業種別開業ガイド

旅行会社(代理店等を含む)

トレンド

2019年に3188万人だった訪日外国人旅行者数が25万人に大幅減

「移動」や「リアルな場での体験・交流」を伴う各種旅行・観光サービスを提供する旅行会社は、コロナ禍の影響を最も大きく受けた業種の一つに数えられるだろう。2022年6月に閣議決定された「令和4年版観光白書」によると、2011年から19年まで右肩上がりで3188万人まで伸びていた訪日外国人旅行者数は、20年に前年比87.1%減となる412万人、21年にはさらに同94%減となる25万人まで減少。訪日外国人旅行者による消費額も、19年の4兆8135億円が20年には同84.5%減の7446億円、21年には同83.8%減となる1208億円と大幅に落ち込んだ。

県をまたぐ移動や外出の自粛などで国内旅行も大打撃

当然、国内旅行の方も振るわず、政府が打ち出した「GO TO トラベル」などの各種施策も度重なる新型コロナウイルスの流行により効果は限定的となり、宿泊・日帰りを合わせた国内旅行の延べ人数は、19年の5億8710万人から20年には2億9341万人に半減。21年も2億6821人と減少傾向が続いた。その消費額についても、19年の21.9兆円が20年には54.5%減の10.0兆円。21年には9.2兆円とさらに微減し、こちらも減少傾向に歯止めはかからなかった。

マイクロツーリズム、アウトドア、ワーケーションなどがトレンドに

一方で、コロナ禍は旅行や観光の在り方が見直される契機になった側面もある。「比較的短距離での移動」や「第三者との接触機会の減少」といった利用者ニーズの高まりを受け、同一県内など地元での短期滞在を楽しむ「マイクロツーリズム」、他者との接触機会が比較的少ない「アウトドア」、また、旅行先の環境と文化の保全を第一に考えて自然との触れ合いや文化体験などを行う「サステナブルツーリズム」などが旅行・観光関連のキーワードとして急浮上。さらに、コロナ禍に急速に普及したテレワークや、働き方改革の進展などに伴い、仕事(ワーク)と休暇(バケーション)を融合した「ワーケーション」などもトレンドの一つとなっている。

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ビジネスの特徴とヒント

5種類の「旅行会社」は、それぞれ扱える業務や登録方法が異なる

「旅行会社」とは、交通・宿泊・その他の旅行関連商品やサービスを企画・催行、あるいは仲介して販売する会社などの総称で、旅行代理店と呼ばれることも多い。主な業務は、旅行商品の企画、交通機関の手配や代理販売、宿泊施設の予約や宿泊券の発行などになる。こうした行為を旅行者本人に代わって有償で行う場合、旅行業法に基づいて観光庁長官または都道府県知事による登録が求められており、業務範囲に応じて第1種〜3種、地域限定、旅行業代理業という五つの分類がある。このうち旅行代理店業以外の4種は、分類に応じた基準資産額を満たした上で、「営業保証金」あるいは「弁済業務保証金分担金」の用意が必要。そのほか「旅行業務取扱管理者」の選任も求められる。

訪日解禁と観光産業が抱える諸課題の解決がビジネス化の糸口

2022年6月10日に、政府は訪日客の受け入れを再開。コロナ以前の水準にまで戻すのには時間がかかりそうな見通しだが、2019年時点の訪日客数や消費額を見れば、そこにどれだけ大きな需要が眠っているかをうかがい知ることはできる。また、コロナ禍による人材の流出はもちろん、それ以前より離職率の高さや労働生産性の低さ、DXの遅れ、宿泊施設や観光設備といったインフラの老朽化など、課題が山積していた業界でもある。現在のトレンドを取り入れながら、これらの諸課題をどう解決に導くかという視点が、新規参入者の成功への近道になり得るだろう。

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開業のポイント

開業タイプは5種類。「やりたい仕事」と「初期費用」の確認を

先述の通り、旅行会社は、旅行業法に基づく登録を必要とし、種類によって扱える業務範囲が異なる。それぞれの登録行政庁、基準資産額、開業時(前年に旅行者との取引がない場合)に必要となる営業保証金などを一覧(図a)にした。なお、業務範囲にある「募集型企画旅行」とは、旅行会社が企画した旅行計画に旅行者を募集する商品(パッケージツアーなど)、「受注型企画旅行」とは、旅行者からの依頼により旅行計画を企画する商品(修学旅行など)、「手配旅行」とは、旅行業者が旅行者からの依頼で宿泊施設や乗車券などを手配するものを指す。

図a)旅行業種別の開業に必要な資金と業務範囲
図a)旅行業種別の開業に必要な資金と業務範囲

※1 「基準資産」とは、資本金の総額から上記「営業保証金(または弁済業務保証金分担金)」のほか、「創業費その他の繰延資産」「営業権」「1年以上回収されていない貸付金、売掛金、未収金等の回収不能債権」「負債総額」を引いた額をいう。

※2 カッコ内は、旅行業協会に加入している場合に「弁済業務保証金分担金」として納付すべき金額の一例(前年度の取引額によって異なる)。

※3 △は営業所のある市町村に隣接する市町村内での提供に限定

図a)が示す通り、国内外のあらゆる旅行を扱えるのは「第1種」のみ。ただし、そのハードルは高く、開業時には3000万円の基準資産に加え、7000万円の営業保証金(旅行業協会に加入した場合は弁済業務補償金分担金として1400万円)が必要となる。海外における募集型企画旅行のみ対応不可となる「第2種」は、必要な基準資産額は700万円で、営業保証金は1100万円(弁済業務補償金分担金の場合は220万円)。募集型企画旅行の実施範囲が営業所のある市町村に隣接する市町村内に限定される「第3種」は、基準資産額、営業保証金共に300万円(同60万円)となる。

「地域限定」や「旅行業者代理業」なら小規模投資で開業可能

営業所のある市町村に隣接する市町村内での国内旅行のみ手配可能となる「地域限定」であれば、基準資産額100万円、営業保証金15万円(同3万円)という少額な初期投資で開業可能だ。さらに、これらの旅行業者から委託を受けた業務を実施する「旅行業者代理業」の場合は、基準資産も営業保証金も不要となる。近年のトレンドであるマイクロツーリズムや業界における諸課題の解決といった独自の視点を掛け合わせれば、「地域限定旅行業」や「旅行業者代理業」でも十分ビジネスチャンスを見つけることができそうだ。

「旅行業務取扱管理者」の資格取得や「旅行業協会」への加盟も

開業に際して留意することとして、旅行会社は上記の各行政庁への登録や、基準資産および営業保証金の準備などのほかに、営業所ごとに「旅行業務取扱管理者」の常勤が求められるため、資格取得あるいは有資格者の採用について検討する必要がある。また、営業保証金の供託を、負担額が5分の1となる「弁済業務保証金分担金」に代えたい場合は、全国旅行業協会への入会が必要だ。入会金は、第1種225万円、第2種65万円、第3種55万円、地域限定40万円。その他の細かい入会条件や入会方法などは、同協会の都道府県支部に直接確認。また、開業に際した一般的なステップが知りたい場合は、本サイトの「起業マニュアル」ページなどを参照。

必要スキル

旅行業務取扱管理者は2種類。目的にあった資格取得を

旅行業務取扱管理者には「国内旅行業務取扱管理者」と「総合旅行業務取扱管理者」の2種類あり、前者は国内業務、後者は国内外の業務をそれぞれ扱える。試験科目は「旅行業法及びこれに基づく命令」「旅行業約款、運送約款及び宿泊約款」「国内旅行実務」が共通で、統合のみこれに「海外旅行実務」が加わる。自ら資格を取得した上での開業を目指すなら、その目的やカバーしたい業務範囲に応じて、適切な資格を選択する必要がある。

訪日客を取り込むには語学や多言語展開への意識も

旅行業界でのビジネスを考える場合、「訪日客への対応」は今後よりニーズが高まっていく分野といえるだろう。その際、自らの語学習得や、バイリンガルスタッフの採用などに加えて、ウェブサイトや各種広報ツールの多言語化などもポイントの一つだ。また昨今、目覚ましい進化を遂げている言語の壁をなくすITツールなどについても、注視しておいて損はないだろう。

マイクロツーリズムなら地域の再発見や地元との協力関係を

昨今の「マイクロツーリズム」や「サステナブルツーリズム」といったブームをとらえるなら、開業予定地域におけるご当地検定レベルの知識は最低限持っておきたい。また、旅行の企画に際しては、観光施設や宿泊業者、交通系企業などの協力も必要だ。地元自治体の観光課や観光関連団体、観光関連企業との関係構築も、ビジネスをスムーズに進める上で重要な要素といえるだろう。

上記の記事は、作成時の情報に基づき、同業種における開業のヒントやポイントをまとめたものです。実際の開業にあたっては、より専門的な機関に相談することをおすすめします。

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