業種別開業ガイド

心理カウンセリング

2020年 3月 26日

トレンド

(1)心理カウンセリングの市場規模

日本における心理カウンセリングの市場規模は、約350億円と推定されているという(東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム「多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)」教育プロジェクト3「科学技術と共生社会」開催のイベント「オンラインカウンセリングとメンタルヘルスケア」より)。

(2)潜在的な需要が見込まれる心理カウンセリング

心理カウンセリングの需要は決して小さいわけではなく、カウンセリング的な要素を持つ占いの市場規模は、2兆円にものぼるといわれる。占いも精神的安定を提供する点で心理カウンセリングと通じる面があるが、顧客と依存的な関係性になってしまう可能性があるという点で心理カウンセリングとは切り離して考える必要がある。ただし、心理カウンセリングの潜在的需要を図るうえでの基準にはなろう。

(3)オンラインカウンセリング

スマートフォンの普及などにより、「オンラインでカウンセリングをする」ことについての技術的制約がかからなくなっている。オンラインカウンセリングのメリットのひとつは、顧客にとって、比較的気軽に受けられるという点である。日本ではまだカウンセリングへの理解が浅く、ビジネスとして成立させるのが難しいといわれている。しかし、オンラインカウンセリングに限っていえば、近年で「cotree」や「ココロワークス」などの複数のサービスが立ち上がっている状況である。

こうしたビジネスが成立しているということは、カウンセリングの潜在的な需要はある一方で、対面では抵抗があるという人が少なくないことを示していると考えられる。そのため、今後の開業にあたっては、オンラインカウンセリングも考慮する必要があるだろう。

ビジネスの特徴

特に資格がなくとも心理カウンセラーとして活動することは可能であり、開業に際しての障壁は低いといえる。

ただし、当然ながらカウンセラーとしての技量が問われるため、心理カウンセラーの学問的基盤となる臨床心理学などについて一通り習得し、技量を磨くことが重要である。また、2017年には心の健康に関する初めての国家資格である「公認心理士」に関する法律が施行され、翌年以降、年に一度の試験により国家資格者が生まれ始めている。こうした状況からみて、基本的には資格を取得することが重要だと考えられる。

開業タイプ

カウンセラーとして独立開業する際、最初に問題となるのが場所選びである。カウンセリングを行う場所として、以下のような場所が考えられる。

(1)レンタルスペース(貸し会議室)を利用する

開業時に比較的費用を抑えられるのは「レンタルスペース(貸し会議室)」である。開業初期のクライアントを獲得していかなければならない時期には、クライアントにとって交通アクセスの良い場所でカウンセリングを行うことも営業面での一つの戦略となる。レンタルスペースであればクライアントに合わせてある程度場所を選択できるため、そうした営業面でもメリットがあるといえる。

(2)オフィス・賃貸マンション・アパート等を借りる

カウンセリング専用の施設を用意することは、クライアントのプライバシーなどの面でメリットになる。ただし、開業当初のまだ不安定とも言える時期に、初期費用(敷金・礼金・設備)に加え毎月の家賃や光熱費を払わなければならなくなるという点ではリスクがある。クライアントが増え、事業が軌道に乗ってきた頃に専用の部屋を借りるなど、ある程度の見込みをもって選択するべき業態だ。

(3)飲食店(主にカフェなど)を利用する

開業に際して費用が抑えられるというメリットはあるものの、カウンセリングはクライアントのプライバシーが守られることが前提であるため、飲食店等不特定多数の人が出入りする場所で行うことは不向きな面もある。軽い悩みに対する相談など、気軽な雰囲気でのカウンセリングが有効な場合に使用するといった使い方が現実的だろう。

(4)自宅を利用する

開業にあたって初期費用を抑えるためには、自宅でカウンセリングを行うことも選択肢のひとつだ。ただし、クライアントのプライバシーには注意を払う必要がある。基本的には、家族等の同居人が不在の時間帯のみの使用とするべきだろう。

(5)オンラインカウンセリング

開業にあたって初期費用を抑えるためには、オンラインカウンセリングも有力である。インターネットを通してカウンセリングを行う業態であるため、オフィスをもたず自宅で始めることができる。また、顧客にとっても、対面に比べて心理的な抵抗が少ないという利点もある。

開業ステップ

(1)開業のステップ

あくまで一例として示すが、特に資格も必要なく、規制もないことから、必ずしもこのようなステップとはならない。

開業のステップ

(2)必要な手続き

特に法律による規制は無く、開業手続きは比較的容易である。税務署に行って開業届を提出し、氏名や納税地をはじめ、事業の概要などを記入することになる。

注意する点は、カウンセリングルームの名称を決めるにあたって、「○○クリニック」などの文言を使うことが禁じられていることだ。法律上、カウンセリングは医療行為にはあたらないため、精神科・心療内科と誤解されうる名称での開業はできない。

場所の確保

個人で開業する場合、最初から事務所を借りて営業を始めると、収入が安定していないため赤字になってしまう危険性がある。そこで、次の2つの方法が有効である。

  • 自宅をカウンセリングルームにする
    自宅を事務所として構える場合、電話、パソコン、プリンターなどといったOA機器に加え、名刺などのツールさえあれば開業は可能である。また、自宅からオンラインカウンセリングを行うという方法もあり、その場合は通信環境を整える必要性が生じる。
  • 予約時だけレンタルスペースを借りる
    綺麗な部屋が用意でき、自宅事務所と比較して「誰かの自宅」という心理的な不安も払拭できるため、クライアントを安心させる事が可能。また、OA機器などの設備も充実している場合があり、場所によっては飲み物などのサービスも提供できる。

必要なスキル

心理カウンセラーに関連する資格は複数ある。国家資格としては「公認心理士」、民間資格としては「臨床心理士」、「産業カウンセラー」、「認定心理士」などがある。資格がなくても開業することは可能だが、業務を行うにあたってはカウンセリングスキルを身につける事が必要となる。質の高いカウンセリングを行うためにも、実践的なスキルが習得できる資格選びが重要になるといえよう。

また雇用カウンセラーと違い、独立カウンセラーには学校や一般企業などの後ろ盾がないため、個人の信頼性が何よりも重要となる。カウンセラー自身が資格を持っているということは、そのままクライアントに対する安心感につながるという利点もあるだろう。

開業資金と損益モデル

独立カウンセラーの料金形態は、おおよそ1回30分・1時間・90分などと区切って設定しているケースが多い。1回ごとの料金は、クライアントに対するカウンセリングの方法によって異なるが、直接会って相談に応じる対面カウンセリングの場合、カウンセリング1回(1時間)あたりの平均相場は8,000円前後といわれる。その他、電話相談なら1分150円前後~、メール相談なら1往復1,000円前後のようだ。ただし、これらはあくまで一例のため、自身のカウンセリング内容や競合の状況を踏まえたうえで料金を設定するべきだろう。

また、対面・電話・メールのうち一種類だけを行うのではなく、複数のサービスを平行して行う業態も考慮したいところだ。対面によるカウンセリングを苦手とするクライアントに対し、電話やメールでの相談をオプションとして用意しておくことは有用と思われる。

(1)開業資金

【自宅を事務所兼用・レンタルオフィスも兼用するケース】
(単位:千円)

必要資金例の表

(2)損益モデル

a.売上計画

カウンセリング1回8,000円、年間休日120日で計算した場合

売上計画例の表

b.損益イメージ

上記、売上計画に記載の売上高に対する1日3件のカウンセリングを行ったケースについて売上総利益および営業利益の割合(標準財務比率(※))を元に、損益のイメージ例を示す。

損益のイメージ例の表

※標準財務比率は該当する業種の財務データがないため、推定値を掲載。

c.収益化の視点

基本的に原価率は0%であり、場所代を除けば運転資金などの支払いは発生しない業態である。ただし、創業期はクライアントの獲得や定着などに苦労する事が想定されるため、広告・宣伝やサービス内容、競合の状況などについては入念に考える必要がある。

たとえば、心理カウンセリングを受けたいと考えている見込み顧客は、何らかの精神的な不安を感じている場合が多い。そのため、どのようなカウンセリングが受けられるのか、カウンセリングに本当に効果はあるのか、といった懸念点を払拭するような宣伝・広告を展開することが重要になるだろう。そのほか、対面だけでなく、比較的気軽に受けられるオンラインカウンセリングにも対応するなど、サービスの多様化についても考慮したいところ。

また、クライアントとの信頼関係が重要な職業であることから、事業が安定するまでの収益源の確保は大切な要素になると考えられる。この解決策のひとつとしては、副業を行うことが挙げられるだろう。個人で開業する場合は勤務条件を自由に決められるため、空き時間をうまく使えば副業を行うことも可能なはず。あるいは、初めは心理カウンセラーを副業として行い、事業が軌道に乗ってから本格的に開業するという方法もある。

※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元に作成した一般的な内容のものであるため、開業を検討すう際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

同じテーマの記事

関連記事