2026年 4月 15日

ドラッグストアのイメージ01

トレンド

近年、ドラッグストアは単なる医薬品小売店の枠を超え、地域住民の生活を支える「身近な生活インフラ」としての役割も担い始めている。経済産業省の「商業動態統計」によると、ドラッグストア販売額は、2015年は約5兆3,609億円だったものの、2024年には約8兆9,199億円に上り、10年間でおよそ1.7倍に増加している。この間、一度も減少局面を経ることなく、一貫して増加傾向にあり、小売業全体を牽引する存在となっている。

成長の背景には、日本社会が直面する人口構造の変化や消費行動の変容がある。総務省の資料によれば、2040年には65歳以上の人口が全人口の約35%になると推計されており、今後も医療・健康への関心は一層高まると見込まれる。

65歳以上人口及び割合の推移

高齢化の進行に比例するように、医療費の増加が著しい。厚生労働省の資料によると、国民医療費は年々増加を続け、令和5(2023)年度は約48兆915億円(前年比3.0%増)となり、国民1人あたりの医療費は約38万6,700円(前年比3.5%増)に上る。

国民医療費・対国内総生産比率の年次推移

こうした社会情勢を受けて、政府は「セルフメディケーション(自主服薬)」の推進を重要政策として位置づけている。2017年から開始されたセルフメディケーション税制(特定の医薬品購入額の所得控除制度)などを通じ、国民が自らの健康管理を行い、軽度な体調不良についてはOTC医薬品(医師の処方箋なしで購入できる市販薬)で対応する動きを促進している。病院や薬局に加え、日常的に立ち寄りやすいドラッグストアが、健康相談やセルフケアの窓口として期待されるようになり、業界の追い風となっている。

また、消費者の購買行動の変化も、業界の成長を後押ししている。コロナ禍を経て物価高騰が続く中、消費者のなかにはより安価で、かつ1か所で買い物を済ませられる利便性を求める人も増えた。多くのドラッグストアがこのニーズに応え、医薬品だけでなく、食品や日用雑貨の取り扱いを強化するほか、プライベートブランド(PB)商品の拡充や、日用品・食品の低価格販売を行うなど、価格訴求力と品ぞろえの幅広さを両立させ、集客力を高めている。

さらに、美容・化粧品分野も大きく展開するようになった。従来は百貨店や専門店が主な販路であった化粧品市場だが、ドラッグストアでは手頃な価格帯の商品を豊富に取りそろえ、テスターを充実させることで幅広い層の顧客を獲得している。特にインバウンド需要が回復した2023年以降は、日本製の化粧品や医薬品を求める外国人観光客の来店が増加し、都市部のドラッグストアでは売上の大きな柱となっている。

ドラッグストアの運営面では、DX(デジタルトランスフォーメーション)の波が見逃せない。オンライン服薬指導の解禁、スマートフォンアプリによる電子お薬手帳の普及、生成AIを活用したパーソナライズされた商品推薦、ECサイトと実店舗を連携させたオムニチャネルなどが進んでいる。処方箋をオンラインで事前送信し、店舗での待ち時間を短縮するサービスや、ネットで注文した商品を最寄り店舗で受け取る「店舗受取サービス」など、消費者の利便性を高める取り組みが広がっている。

2025年の薬機法改正により、今後は薬剤師が不在でも、一定の条件を満たせば市販薬の販売を認める新制度が導入される見込みである。デジタル技術を活用した医薬品の販売管理や情報提供体制など、店舗運営に関わるルールへの対応がこれまで以上に重要となる。開業にあたっては、法令理解と体制整備を前提とした事業計画が欠かせない。

近年のドラッグストア事情

近年のドラッグストア業界は、店舗数・売上規模ともに拡大を続ける一方で、小売業全体を巻き込んだ企業間競争が熾烈化する局面に入っている。背景には、医薬品販売にとどまらない業態拡張と、地域ニーズに応じた店舗戦略の多様化がある。

経済産業省の資料で2024年のドラッグストア販売額の商品別内訳を見てみると、医薬品以外の売上構成比が高い。食品や日用品、化粧品といった生活必需品の販売が全体の売上を下支えしており、来店頻度の向上と安定収益の確保につながっている。特に、近年大手チェーン店で加速している「フード&ドラッグ(※)」戦略により、2024年の食品販売額は約2兆9,397億円に達している。

(※)ドラッグストアが医薬品や日用品に加え、食品、特に生鮮食品の品ぞろえを強化し、スーパーマーケットのように日常の買い物ニーズに応える経営戦略。

2024年 ドラッグストア販売額の商品別内訳

そして、近年の特徴として顕著なのが「調剤併設型」店舗の増加だ。政府は「かかりつけ薬局」の普及を推進しており、ドラッグストア各社も調剤室を併設し、処方箋応需による収益確保と、待ち時間での物販購入を促す事業モデルを強化している。

また、出店戦略にも変化が見られる。従来は郊外の大型店舗が主流であったが、近年は都市部や住宅密集地への小型店舗の展開が進んでいる。これは、コロナ禍以降の在宅勤務の定着や、高齢化、単身世帯の増加などにより、遠くの大型店よりも自宅から徒歩圏内の小型店で少量を頻繁に買うという需要が増加しているためと考えられる。

加えて、人口密度の高い住宅街は、まだ成熟していない有望な未開拓市場として注目されている。国では改正地域再生法により、住宅団地(複数の棟から成る集合住宅)でも店舗を建てやすくするよう規制緩和が進んでいる。さまざまな課題を抱える過疎地や、高齢化が進む地方都市・郊外住宅地では、ドラッグストアが食料品、日用品、化粧品、一般用医薬品の移動販売を行う例も出てきている。移動販売車にモニターを設置し、薬剤師がオンラインで健康相談や薬の相談に応じるサービスを導入するなど、社会課題の解決に貢献している。

ドラッグストア業界は、大手チェーンがM&A(合併・買収)による規模拡大を進める一方で、地域密着型の独立店舗にも発展の余地が広がる興味深い状況にある。地域に根ざした細やかな接客、地域住民のニーズに合わせた品ぞろえ、薬剤師や登録販売者による専門的な健康相談、在宅医療との連携など、大型店舗では実現しにくい「顔の見える関係」を構築できる点が差別化要因となるだろう。

ドラッグストアのイメージ02

ドラッグストアの仕事

ドラッグストアの仕事は多岐にわたり、現場運営と経営管理の両面を担う必要がある。主な業務には、以下のようなものがある。

  • 商品管理:仕入計画の立案、発注業務、売場づくり・陳列、在庫管理、使用期限の管理など
  • 販売・接客:レジオペレーション、顧客対応、登録販売者・薬剤師による相談対応など
  • 調剤業務(調剤併設の場合):処方箋に基づく医薬品の調剤、服薬指導、薬歴管理、レセプト(診療報酬明細書)業務など
  • 人材管理:スタッフの採用、教育・研修、シフト管理、資格保有者の配置管理、人事評価など
  • 店舗運営管理:機器点検、クレンリネス(清潔・衛生状態の維持・向上)、業務効率化(IT・システム活用)の検討など
  • 財務・会計管理:売上管理、経費管理、資金繰り、税務申告、数値分析など
  • 販促・集客:特売やキャンペーンの企画、チラシ作成、SNS運用、ポイントカード・アプリ運用、イベント企画・開催など
  • 法令遵守・リスク管理:薬機法(医薬品医療機器等法)をはじめとする関連法令の理解と遵守、店内ルール整備、防災・防犯対策など

ドラッグストアの人気理由と課題

人気理由

  1. 成長市場で、中長期的にも需要が見込まれる
  2. リピート利用が多く、固定客を獲得しやすい
  3. 地域ニーズに応じた展開が可能で、段階的に事業を成長させやすい

課題

  1. 競争が激しく、立地選定と戦略が重要となる
  2. 有資格者の確保と人材育成が課題となる
  3. 初期投資・運転資金の負担が大きい

開業のステップ

ドラッグストアの開業には、「個人での開業」と「フランチャイズ契約を結び開業」という2つの方法がある。現在、ドラッグストア業界のフランチャイズ募集は「土地オーナー向け(土地活用)」や「既存薬局の看板替え」が主流で、個人がまったくのゼロから参入できる案件は少なくなっている。参考として、それぞれの一般的な開業ステップを以下に示す。

開業のステップ

ドラッグストアに役立つ資格や許可

ドラッグストアを開業するには、医薬品の販売に関する資格や行政からの許可が必要となる。取り扱う医薬品の区分や店舗形態によって要件が異なるため、早めに管轄の保健所に事前相談を行うと良い。

許認可

調剤併設を行う場合

  • 薬局開設許可:処方箋に基づく調剤を行う場合に必要。調剤室の設置や設備基準が細かく定められている。
  • 保険薬局指定申請:公的医療保険の適用を受ける調剤を行うために必要な手続き。地方厚生局に事前相談を行い、要件や提出書類について確認する。

調剤併設を行わない場合

  • 店舗販売業許可:調剤を行わず、一般用医薬品(OTC医薬品)を販売する場合に必要。申請は、店舗所在地を管轄する保健所を通じて行う。構造設備基準の充足や薬剤師・登録販売者の配置などが要件となる。
一般用医薬品(OTC医薬品)の種類

場合により必要となる届出

  • 防火管理者選任届(一定規模以上の場合)
  • 食料品等販売業(調理加工を要さず直接摂食できる食品を販売する場合)
  • 酒類販売業免許(酒類を扱う場合)
  • 高度管理医療機器等販売業・貸与業許可(コンタクトレンズや一部の検査薬などを扱う場合)
    など

必要な資格

  • 薬剤師:第1類医薬品の販売および調剤業務を含め、全ての一般用医薬品を扱うことができる資格。情報提供義務があるため、第1類を扱う場合は営業時間内の常駐が求められる。
  • 登録販売者:第2類・第3類医薬品の販売が行える資格(実務経験などの要件を満たした「管理者」である必要がある)。薬剤師不在でもこれらを販売できるため、ドラッグストア運営において要となる資格。

<関連情報>

ドラッグストアのイメージ03

開業資金と運転資金の例

ドラッグストアの開業にかかる費用は、店舗の規模や形態によって大きく異なるが、ここでは個人での開業で、調剤併設を行わない小規模店舗(OTC医薬品+日用品+一部食品)を想定した開業資金と運転資金の例を示す(参考)。

なお、フランチャイズ契約を結び開業する場合は、本部へ支払う「加盟金」、契約履行や商品代金を担保する「保証金(契約保証金)」、開業前の「研修費」、歩合制または定額制による「ロイヤリティ」といったフランチャイズ特有の費用が加わるため、これらを含んだ資金計画が必要になる。その半面、物流・仕入れルートの開拓や店舗運営システムの選定、販促ツールの導入などは、本部主導で進められることが多く、これらを個別に手配する費用や労力は最小限で済む。ただし、内装や什器は本部指定の仕様(スペック)に従う必要があり、個人開業に比べてデザインやコストの自由度が低くなる傾向がある。

開業資金例
運転資金例

<活用できる支援制度例>

●日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」
新規開業者向けの融資制度で、無担保・無保証人での借入も可能

●商工会議所「小規模事業者持続化補助金」
販路開拓や業務効率化のための経費を補助

●経済産業省「デジタル化・AI導入補助金」
POSシステムや在庫管理システムなどのITツール導入を支援

その他さまざまな支援制度があり、低金利での融資や利子補給などの優遇措置がある場合が多い。各制度の公式ウェブサイトで、最新の情報や詳細な申請要件について確認すると良いだろう。

<参考サイト>

売上計画と損益イメージ

最後に、ドラッグストアを開業した場合の1か月の収支をシミュレーションしてみよう。
まず、売上イメージを以下のように設定する(例)。

売上計画

売上見込みから支出見込み(前項、運転資金例)を引いた損益イメージは次のようになる。

損益イメージ

上記は一例であり、立地や取扱品目(特に食品の比率や調剤の有無)によって利益率は大きく変動する。一般的に食品比率が高いと客数は増えるが利益率は下がり、医薬品・化粧品比率が高いと利益率は上がる傾向にある。

また、人件費や在庫管理といった固定費・変動費のコントロールは、収益性を左右する大きな要素である。売上データを活用した適正な発注や、シフト管理の工夫、ITやシステムの活用による業務効率化は、経費削減とサービス品質の両立につながる。加えて、医薬品の新製品情報、健康トレンド、法規制の変更など、常に最新情報をキャッチアップする姿勢が重要だ。

独立店舗として開業する場合、大手チェーンとの価格競争を避け、利益を確保するためには「専門性」と「付加価値」が鍵となる。地域住民の顔と名前を覚えた接客、高齢者への配達サービス、健康相談会の定期開催などをしていくことで、「地域の頼れる相談所」としての地位を確立できるだろう。ドラッグストアは単なる物販業ではなく、顧客の健康生活を支えるサービス業であるという意識が、成功への第一歩となる。

※開業資金、売上計画、損益イメージなどの数値は、開業状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)