業種別開業ガイド

ツアーコンダクター

2021年12月 3日

トレンド

(1)旅行業者の市場動向

観光庁がまとめた「令和2年度主要旅行業者の旅行取扱状況年度総計」によると、主要旅行会社(46社・グループ)の2020年度の年間取扱高は9,997億円で、新型コロナウイルス感染症の流行により、前年度と比べて78.4%減少した。大部分を占める国内旅行の取扱高は9,481億円で63.1%減、海外旅行は97.7%減、外国人旅行(日本の旅行会社によるインバウンド旅行)は96.0%減となっている。コロナ禍の渡航制限による影響を受け、特に海外旅行と外国人旅行の減少率が大きい。

(2)旅行スタイルの変化

新型コロナウイルス感染症の拡大により、2020年4月以降海外から日本への渡航が途絶え、インバウンドによる消費額はほぼ0円という状況に陥っており、コロナ禍以前の状況に戻るにはまだ時間がかかると見込まれる。コロナ禍以前に海外旅行を楽しんでいた層の消費動向は国内旅行へシフトしており、長期の旅行や短期間でもグレードの高い宿泊施設へのニーズが高まっている。また、コロナ禍においては遠方よりも近場での旅行を楽しむ「マイクロツーリズム」への注目や、テレワーク普及の高まりを受け、移住やワーケーションを含む新しい旅行スタイルの機運も高まっている。

(3)ツアーコンダクターの需要

高度情報化に伴い、一般消費者と宿泊施設・鉄道会社・航空会社などサプライヤーとのオンラインサービスを利用した直接取引が増加している。それにより若年層ではパッケージツアー離れが進んでいるが、熟年層やパッケージツアーを好む層はもとより、「ツアーでしか訪問できない場所がある」、「初めて行く」、「個人では移動が難しい」といった旅行先においてもパッケージツアーの利用意向は根強い。また、コロナ禍においては個人旅行よりも事業者が感染対策を徹底しているツアー旅行の方が安心だという考え方も広まっており、旅行業界全体としてツアーコンダクターの需要は根強く、今後も求められ続けると考えられる。

ツアーコンダクターのイメージ写真

ビジネスの特徴

ツアーコンダクターとして働くには、通常大きく分けて2つの方法がある。1つには、ツアーコンダクター同行のパッケージツアーを企画・催行している旅行会社の社員として、ツアーの企画や営業から集客、添乗までオールラウンドプレーヤーとして働く方法である。

次いで、ツアーコンダクター派遣会社に登録し、フリーランスの添乗員として毎回異なる旅行会社の異なるツアーに添乗する方法である。現在、旅行会社では人件費削減のためツアーコンダクターを外注化するケースが増えており、派遣会社に所属するツアーコンダクターも多い。

通常はこのいずれかで働くことが主であるが、自身で旅行会社を開業し、ツアーコンダクターとして働くことも可能である。

開業タイプ

自身で旅行会社を開業する場合の開業タイプは、登録業種により大きく5つに分類される。なお、旅行業では、事務所はすべて営業所と称される。

旅行業者代理業を除くいずれの形態においても、営業保証金や基準資産(詳細は後述)の負担があるため、まずは旅行業者代理業、地域限定旅行業及び第3種旅行業などの保証金負担の軽い形態で開業し、経営が軌道に乗った後、第2種、第1種へのステップアップを考えてもよい。

(1)第1種旅行業

国内外の募集型企画旅行及び受注型企画旅行、手配旅行の取扱いが可能なタイプである。幅広い範囲での業務が可能である。

(2)第2種旅行業

国内のみの募集型企画旅行、国内外の受注型企画旅行、手配旅行の取扱いが可能なタイプである。

(3)第3種旅行業

国内隣接市町村などの募集型企画旅行、国内外の受注型企画旅行と手配旅行の取扱いが可能なタイプである。実際の取り扱い額の比率は、手配旅行が最も多く8割以上を占めており、次いで、募集型企画旅行が残りを占めている。現在、最も事業所数の多い業態である。

(4)地域限定旅行業

国内隣接市町村などに限定された募集型企画旅行、受注型企画旅行、手配旅行の取扱いが可能なタイプである。実際の取り扱い額の比率は、募集型企画旅行が最も多く6割程度を占めており、次いで、手配旅行が2割強、受注型企画旅行が1割程度を占めている。創設されたばかりのタイプであり、今後の普及が期待されている。

(5)旅行業者代理業

上記の旅行業者から委託された業務の範囲内のみで商品提供が可能なタイプである。営業保証金は必要なく、小資本でも参入が可能である。

旅行カバンの写真

開業ステップ

(1)開業のステップ

開業ステップのフロー図

※会社を新設し、第3種旅行業を取得する場合
※旅行業協会への入会は、旅行業協会の保証会員の資格を取得したい場合にのみ必要な手続き

(2)必要な手続き

旅行会社を開業するには、分類に応じた登録を行う必要がある。申請先は、第1種旅行業は観光庁長官、それ以外は主たる営業所を管轄する都道府県知事(観光圏を限定した旅行業者代理業は国土交通大臣)である。

代理業以外の旅行業者は、旅行者が損害を受けたときに備え、あらかじめ旅行業者の財産の一部を営業保証金として国に預けておく必要があるほか、財産的要件として、基準資産額が定められている。

旅行業の区分と登録要件の表
(出典:観光庁ホームページより東京商工リサーチが作成)

※基準資産の算出式
 資産総額 -(負債性のある資産+負債の総額+営業保証金)

詳細については、観光庁のホームページを参照されたい。

なお、一般社団法人全国旅行業協会に加盟している場合は、営業保証金は5分の1の納付となり(弁済業務保証金制度)、弁済業務保証金分担金となる。協会への加入手続きは、当協会の都道府県支部にて行うが、以下のような入会条件がある。

<全国旅行業協会 入会条件>
  1. 旅行業法第6条に該当しないこと。
  2. 「選任」された「(総合・国内)旅行業務取扱管理者」が1名以上(従業員が10名以上の営業所では2名以上)常勤雇用されていること。
  3. 「財産的基準」(基準資産)として、旅行業第1種3,000万円以上、第2種700万円以上、第3種300万円以上、地域限定100万円以上あること。

同協会への入会金は以下のとおりである。

入会金表
(出典:一般社団法人全国旅行業協会ホームページ)

サービスの工夫

これまで記述してきたように、開業当初から海外旅行等を含めた幅広いサービスを展開するのは難しく、ここでは国内需要に的を絞ったサービス面の工夫について記載していく。

公益財団法人日本交通公社の「新型コロナウイルス感染症流行下の日本人旅行者の動向(その1)」(2020年6月)の調査結果をみると、新型コロナウイルス収束後の旅行意向は約7割が前向きとする結果が出ており、とりわけ若年層で前向きな結果が出ている。

これまで若者の旅行離れを指摘する声もあったが、コロナの反動により旅行したいという意識が若者の間で高まっているといえよう。

こうした傾向を踏まえ、若者に人気のある観光スポットなどの観光協会や宿泊施設等の協力を得て商品企画を行うなどの工夫が求められる。最近では、鬼滅の刃の聖地巡礼なども人気があるという。

福岡の竈門神社

必要なスキル

イ.旅程管理主任者資格

国内旅行のみに添乗できる「国内旅程管理主任者」と、国内に加え海外旅行の添乗も可能な「総合旅程管理主任者」の2種類がある。資格を取得するには、実務経験が必要なため、まずはツアーコンダクターとして働きながら資格取得を目指すのが良いだろう。

ロ.旅行業務取扱管理者資格

旅行業界唯一の国家資格で、旅行会社で旅行商品を販売するために必要な資格である。旅行会社を運営するためには、1営業所に付き1名以上の「旅行業務取扱管理者」を配置することが義務付けられている。ツアーコンダクターになるために必須の資格ではないが、独立・開業する場合は、自身で取得もしくは資格取得者の確保が必要となる。

旅行業務取扱管理者資格には、以下の3種類がある。

a.国内旅行業務取扱管理者
国内旅行商品のみの取扱い。一般社団法人全国旅行業協会が実施。

b.総合旅行業務取扱管理者(海外)
国内及び海外旅行商品の取扱い。一般社団法人日本旅行業協会が実施。

c.地域限定旅行業務取扱管理者
営業所のある市町村、隣接する市町村、観光庁長官の定める特定の地域の旅行商品のみの取扱い。観光庁が運営・実施。

上記のような資格が、最低限必要となるが、業務の幅を広げるためには、語学力を磨き、観光関係の知見を深め、顧客とのコミュニケーションを円滑にする能力が求められよう。こうして顧客とのコネクションを円滑にすることで富裕層・高所得者の獲得に努めることが重要である。

また、旅行先や滞在先との独自のネットワークを構築するためのコミュニケーション力も望まれる。こうしたコネクションが旅行の企画力を上げるのに有効に働くものと思われる。

そのほか、アフターコロナ時代を踏またツアーの企画やマーケティングのスキルを磨き独自の旅行を提案し、競合他社と差別化を図るような能力も求められよう。

開業資金と損益モデル

(1)開業資金

旅行会社の開業には営業拠点となる事務所が必要となるほか、旅行業務取扱管理者の確保が必須である。自身で旅行業務取扱管理者の資格を取得する、もしくは新たに資格所有者を採用する必要がある。事務所開設に伴う資金負担自体は、それほど大きくはない。

しかし、営業保証金のほか、財産的要件として基準資産額が定められていることから、開業当初から一定の資産を保有する必要があるため、自己資金を蓄えておくなどして、資産総額を増やす取組が必要である。

【店舗面積10坪の店舗で第3種旅行業を開業する場合の必要資金例】

必要資金例の表

(2)損益モデル

a.売上計画

年間営業日数、1日あたりの客数、平均客単価を以下のとおりとして、売上高を算出した。

売上計画表

b.損益イメージ(参考イメージ)

標準財務比率(※)を元に、法人形態の場合の損益のイメージ例を示す。

損益イメージ表

※標準財務比率は旅行業に分類される企業の財務データの平均値を掲載。出典は、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」。

c.収益化の視点

新型コロナウイルス感染拡大の影響を大きく受けている旅行会社では、店舗の縮小・削減などにより固定費を小さくしつつ、デジタル化に対応していくことが収益化につながる。

旅行大手のKNT-CTホールディングスでは、個人向け店舗を削減する一方で、パンフレットのデジタル化や申し込み手続きのオンライン化のほか、アバターを通じたリモートでの接客を導入するなど様々なデジタル化への対応を行っている。

また、従来海外旅行を楽しんでいた客層を取り込めるような、これまでは注目されていなかった新しいニーズを掘り起こした国内旅行を企画することが重要となる。ツアーコンダクターがいるパッケージツアーならではの独自プランを打ち出したい。また、オンライン観光やオンラインツアーなど、新たなサービスの導入も顧客獲得のための1つの手段である。

※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)