業種別開業ガイド
ファミリー向け写真館
2023年 8月 23日
トレンド
近年、デジタルインフラの浸透、および新型コロナウイルスによるライフスタイルの変化を背景に、ファミリー向け写真館などの写真業界を取り巻くビジネス環境は、大きな転換点を迎えている。以下では、ファミリー向け写真館の市場動向や最新のビジネスモデルを探っていく。
ファミリー向け写真館の市場動向
ポストコロナフェーズが本格化し、消費者の意識や行動が変化している。消費者動向としては、自粛生活で抑えられていた旅行やイベントなど「体験型」消費の増大が見込まれる。低迷していたフォトイメージング市場においても、ファミリー向け写真館の利用は、単なる写真撮影だけでなく「非日常空間での思い出作り」という体験型消費の側面があり、市場回復の要因となっている。
経営形態の多様化
一軒家を貸切にして撮影を行う「一軒家貸切型」、ショッピングモールで営業する「商業施設内型」、顧客の住居や近隣公園に赴き撮影を行う「出張型」など、従来の街の写真館とは一線を画す形態の写真館が増加している。また、撮影時に着用する着物やドレスなどの衣装をレンタルできるサービスも増えており、囲い込み戦略による顧客のファン化を実現している。
セルフ型/貸切型スタジオの台頭
スマートフォンでの自撮りが日常となった昨今、他人に撮ってもらうことに慣れていない若年層や人目を気にせず撮影したいファミリー層を中心に、セルフ型/貸切型スタジオの需要が高まっている。2022年にはカメラ小売業大手も参入するなど注目を集めている。
写真館のIT化
従来の撮影は、スタジオを訪れて写真撮影を行った後、スタジオで希望する写真を選択し写真が後日送付される流れだ。一方、IT化を進めた写真館では、撮影後に顧客専用ページに写真がアップロードされ、顧客は自宅から好きな時間に写真を選択できるようになった。これらのIT化は他社との差別化につながる他、感染症対策にも有効なため、顧客の新規獲得も期待できる取り組みだろう。
近年のファミリー向け写真館事情
日本フォトイメージング協会が公表している「フォトイメージング市場動向」によると、調査を開始した2012年度から2019年度までは毎年微減で推移していたが、2020年度は新型コロナウイルス感染拡大に伴う行動制限により撮影の機会が大きく減少、これにより市場に大きなマイナス影響を与えた(前年比80%と推計)。
しかし、2021年度以降は国民のワクチン接種率が向上、新規感染者も減少傾向になったことで、行動制限が緩和され市場規模も回復の兆しを顕著化した。
2022年度の市場規模は約1,612億円(前年比106%増)と予想され、新型コロナウイルス前の市場規模の89%までの回復に至る見込みだ。
ユーザー消費動向は、デジタルカメラやスマートフォンの普及・高画質化、家庭用プリンターの普及などにより、写真専門店へのプリント依頼の需要は少なくなった。
一方で、近年子どもの成長を記録することに対する価値観の高まりが、20代から30代のファミリー世帯を中心に増加、少子化というマイナス要因があるにも関わらず、子ども・ファミリー向け写真の市場規模は増長傾向だ。
子ども・ファミリー向け写真館は、カメラ販売店や子ども用品店などの異業種も参入し、子育て世代を集客する大型ショッピングモールにも積極的な出店を行っていることから、市場の魅力度が高いことを裏付けている。
ファミリー向け写真館の仕事
ファミリー向け写真館の仕事は「カメラマン」「カメラアシスタント」「衣装選び/ヘアメイク」に分けられ、それぞれ具体的な仕事内容は以下のとおり。
1. カメラマン
- 撮影を担当し、写真の種類や内容に応じて最適な表情やポージングをアドバイスする
- 被写体の自然な表情を引き出すために、コミュニケーションを図り空間を演出する
- 専用ソフトを用いて、撮影した写真を修正、加工、仕上げを行う
2. カメラアシスタント
- 接客、電話対応などのフロント業務全般を担当する
- データ入力、写真の修正や加工、衣装管理などの事務作業も行う
3. 衣装選び/ヘアメイク
- 顧客の希望や撮影シーンに沿った、適切な衣装選びと着付け、ヘアメイクを行う
- 衣装管理や衣装発注などの事務作業も行う
ファミリー向け写真館開業の人気理由と課題
人気理由
1. 顧客とコミュニケーションをとりながら仕事ができる
- 撮影では被写体の表情を引き出し、魅力を引き立たせるサポートができる
- 百日祝い、七五三、成人式、就職、結婚など顧客の晴れ舞台の演出に携われる
2. 自分の実力・センスで勝負できる
- 自分が持っている実力やセンス、感性を仕事に活かすことができる
- 顧客から良い評価が獲得できれば大きな成功も見込める
3. 子どもに携わる仕事ができる
- ファミリー向け写真館は子どもの来店も多く、子どもに携わることができる
課題
- 魅力ある市場のため、異業種からの参入も多く、競争が激化している
- SNS・インターネットを活用したビジネス展開が求められる
開業のステップ
ファミリー向け写真館の開業ステップは、タイプ別に以下のとおり。
ファミリー向け写真館に役立つ資格
ファミリー向け写真館を開業するにあたって必要な資格は特にない。ただし、写真技能士*の資格は写真撮影の技術・知識はもちろん、マナーや服装、接客に関する知識があることの裏付けとなり、クライアントの信頼を得るのに役立つ。
写真技能士の受験は実務経験が必須となっており、いわゆる営業写真館での写真の撮影・製作をする人を対象にしている。そのため、試験は撮影スキルをはじめ、コンピュータによる画像処理、肖像写真の知識など、写真に関する幅広い項目が出題される。
*写真技能士の詳しい情報は、こちら(中央職業能力開発協会)をご確認ください。
また、ファミリー向け写真館の開業は写真に関する知識に加えて、財務や経理などの経営知識も必要となる。「中小企業診断士」「日商簿記検定」「税理士」などの資格は経営に必要なお金の知識を広く身につけられるため取得を目指してみても良いだろう。
開業資金と運転資金の例
開業にあたって必要になる費用としては、以下のようなものがある。
- 物件取得費用:初月家賃、敷金、礼金、保証金など(家賃の6~10ヵ月程度のことが多い)
- 内外装工事費:内装・外装工事など(内容により大きく変動する)
- 什器備品費:カメラ・レンズ、パソコン、プリンター、モニター用テレビ、ストロボなど
- 商品仕入費:インテリア小物、衣装など
- 広告宣伝費:ホームページ制作費、撮影スタジオ検索サイト掲載料、印刷費など
また、フランチャイズ型の場合には、別途加盟金や研修費が掛かる。
ファミリー向け写真館を含む写真業は、開業タイプ別に必要となる開業資金と運用資金が異なる。写真業は必ずしも実店舗を必要としないため、開業時は出張型などのスモールビジネスからスタートし、段階を踏んで事業拡大することで、相対的に少額の資金から開業することが可能だ。
開業資金と運用資金の例として、タイプ別に表にまとめた(参考)。
売上計画と損益イメージ
ファミリー向け写真館を開業した場合の年収イメージをシミュレーションしてみよう。
出張型の場合は、インターネットなどで毎月一定の顧客を獲得できれば約300~500万円の収入が見込める。また最近では、動画共有サイトやSNSなどを通じてファンを獲得することで、収入を増やすことが可能だ。
実店舗を持つ写真館の場合、年間営業日数:240日、1日の来店客数:5組、平均客単価:1組あたり2万円とすれば、年商は2,400万円(平均日商:10万円)となる。平均客単価については、撮影料とプリント1枚を想定。オプションとして、アルバムやフォトフレーム、撮影データの販売を行うのも、売上アップにつながる戦略の1つだろう。
次に、実店舗を持つ写真館の損益イメージを算出してみよう。上表の運用資金例(一軒家貸切型)を想定すると、年間支出は708万円で、年間売上高:2,400万円とすれば、利益は約1,692万円となる。
※中小企業庁の経営指標では、サービス業(写真現像・焼付業、その他の娯楽業)の売上高対総利益率は48.1%~60.8%となっており、年間売上高:2,400万円とすれば、売上総利益は約1,150~1,460万円となる計算だ。
什器備品などで初期費用は掛かるが、まずは出張型で販路を拡げ、軌道に乗ったタイミングで実店舗を立ち上げれば、初期投資の早期回収を図ることが可能だろう。
※開業資金、売上計画、損益イメージなどの数値は、開業状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)