業種別開業ガイド

セレクトショップ

2020年 3月 12日

本稿では、服飾雑貨のセレクトショップを中心に述べていく。服飾雑貨におけるセレクトショップとは、複数ブランドの商品を仕入れて販売するショップを指す。ショップ独自のコンセプトやテーマを設定することが重要となる業態である。

トレンド

(1)顧客の価値観の多様化

近年さまざまな業界において言われるのと同様に、服飾業界においても顧客の価値観の多様化が進んでいると考えられている。セレクトショップが扱うのは、ファッション性・トレンド性の高い中・高価格帯の商品だが、近年はトレンドを取り入れたうえで低価格の商品を販売するファストファッションも台頭してきている。そのため、今後はよりターゲット層を明確にした経営戦略が求められるだろう。

(2)百貨店と専門店の中間に位置する中高価格帯

かつては高品質で高級感のある衣料品が好まれたが、現在では自分に似合った物、必要な物しか購入しないという傾向がある。そのため、消費者ニーズを捉えた展開がより重要となっているといえる。こうした状況もあって、現在はセレクトショップで取り扱うような中・高価格帯の商品が堅調であるという(ただし、服飾業界のトレンドは変わりやすい点に注意が必要)。

(3)ECサイトでの販売が拡大

既存の流通システムに頼らずに、独自運営のウェブサイトで販売することも多い。商品広告もタレントやスポーツ選手などに限らず、インフルエンサー(世間に与える影響力が大きい行動を行う人物のこと。そのような人物の発信する情報を企業が活用して宣伝することをインフルエンサー・マーケティングと呼ぶ)広告を利用するなど、常に新しさを求め続けていく姿勢が重要となるだろう。

ビジネスの特徴

(1)セレクトショップの概要

セレクトショップとは、複数のメーカーやブランドの商品を扱う小売店である。もともと日用品店であれ、雑貨店であれ、洋服店であれ、小売店というのはさまざまな職人や業者や企業が作ったものを売ることはきわめて一般的なことであり、さほど特別なことではない。「セレクトショップ」の名称は従来型店舗の再位置づけという意味合いが強い。

したがって、一般的な小売業態と近い性質を有しており、労働集約型の業態であることから、販売費や管理費などの負担を抑えていくことが重要である。また、服飾は流行の移り変わりも激しいため、在庫管理の徹底なども重要である。

(2)服飾業界におけるセレクトショップの特徴

店舗側の経営者や担当者が選んだ商品を陳列・販売しており、当該店舗の経営者やバイヤーが、店舗の運営に重要な役割を果たす。

消費者から見ると、大手メーカーに属さない新進デザイナーが考案した商品や、まだ小規模の作り手(メーカー)で独自の店舗を構えるほどの資本力は無いような商品も販売しているということは特定メーカーのブランド専門店には無いメリットである。

また複数のブランドを組み合わせたコーディネートを提案できる可能性があるのも強みである。そのため、営業スタッフのファッションに関する知識なども重要な要素となりうる。

なお、もともと「セレクトショップ」であっても、自社(自店舗)で独自にロゴやラベルを創り、独自ブランド商品を販売するようになる場合もある。独自ブランド商品の販売比率が高くなった場合も「セレクトショップ」と呼ぶのか呼ばないのか、線引きははっきりしていない。

開業タイプ

(1)個人店舗型

個人で店舗を立ち上げる業態。商品力は当然として、ショップのコンセプトに合わせて立地を選ぶことも重要となる。持ち家での開業も可能だが、基本的には賃料がかかる点は考慮する必要がある。

(2)テナント型

百貨店やショッピングセンターなどに出店する形式の業態。出店先の商業施設のサポートを受けられるといったメリットがある一方、営業時間などの経営方針を施設に合わせる義務が生じるなどのデメリットもある。

(3)ウェブ店舗型

ウェブ上でネット通販を行う業態。実店舗型との大きな違いは賃料がかからない点である。ただし、広告・宣伝については、実店舗のように立地やテナントに頼ることが基本的にはできないという点に留意が必要。また、実店舗との兼業も可能である。

開業ステップ

(1)開業のステップ

開業のステップ

(2)必要な手続き

洋品店の営業に関して、特に営業許可等は必要としない。ただし、通信販売を行う場合は特定商品取引法の規制対象となる。

競争力を高めるための施策

立地条件としては、ファッションショップが立ち並ぶ渋谷や表参道、青山と言った集客力が高い地域への出店が有利である。また、こうした地域は街の名前がそのままブランド価値を高める効果がある点もメリットとして挙げられる。ただし、近年はインターネット販売が台頭し、立地条件はそれほど影響力の強いファクターでは無くなったともいえる。

やはり売上のキーは商品力にあり、コンセプトの明確化やトレンドの把握など、オーナーやバイヤーの力量がより重要になりつつある。

必要なスキル

独自の品揃え、スタッフのファッションセンス、商品知識、トレンド知識に加え、接客対応なども求められる。また多様化するニーズに対応するために新しい仕入ルートの開拓なども重要である。

開業資金と損益モデル

(1)開業資金

【繁華街に50平米の店を開業】

必要資金例の表

(2)損益モデル

a.売上計画

年間営業日数、1日平均来客数、平均客単価を以下の通りとして、売上高を算出した。

売上計画例の表

b.損益イメージ

上記、売上計画に記載の売上高に対する売上総利益および営業利益の割合(標準財務比率(※))を元に、損益のイメージ例を示す。

損益のイメージ例の表

※標準財務比率は喫茶店に分類される企業の財務データの平均値を掲載。
※出典は、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」。

c.収益化の視点

取扱商品が多様であるため、仕入の適否が売上や利益を大きく左右する。仕入面では企画開発力、商品力、情報力、リテールサポート力のあるメーカーや問屋と取引があるか、仕入先から積極的に情報を得て計画的に仕入を行っているか、展示会や見本市、問屋街などに直接出向き、トレンドをキャッチしているか、新しい感覚を持つ若手スタッフを積極的に活用しているかが問われる。また資金面では適正な店舗の改装やECマーケティングなどの投資が行われているかにも注意したい。

※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元に作成した一般的な内容のものであるため、開業を検討すう際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)