業種別開業ガイド

イタリア料理店

2023年 9月 1日

トレンド

日本料理とスタイルは異なるものの、ピザ・パスタが古くから長い間愛されているイタリア料理は、肉料理や魚料理など専門的なメインディッシュも近年では市民権を得るようになってきた。また、日本のファッショントレンドとの相性も非常に良く、ドラマではイタリアンレストランで食事を楽しむ姿が頻繁に映し出され、イタリア料理は常に流行と同調してクローズアップされてきた。これらの要因から、平成時代からスタンダードな存在となっている。そんなイタリア料理の近年のトレンドを挙げてみる。

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(1)変化し続けるイタリアン

イタリア料理の特徴として、他の料理と大きく異なる点は、「イタリアン」という料理が各国において独自の文化を取り入れ、それぞれの国のイタリア料理として発展しているという点だ。この起因となるのは、セモリナ粉を中心としたシンプルなパスタを使用し、各国で採れた新鮮な食材や加工食品を組み合わせてわかりやすく調理する点にある。どの国も伝統的なイタリア料理の特徴を取り入れつつ、自国の習慣や食材と組み合わせて独自の進化を遂げているため、メニューのアレンジがさまざまな形になって提案され続けている。

(2)日本人によるブラッシュアップ

特に日本のイタリアン料理は世界的にも多くの人々に認められている。茹で加減や食材の下処理など、繊細で丁寧な仕事により、日本のイタリアンの調理技術は他の各国料理に比べて非常に洗練されており、平均的なレストランでも驚くべきものがある。こうした調理が可能な人材の確保は他の料理に比べて比較的容易と言えるだろう。

(3)イタリア野菜と肉加工品の国産化

特にこの10年間、国内でのイタリア野菜の生産や生ハム、パンチェッタ(塩漬けにした豚バラ肉)などの精肉加工品の品質は目を見張るものがある。イタリア野菜では、日本の農業技術を存分に活用し、これまで国内産のものはなかった野菜が生産可能になり、香りや鮮度が最上級の状態で使用できるようになった。また、精肉加工品においても、本場イタリアでの製造技術を取得した日本人や技術提携を行った企業によって、日本の気候を生かした加工品が製造されるようになり日本のイタリアンシーンに新たな風が吹き込まれている。

(4)ナチュラルワインの定番化

2010年以降、自然派ワインが販売数を増やしている。これはイタリアのワインに限ったことではないが、特にイタリアが優れた生産者を輩出していることと、熱心な輸入業者が日本に数社存在していることから、優れた自然派ワインが日本に入ってくることで評価を得ているようだ。これまでの白・赤・スパークリングワインといった種別に加えて、オレンジワインが紹介されたことはその象徴でもある。

(5)食文化のクロスオーバー

ニューヨークの「Kimika」という店がニューヨークタイムズで取り上げられ、日本風のイタリアンが話題となったことは有名だが、このように食文化がクロスオーバーしたイタリアンは今後も広まっていくだろう。日本が積極的に進めてきた冷製パスタなどはイタリアで認められてからまだ20年ほどしか経っていないことを考えるとこれからの伸びしろは期待できる。これからも各国で独自の進化を遂げてきたイタリア料理が国境を越えて他の国でも評価されることが増えるだろう。

近年のイタリア料理事情

1980年代からの日本のバブル経済全盛期に六本木や西麻布を発信元とした大きなイタリア料理のムーブメントがあった。著名なシェフが何人も登場して人気を集め、経済的にも余裕のある若い世代を中心として、カップルやグループでの会食はほとんどがイタリア料理を選び、イタリアンというだけで深夜帯まで満席になってしまう時代だ。その結果瞬く間に日本人の食文化に根ざすようになった。

しかしながら、令和の時代に入って長期にわたる新型コロナウイルス感染拡大の影響による外出控えや巣ごもり消費の需要拡大は、イタリア料理店にとっても大きな痛手となった。さらには、戦争や円安の影響により、特にヨーロッパの食材費が高騰し、イタリア料理店の経営を直撃している。イタリアワインの価格上昇により、店舗はワインリストの価格を大幅に変更せざるを得ない状況だが、お客様もこの値上げ幅にはとても敏感になっている。

これらの背景には、インターネットの普及によりワインの仕入れ価格を容易に調べることが可能となり、自宅で高級ワインを楽しむ機会が増えたこと、またワイン愛好家の間で飲んだワインを記録するアプリの利用が一般的になったことなどが挙げられる。ワイン全体の消費量はこの10年で格段に増えているが、その分お客様の判断能力も向上し、店主はワインの仕入れ値を数秒で調べられてしまうという苦しい状況に直面している。日本に根付いていることから市場は底堅いが、当面は厳しい外部環境にさらされていると言える。

イタリア料理店のイメージ02
全酒類の消費量10年前との比較 (2010年と2020年の比較)

※上表の「果実酒」とは、果実を原料として発酵させたもので、ワイン、シードルなどのこと。「甘味果実酒」とは、果実酒の発酵過程でブランディーなどの蒸留酒を添加し、糖分が酵母によって分解されないようにしたもので、ポートワイン、シェリー、マルサラなどのことをいう(以上酒税法による分類)。

一方で、イタリア料理界には技術革新も見受けられる。冷凍パスタの品質向上を可能にしたスチーム解凍技術がその一例である。また、小型化したエスプレッソマシンや高性能な電気ピザ窯といった技術革新も続いており、省人化や利益率向上に寄与している。これらにより、高級レストランだけでなく、イタリアンバル*などでも高品質な料理を提供するための道具が整いつつある。

*バル……お酒やコーヒー、軽食が楽しめる店のこと。

開業までの流れ

開業までの流れ

必要なスキル

イタリア料理店は一部のリストランテ*を除き、気軽に利用できるカジュアルな雰囲気を求められることが多くフレンドリーで気さくな接客が必要だ。よって繊細なコミュニケーション能力が求められ、そのスキルが売上に大きな影響を与えるということになる。

*リストランテ……イタリア料理店では、もっとも高級なレストランを「リストランテ」、大衆的・家庭的なレストランのことを「トラットリア」、日本で言う居酒屋のような店を「オステリア」、それよりさらに小規模な居酒屋や大衆食堂のような店を「タベルナ」と言う。

ひとくちにイタリア料理店といっても、そのスタイルは多岐にわたる。カフェスタイルでイタリアのお菓子や軽食を提供するバルから、テーブルチャージやサービス料を徴収し、ソムリエを配置するリストランテまで存在する。また、日本では各国料理の中でもトップクラスの人気を誇るイタリア料理には、参入者も多い。特に新規開業する際には、業界内でどこに立ち位置を決め、どのように勝負を挑むのかを明確にすることが重要であり、その方針を一貫して続けることが成功への最低条件となる。これは、店舗のコンセプト作りやブランディング、ディレクションのスキルが問われる業態であることを意味する。

さらに、前述したイタリアの自然派ワインの台頭といった例が示すように、より深いワインの知識が必要となり、それを持つスタッフの確保が重要となる。そのためにはインポーターや作り手との普段からの密なお付き合いも生命線となる。

開業資金と運転資金の例

人材の確保という視点から経営しやすい業態として、価格帯が比較的低めのトラットリア*を事例とする。収益を確保するためには、ある程度の従業員を抱えて席数を確保し、一定の規模を持って営業することが必要となる。そして、それぞれの従業員が提供する料理の品質を一定に保つためには、性能のいい調理機器や道具が求められるため厨房設備への投資額が増大する。各国料理の中では、比較的シンプルな内装や自然な装飾で空間を演出することが可能であるため、内装費用を抑えることも可能である。しかし、ワインやチーズといった高級食材については、仕入れに関するコストは余裕を持って見積もるべきである。

参考事例:杉並区内 駅から徒歩5分 2F  20坪 30席 客単価4,000円のトラットリア (単位:千円)

売上計画と損益イメージ

前述の通り、イタリア料理に関連する食材や人件費の高騰により、経費は大きく膨らんでいる。売上に対する食材費と人件費の割合を表すFL比率については、昔から60%程度に抑えることが経営の基本とされていた。しかし、この目安は近年で達成するのが容易な数字とは言えない。この課題に対しては、DX化を大きく推進し、合理化を徹底することで人件費を削減し、利益を確保することが求められるだろう。また、最低限必要な調理技術がそれほど高度ではないことと最終調理工程を減らして、事前調理が可能なレシピも多く存在することから、比較的大規模な店舗運営が可能なジャンルである。この特性を活かし、席数を増やして分母を大きくすることで、更なる合理化を図るべきである。

開業から3年目までの収支モデル(1か月あたりの金額)
イタリア料理店のイメージ03

※開業資金、売上計画、損益イメージなどの数値は、開業状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

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