中小企業とSDGs

第26回:観光で平和な社会を「沖縄ツーリスト株式会社」

持続可能な開発目標(SDGs)は、2015年9月の国連サミットで採択された17のゴールと169のターゲットからなる16年から30年までの国際目標だ。日本政府もSDGs達成を通じた中小企業などの企業価値向上や競争力強化に取り組んでいる。
国の機関や専門コンサルタントの活動およびSDGs達成に貢献している中小企業などの先進事例を紹介する。

2022年 6月 6日

創業メンバー
創業メンバー

沖縄県那覇市の国際通り入口近くに本社ビルを構える旅行代理店、沖縄ツーリストは1958年の創業だ。沖縄県内で老舗の旅行会社として沖縄の本土復帰前から営業を始め、沖縄県の観光産業を支えてきた。同社はSDGsを意識して取り組んできたわけではない。組織として行ってきた取り組みそのものが「SDGsの体現」だった。SDGsという言葉が浸透してきたいま、同社は県内外にSDGsを周知する活動を行っている。

沖縄観光のリーディングカンパニー

同社は沖縄県内に10店舗、本土2店舗、海外1店舗、レンタカー部門は県内7店舗を構え、沖縄から県外・海外へ、県外・海外から沖縄への旅行者に、安全で快適な旅を提供している。1972年の本土復帰まで本土からの慰霊団受入れを手掛け、沖縄観光の黎明期を官・民・業界と手を携えて作りあげてきた。復帰後は海外ツアーを積極的に展開し、沖縄県の主要産業である観光産業のリーディングカンパニーの役割を担っている。

新型コロナウイルスの感染拡大で、沖縄県の観光産業は大きなダメージを受けた。同社も例外ではなかったが、社員は「地域に貢献することが最も大事」という共通認識で苦難を乗り越えてきた。

企業理念記した「心カード」

SDGsの取り組みを語る東良和 (ひがし・よしかず)会長
SDGsの取り組みを語る東良和 (ひがし・よしかず)会長

同社のシンボルは、社員に常時持ち歩くよう促している「心カード」だ。三つ折りの名刺サイズで、社是や社訓、行動指針、観光が取り組むべき使命が記されている。根っこにある考え方は「交流により相互理解を深め、平和の世界を築きます」「地域の自然や伝統文化を大切にします」「地域の経済発展に貢献します」という3本柱で、SDGsが注目される前から社内に浸透していた。

2004年から代表取締役を務める東良和会長は「観光は平和じゃないと成り立たない受け身の平和産業として取り扱われることが多いが、観光を通して平和な社会を築くことが、観光としての使命だ」と話す。他の産業はともすれば従事者の収入に差が出やすいが、観光業界は「明日から働く」ことが可能で、雇用を作れる産業だ。東会長は「雇用の受け皿として大きな役割を果たすことが平和を築き、維持し、貧困の撲滅に繋がる」と考えている。

「観光産業でお客様のQOL(人生の質)を上げるだけでなく、地域に根差した産業育成で受け入れる側のQOL(生活の質)も向上させる」という同社の考え方はSDGsに繋がる。東会長は沖縄県の小学校で使われている観光学習教材の編集委員も務め、「心カード」の理念を伝えている。

同社の根っこの考え方を示す「心カード」
同社の根っこの考え方を示す「心カード」

SDGsを旅行商品に

同社が委託販売する首里城復興バッジはSDGs17色でデザインされている
同社が委託販売する首里城復興バッジはSDGs17色でデザインされている

「誰ひとり取り残さない社会の実現」という同社の基本理念は、商品企画にも反映されている。県内のSDGsリーダーたちを訪ねて交流するバスツアーシリーズがある。使用するバスは走行時のCO2排出量ゼロのEVバス、ペットボトルの持ち込みは禁止でマイ水筒を持参、昼食はビュッフェ形式を止めて1人1膳としフードロスの軽減にも努めた。ツアー参加者はおのずとSDGsを意識するしかけで、取引先事業者と一緒に沖縄県民に「SDGsは難しく考えるものじゃない」というメッセージを発信した。

ツアー内容にSDGsの要素を取り入れることで「楽しくない」旅行になってはならない。商品設計に難しさはあるものの、観光を楽しみながら自然にSDGsを感じる中身にすることで、オンシーズンもオフシーズンも、季節に関係なく売れる商品企画をしていく方針だ。

同社は地元経済界へのSDGs普及活動にも熱心だ。東会長が副代表幹事を務める沖縄経済同友会では、同社の執行役員SDGs特命部長である栩野浩氏がSDGs委員会の委員長を務めていて、地元への広がりも同社が担っている。同友会が考案した「首里城販売 & SDGs応援バッジ」を委託販売し、沖縄経済同友会の会員企業社員をはじめ観光産業に従事する人たちに着用を勧めているのもそのひとつ。売り上げの25%を2019年10月に焼失した首里城復興や、子どもの貧困対策など沖縄県が進めているSDGs活動に寄付するためだ。

競争から共創へ

東良和会長(右)と栩野浩執行役員SDGs特命部長
東良和会長(右)と栩野浩執行役員SDGs特命部長

同社の制服は沖縄の正装「かりゆしウエア」だ。男性が青色、女性は赤色のシャツで、沖縄県民なら一度は見たことがあるはずだ。ツアーガイドは女性が担うことが多く、赤色がツアーの誘導役としてとても目立つために導入されたが、同社はいま、制服の色の統一を検討している。ジェンダーレスに対する取り組みを全社員で考えることの一環で、制服のイメージが浸透している同社が男女別だった色を統一すれば、ジェンダーレスを県民に対し広く周知できると考えている。

ほかにも2030年までに所有するレンタカーを全て電気自動車に変えることなど、SDGsに対する同社の取り組みは様々だ。だが、SDGsをアピールすることで同社だけが勝ち組になる気はまったくない。同社は沖縄観光のオフシーズンをどう盛り上げるか、「お客様」「事業者」「地域」「環境」の4者が栄える地域主導型観光を進めるにはどうすればいいのかを常に考えている。キーワードは「地域のみんなで盛り上げ、みんなで楽しく」、つまり「競争から共創へ」の実践だ。東会長は「県民、県内事業者はパートナー。地域とともに発展することがSDGs」と強調している。

企業データ

企業名
沖縄ツーリスト株式会社
Webサイト
設立
1958年10月
資本金
1億5510万円
従業員数
332人(2021年10月1日現在)
代表者
東良和 氏
所在地
沖縄県那覇市松尾1丁目2番3号
事業内容
旅行事業、OTA事業、レンタカー事業、保険販売事業

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