一例としては、キックオフミーティングやブリーフィングで営業担当者やディレクター、エンドクライアントからのヒアリングや打ち合わせをおこない、場合によっては取材をしたり撮影などの現場に立ち会って、方向性を提案したり資料を提供したりした後、コピーライティングを進めるというものだ。

広告にはディレクターのほかにもデザイナー、フォトグラファーや動画の製作者、イラストレーター、俳優など、さまざまな人が携わる。そのため、コピーライティングの能力だけでなく、コミュニケーション力も問われるのだ。

コピーライティングでは、キャッチコピーやキャッチフレーズを生み出すクリエイティブ力、そしてもちろん文章力や語彙力、読解力が必要なことはいうまでもない。広告の方向性を示すためのリサーチ力や企画力、ディレクションの能力が求められることもある。

▼コピーライターの業務の一例

コピーライターの業務の一例
(「職業情報提供サイトjobtag(日本版O-NET)」 厚生労働省)

コピーライター開業の人気理由と課題

人気理由

1. 能力や人脈次第で高い売上が見込める

  • オンライン媒体を含め、ニーズが幅広い
  • 広告制作会社や中小企業からの受注の可能性もある

2. 業務内容が幅広い

  • 企画・取材・執筆・校正とさまざまな業務に携わる
  • 様々な経験を積むことができる

3. 開業時の資金がおさえられる

  • パソコンや周辺機器程度だけでも開業可能
  • オフィスがなくても自宅やシェアオフィスなどでも仕事ができる

課題

  1. スキルや人脈、営業力がなければ案件を獲得できない
  2. オンライン媒体などでは単価が極端に低い案件もある
  3. 常に新しい媒体や消費行動に対する理解が必要

開業の5ステップ

開業の5ステップ

コピーライターに役立つ資格

コピーライターになるために取得が必要な資格というものは存在しない。ただし、知識・経験に加え、斬新で柔軟な発想や戦略立案の能力、創造力、コミュニケーション力などが求められる。ここでは、コピーライターを目指すにあたって関連する資格を紹介する。

まず、WEBライティング関連であれば、2つの資格が存在する。

一般社団法人日本WEBライティング協会では、WEBライティングに関する正確な情報やノウハウを提供することにより、わかりやすく効果的かつSEOに有利な文章作成技法の啓蒙と普及を行い、WEBサイトの内容の充実と質の向上に寄与することを目的とした「WEBライティング能力検定」という技術者資格の付与事業に携わっている。

また、一般社団法人日本クラウドソーシング検定協会も、クラウドソーシングで働くために必要なビジネスマナーや基礎知識、文章作成技術などを身に付けることを狙いとした「WEBライティング技能検定」を実施している。

さらに、株式会社クラウドワークスが認定するライティングテスト「WEBライター検定」や、一般社団法人全日本SEO協会主催の「SEO検定」、株式会社サーティファイが手がける「ビジネス著作権検定」も参考になる。

各種スクールに通うことも選択肢としてはあり得るが、キャリアのスタートとしては広告代理店や広告制作会社に勤めて経験を積むほうが、その後の人脈形成や営業活動につながるだろう。一方、コピーライター関連の受賞経験は、キャリアのアピールとして有効だ。月刊『宣伝会議』主催の宣伝会議賞、東京コピーライターズクラブ主催のTCC賞などに挑戦してみてもよいだろう。

コピーライターの売上の背景

経済産業省が発表する「特定サービス産業動態統計調査」の直近のデータによれば、マスコミ4媒体(新聞・雑誌・テレビ・ラジオ)の売り上げは明らかに減少・衰退傾向にあり、対してインターネット広告費は上昇傾向で、媒体単体でみればテレビ広告を上回る勢いだ。

これからコピーライターとして開業する場合には、むしろインターネット広告にフォーカスした戦略が必要となってくるだろうし、営業や人脈作りのアプローチも、最初からオンラインベースで開拓するほうが効率的だ。

企業の広報担当者は、印刷媒体やインターネット・コンテンツの制作を依頼する場合でも、それらをより効果的に展開するために、オンライン上で拡散され話題に上がるような提案も常に求めている。普段から自身のSNSや動画共有サイトで情報発信し話題を投げかけていれば、コピーライターの立場からも、実証的にこうしたプロモーションの提案が可能となるのだ。

日進月歩で変化するメディアの状況を的確に把握しながら、コピーライターとしての係わり方も検証を重ねる事が、継続的な売上を維持するためには必要だ。

▼マスコミ4媒体とインターネット広告売上比較

マスコミ4媒体とインターネット広告売上比較
出典:経済産業省「特定サービス産業動態統計調査・広告業」のデータを使用し、独自に作図した

開業資金と黒字企業の例

コピーライターの開業資金の例
コピーライターを含む著述家業の黒字46社を集計した令和3年決算データ
コピーライターのイメージ03

※開業資金、売上計画、損益イメージなどの数値は、開業状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)