業種別開業ガイド

中古自動車販売業

2023年 12月 6日

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トレンド

近年、中古自動車の需要が拡大しており、市場規模も右肩上がりの状況が続いている。以下では、中古自動車の消費者動向や最新のビジネスモデルを探っていく。

(1) 中古自動車の消費者動向

民間会社が実施した「中古車購入実態調査2022」によると、中古自動車の市場規模は2015年から2021年までに1.5倍となり過去最高を更新した。市場規模が拡大した背景にあるのが、購入単価の上昇だ。2022年の購入単価は156.6万円で、2021年より1.6万円増加、過去8年間で39.3万円増加している。

単価アップの要因は以下の3つが考えられ、しばらくこの傾向は続くと予想されている。

  1. 安全性や環境への配慮など商品自体が高単価なものにシフトしている
  2. これまで人気だったハッチバックや軽自動車に比べて価格設定の高いSUVが流行している
  3. 新車発売とほぼ同時にディーラー試乗車などが中古車として流通している

(2) インターネット販売の台頭

大手自動車メーカーが中古自動車のオンライン販売サイトを開設するなど、中古自動車販売業では近年、販路拡大の新たな取り組みとしてインターネット販売が活発化している。これは「好きなタイミングで車を購入したい」という需要や「コロナ禍による非対面商談のニーズ拡大」に対応し、新たな顧客を獲得する狙いだ。また、インターネットを活用した個人間売買も活発化しており、大手中古車メーカーの中には個人間売買の仲介を担おうとする業者も増えている。

(3) 経営形態の多様化

大きな系列には属さない独立した経営形態の「中古車専業型」、顧客から中古車を買い取り転売する「買取専門店型」、業者間で中古車を売買する「オートオークション型」、個人間売買の仲介を行う「個人売買仲介型」など、中古自動車販売業には多様な経営形態が存在する。中古自動車販売業では従来、中小企業が主体だったが大規模展示場やネット販売、またはフランチャイズ方式を通じて事業拡大し株式を公開する企業も増えている。競争が激化する中古車販売業の生き残り対策として「同業者との提携により在庫共有システムを整備する」「整備業者と連携してメンテナンスパックを提供する」など、中古車流通の入り口から出口まで網羅しようという企業も増えている。

近年の中古自動車販売業事情

民間調査会社が公表している「中古車販売市場」動向調査(2022年度)によると、2022年度の中古車販売市場は、過去最高の3兆9,073億円(前年比0.3%増)を記録した。

中古車販売 市場規模推移

成長の背景には、新型コロナウイルスの感染拡大があげられる。感染対策として電車やバスなどの公共交通機関から自動車通勤にシフトした人が増加したことで、中古自動車の需要が拡大した。さらに、アジアでの感染拡大による自動車部品工場の停止に加えて、世界的な半導体不足で新車の生産台数が減少していることも要因だ。コロナ禍が落ち着きをみせ始めた2022年以降も新車の納期遅れが常態化しており、引き続き中古自動車の需要拡大が見込まれている。

また、2022年度の売上高が前年度から「増収」となった企業の割合は29%と、21年度と比べて縮小したものの、「前年度並み」を維持した企業は52%と多かった。加えて、利益ベースでは「増益」が47%で最も多く、「減益」の30%を含めると81%が黒字となった。これは、中古自動車の需要拡大に伴い仕入価格が上昇した一方で、堅調な需要を背景に店頭価格へ価格転嫁しやすかったことが要因としてあげられる。

中古車販売店 業績動向 / 中古車成約車両単価・成約率・年度平均

中古自動車販売業の地球温暖化対策

中古自動車販売業は、2020年に宣言された「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けて大きな役割を担っている。自動車は、製造から走行、廃棄まで多くの温室効果ガスを排出していることから、取り組むべき課題も多い。経済産業省と関係省庁では「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定し、自動車を含む14の重要分野について具体的な見通しを示した。

それを受け一般社団法人 日本自動車販売協会連合会は、カーボンニュートラルに向けた自動車政策検討会を実施。現存する車両を大切に長く使うことがカーボンニュートラルに向けた理想的な活動とした上で、より一層中古自動車の普及促進に注力する方針を掲げた。

また同連合会の「カーボンニュートラルへの取組について」では、中長期的課題と新たな方向性として「中古車ビジネスの変化」をあげている。今後は、中古自動車市場にも電気自動車(EV)が増えていくことを想定し、中古EVの適正な相場形成と中古車ビジネスを強化していく考えだ。

中古自動車販売業の仕事

中古車販売業の仕事は「商品の仕入れ」「商品の値付け」「営業と販売」「整備と点検」「アフターメンテナンス」「バックオフィス業務」「保険代理店業務」に分けられる。それぞれ具体的な仕事内容は以下のとおり。

  • 商品の仕入れ:持ち込み商品の買い取りやオークションで中古自動車の仕入れを行う
  • 商品の値付け:仕入れ価格、年代、グレード、状態などを考慮して値付けを行う
  • 営業と販売:来店客や問い合わせなどに対応して営業と販売を行う
  • 整備と点検:仕入れた商品や販売した商品の整備と点検を行う
  • アフターメンテナンス:メンテナンスパックなどを提供する場合は車検や整備を行う
  • バックオフィス業務:見積書や法的書類の作成などを行う
  • 保険代理店業務:自賠責保険の加入手続き業務を行う
中古自動車販売業のイメージ02

中古自動車販売業の人気理由と課題

人気理由

1. 開業しやすい

  • 中古自動車販売業は特別な資格や経験、学歴が不要で新規参入しやすい
  • オンラインプラットフォームの利用で実店舗を持つことなく開業できる

2. ニーズが高まっている

  • 社会情勢から中古自動車の需要が高まっており安定した販売が見込める
  • 顧客を持続的に獲得できれば大きな成功を見込める

3. やりがいや達成感を感じられる

  • 自動車好きやクルマの知識を活かすことができるためやりがいがある
  • 中古自動車の仕入れから販売まで一気通貫で行うため大きな達成感を感じられる

課題

  • 大手自動車メーカーが中古自動車販売業に参入するなど競争が激化している
  • 中古自動車の需要拡大に伴い仕入れ価格が上昇傾向にある

開業のステップ

中古自動車販売業を開業するには、警察署の公安委員会に古物営業法の許可申請を行うなどの手続きが必要になる。具体的な開業の流れと必要な手続きは、次のとおり。

ステップ1. 古物商許可を取得する

中古自動車販売店を開業するにあたり、企業(店舗)の所在地を管轄する警察署の公安委員会に行き、古物商許可証を取得する必要がある。手続きには、必要書類とともに古物商許可申請の手数料として19,000円を提出する。

ステップ2. 自動車リサイクル法引取業を登録する

中古自動車販売だけでなく、廃車を引き取る業務も行う場合は、役所や保健所の担当窓口に行き自動車リサイクル法引取業登録を行う必要がある。手続きには、必要書類とともに住民票と5,000円程度の手数料を提出する。

ステップ3. 自動車リサイクルシステムに登録する

中古自動車の引き取りや解体、部品取りを行う場合は、公益財団法人自動車リサイクル促進センターに行き、自動車リサイクルシステムに登録する必要がある。

ステップ4. オートオークションに会員登録する

業者間で中古自動車を売買するオートオークションへ登録することで、幅広い仕入れルートを確保することができる。オークションはインターネットを介したものから直接会場で行う現車オークションなどがあり、会員登録しておくと仕入れや販売の機会を増やすことが可能だ。

ステップ5. 保険代理店として登録する

自動車を購入した場合は自賠責保険への加入が義務付けられているため、保険代理店として登録しておくことで、顧客側の手間を省き利便性を高めることが可能だ。保険代理店として登録するためには、試験を受け損害保険会社と代理店委託契約を締結する。

ステップ6. 税務署へ必要書類を提出する

中古自動車販売業を個人事業主として開業する際は、開業届をはじめ、所得税の青色申告承認申請書、青色事業専従者給与に関する届出書、所得税・消費税の納税地の異動又は変更に関する届出書、事業開始届出書、源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書などを提出する必要がある。法人の場合には、法人設立届出書、給与支払事務所等の開設届出書、源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書などを提出する。これらの書類には、提出しなければならない書類と任意の書類があるため、事前に税務署で相談すると良いだろう。

中古自動車販売業に役立つ資格

中古車販売業を開業するにあたって必要な資格は特にない。ただし、中古自動車販売士(*)は販売員として必要な知識や技術があることの裏付けとなり、クライアントの信頼を得るのに役立つ。

中古自動車販売士は、教育、試験、認定により販売員の能力を底上げすることを目的としており、中古車関連の法律やルールを学べるほか接客スキルも習得できる。資格取得後は、専用ののぼりや認定証を展示することで集客効果も期待できる。

(*)中古自動車販売士の詳しい情報は、こちら(一般社団法人 日本中古自動車販売協会連合会)をご確認ください。

また、自動車を解体してスクラップにすることができる「自動車解体業許可」、引き取った廃車から部品を取り出し販売できる「自動車引取業登録」、自動車からフロン類を引き取ってリサイクルを行うことのできる「フロン回収業許可」などを取得することで、事業拡大を図ることが可能だ。

開業資金と運転資金の例

開業にあたって必要になる費用としては、以下のようなものがある。

  • 物件/土地取得費、設備工事費:初月家賃、敷金、礼金、保証金(家賃の6~10カ月程度のことが多い)、内外装工事、看板工事など(内容により大きく変動する)
  • 什器備品費:パソコンや事務用品、整備機材や整備機器など
  • 仕入費:コンセプトや規模に応じた車両、ETC・ナビなど
  • 広告宣伝費:ホームページ制作費、広告チラシ制作費、印刷費など
  • 各種申請手数料:古物商許可証取得費、法人登記手続き費など
  • 求人費:求人媒体の利用費、人材紹介費など

また、フランチャイズの場合には、別途加盟金やシステム導入費、保証金、研修費が掛かる。

中古自動車販売業を開業する際は、個人事業とフランチャイズ加盟とで開業資金と運転資金が異なる。以下では、個人事業などの小規模経営とフランチャイズ加盟の2パターンに分けてシミュレーションを行う。

開業資金例
運転資金例

開業にあたっては、金融機関の他、政府系の日本政策金融公庫も利用できる。創業を支援する「新規開業資金(中小企業経営力強化関連)」、認定支援機関の助言があれば金利が安価になる「中小企業経営力強化資金」などの融資制度がある。

売上計画と損益イメージ

中古自動車販売業を開業した場合の1年間の収支をシミュレーションしてみよう。

  • 事業形態:個人事業(従業員0人)
  • 実店舗を持たず、自宅でネットショップを開業
  • 注文販売(在庫なし)

月間売上台数:5台
年間売上台数:60台

平均客単価:100万円
とすると、

月商:500万円
年商:6,000万円
となる。

次に、損益イメージを算出してみよう。

上表の運転資金例(個人事業)を想定すると、
年間支出:約5,280万円
初年度売上高:6,000万円
売上総利益:約720万円
となる。

販売台数が伸びれば、さらに高収入も狙える。数ある中古自動車販売業の中から選ばれるには、ユーザーのニーズを熟慮したサービスを展開したいところだ。例えば、マニア向けの車種や便利な装備など、独自性のある提案ができると注目度が高まる。あわせて、問い合わせにも丁寧で行き届いた対応ができれば、ショップの信頼を獲得できるだろう。さまざまな挑戦を楽しみながら経営できるのは、個人事業の魅力ともいえる。

一方、フランチャイズに加盟すると中古自動車販売業のノウハウを得られるメリットがある。企業によっては、個人で開業するよりも初期費用が抑えられるケースもある。1人での開業に不安がある人は、まずはフランチャイズに加盟するのも選択肢のひとつだ。フランチャイズでも在庫を持たないプランがあるので、うまく利用して低予算でスタートし、市場の動向がつかめてきたら独立して規模を広げていくと良いだろう。

中古自動車販売業のイメージ03

※開業資金、売上計画、損益イメージなどの数値は、開業状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

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